CAFC判決 Fox
Factory v. SRAM, LLC, 2019年
12月 18日 OPINION
by JUDGE Prost (Chief Judge): Wallach and Hughes 非自明性の主張(客観的考察事項とクレームとのNexus) Summarized
by Tatsuo YABE – 2020-01-18 |
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本事案は103条(自明性)判断における2次的考察事項(商業上の成功など)と問題となるクレームとのNexus(関連性)に関して判示した。即ち、問題となる特許クレームにAとBの特徴のみが規定されており、商業上の成功を収めた製品がAとBに加えてCという重要な特徴を備えている場合にクレームと2次的考察事項との間にNexus(緊密な関連性)が存在すると言えるのかが争点となった。(注意:明細書にはA、B、Cは開示されているが独立クレームにはCは規定されていない。)
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CAFCはNexus(当該関連性)を主張するためにクレームと問題となる製品の”Coextensiveness”(範囲の同一性)という要件を説示した。即ち、2次的考察事項を検討する上で、クレームと問題となる製品との範囲が完璧に合致することはありえないとしても問題となる製品が商業上成功(2次的考察事項)した理由がクレームされていない特徴(無視できない重要な特徴)にも起因する場合にはCoextensivenessの挙証は困難となる。言い換えるとクレームされていない特徴Cが商業上の成功に対しての貢献度が高ければ高いほどCoextensivenessの挙証は困難となる。(以上筆者)
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■ 事件の背景:
SRAMは自転車用チェインに対する特許(本事案では027特許)を有しており、競合他社であるFOXは当該特許を無効にするべく2件の先行技術を基にPTABでIPR手続きを開始した。2件の先行技術によって027特許独立クレーム1の特徴は全て満たされ、当業者が2件の先行技術を組み合わせることに対する動機づけが存在したことをPTABは認めた。しかしPTABは2次的考察事項(SRAMの問題となる製品の商業上の成功)によって027特許独立クレーム1の非自明性(特許性)を維持した。FOXは審決を不服としCAFCに控訴した。
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■ 特許権者:SRAM
■ 関連特許:USP No.
9,182,027
■ 特許発明の概要:
自転車用チェインに係合するギヤスフロケット(chain-ring)に関する発明で、当該ギヤスフロケット(chain ring)には第1グループのギヤ(58:厚い)と第2グループのギヤ(60:薄い)で構成されており、第1ギヤ58と第2ギヤ60が互い違いに配列されており、それぞれのギヤの頂点部がギヤスフロケット(chain-ring)の厚み方向(進行方向に直行する方向)の中心線よりも内側(反ペダル側)にオフセットしているという発明。
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SRAMの市販品はAmazonでも購入可能で例えば以下のようなものがある(参考):
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■ 代表的なクレーム:
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クレーム |
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A bicycle
chainring for engagement with a drivetrain, comprising:
a plurality of teeth formed about a periphery of the chainring, the
plurality of teeth including a first
group of teeth and a second
group of teeth, each of the first
group of teeth wider than each
of the second group of teeth
and at least some of the second group of teeth arranged alternatingly and
adjacently between the first group of teeth, wherein each of the plurality
of teeth includes a tooth tip;
wherein a plane bisects the chainring into an out-board side and an
inboard side opposite the out-board side; and
wherein at least the majority of the tooth
tip of at least one of each of the first and second groups of teeth is
offset from the plane
in a direction toward the outboard side of the chainring. |
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■ 争点に関して:
SRAMのX−Syncの市場での成功(2次的考察事項)と027特許クレームとの間にNexus
(“緊密な関連性”) はあるか?
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027特許クレーム1では第1グループの歯と第2グループの歯の厚みが異なる(以下異なる厚み)ことと中心線より歯の頂点が内側にオフセット(以下オフセット)していることを規定している。2件の先行技術「JP5,285,701(Shimano)」と「US5285701
(Parachinni)」を組み合わせることで027特許クレーム1の特徴の全てが満たされると理解した。Shimanoには「歯厚が異なる」特徴がずばり開示されており、Parachinniには「オフセット」の特徴が開示されている。
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Shimano |
Parachinni |
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然し、PTABは2次的考察事項(SRAMのX-Syncの市場での成功を示す証拠)と027特許クレームとの間にNexusがあることが推定されるとし、FOX(IPR申請人)は当該推定に反駁していないと判断した。PTABは2次的考察事項とクレームとのNexus(緊密な関連性)に対して以下のように述べた:
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…the
Board explained that the presumption of nexus only applies when a product is
“coextensive” with a patent claim. Id. at *7. The Board interpreted
the coextensiveness requirement to mean only that the claims must broadly cover
the product that is the subject of the secondary considerations evidence.
