CAFC判決 