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即ち、製品(商業上の成功の対象となる製品)とクレームとが同じ範囲(Coextensive)の場合にNexusがあると推定される。PTABはCoextensiveという要件は、対象製品(2次的考察事項の対象)がクレームでカバーされる場合に満たされると述べている。
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FOXはSRAMの製品は問題となるクレームとの間にCoextensivenessはないと反論した。即ち、SRAMの当該製品(X-Sync)が商業上成功した(スフロケットからチェインが脱落し難い)のはX-Syncに027特許クレームで規定された「異なる厚み」と「オフセット」に加えてチェインの隙間に対して80%以上の厚みを有する(027特許の明細書には開示されているが027特許クレーム1には規定されていない)ことだと述べた。言い換えると、SRAMの製品には027特許でクレームされていない多くの特徴を備えている。
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注意:チェインの隙間に対して80%以上の厚みの歯(以下:「80%以上の歯厚」)という特徴は027特許の明細書に開示されているが027特許クレームには規定されていない、後に分割出願で権利化されたUSP9291250のクレームで規定されている。SRAMもこの事実を認めており、「80%以上の歯厚」という特徴が250特許にとって非常に重要な特徴であると述べている。
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上記事実を踏まえたうえでもPTABはFOXがNexusの推定を否定(反駁)できていないとして027特許クレームの非自明性の判断を維持した。
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■ CAFCの判断
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2次的考察事項(商業上の成功などの証拠)が対象となる製品に起因するもので、且つ、当該製品が特許明細書で開示され、クレームされていることを特許権者が挙証できる場合に特許権者は2次的考察事項と特許クレームとの間にNexusがあるという推定を享受できる。
As
first recognized in Demaco Corp. v. F. Von Lang-sdorff Licensing Ltd., a
patentee is entitled to a rebuttable presumption of nexus between the asserted evidence of
secondary considerations and a patent claim if the patentee shows that the
asserted evidence is tied to a specific product and that the product “is the
invention disclosed and claimed.” 851 F.2d at 1392 (emphasis added).
That is, presuming nexus is appropriate “when the patentee shows that the
asserted objective evidence is tied to a specific product and that product
‘embodies the claimed features, and is coextensive with them.’” Polaris
Indus., Inc. v. Arc-tic Cat, Inc., 882 F.3d 1056, 1072 (Fed. Cir. 2018)
(quoting Brown & Williamson Tobacco Corp. v. Philip Morris Inc., 229
F.3d 1120, 1130 (Fed. Cir. 2000)). Conversely, “[w]hen the thing that is
commercially successful is not coextensive with the patented invention—for
example, if the patented invention is only a component of a commercially
successful machine or process,” the patentee is not entitled to a presumption
of nexus. Demaco, 851 F.2d at 1392.
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In
other words, a nexus exists if the commercial success of a product is limited to
the features of the claimed invention.” (citation and quotation marks
omitted)); Therasense, 593 F.3d at 1299. 即ち、市場で成功を収めた製品がクレームされた発明の特徴に限る場合にNexusがあると判断される。
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CAFCはPTABの判断を否定した。その主たる理由は027特許の独立クレームには「80%以上の歯厚」という特徴は規定されていないので当該特徴を含むSRAMのX-Sync(対象製品)とはCoextensive(同一の範囲)の関係があるとは言えない。
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当然のことながら問題となる製品とクレームの範囲が完璧に対応するということは稀ではあるが、Nexusを証明するためのCoextensiveness(権利範囲と対象製品の同一性)の要件は商業上成功収めた製品(2次的考察の対象)が特許の明細書で開示され、且つ、クレームされた発明であること。言い換えるとクレームされていない特徴(問題となる製品に存在する特徴)が些細なもの(Insignificant)であればNexus(Coextensiveness)の推定は否定されない。しかし本事案では特許権者も認めるように「80%以上の歯厚」という特徴が非常に重要であり、問題となる027特許では規定されていない。従って、SRAMのX-Sync製品は027特許の独立クレームに対する発明とは言えない。
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SRAMの主張(PTABも同意)、即ち、2次的考察の対象となる製品がクレームの権利範囲に入りさえすればNexus(Coextensiveness)が推定されるとすると、当該Coextensiveness(権利範囲と製品の同一性)の要件が殆ど意味をなさなくなる。例えば、特許Aには2種類のクレームがあると仮定し、第1群のクレームには特殊なブレーキパッドの詳細な構造と(当該特許Aの)第2群のクレームにはブレーキパッドを含む車両(ブレーキパッドに対しては簡略的に規定)を規定していると仮定する。この仮想特許Aにおいて車両の商業上の成功という証拠(2次的考察事項:ブレーキではなく車両に対する賞賛)があった場合に当該証拠はブレーキに対するクレームとNexusがあると推定されることはない。言い換えると、商業上の成功を収めた機械を構成する非実質的な汎用部品に2次的考察事項とのNexusはない。
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結論:
PTABの判断(問題となる製品がクレームの権利範囲に入ってさえいれば当該クレームと2次的考察事項にNexusが推定される)は間違いである。依って本事案を破棄差し戻しとする。差し戻し審においてSRAMは027特許の独立クレームと2次的考察事項とのNexusを挙証する機会がある。即ち当該Nexusを証明するには、SRAMが2次的考察事項(商業上の成功)は027特許の独立クレームの2つの特徴、「歯厚の違い」と「オフセット」に起因することを挙証する責任を負う。
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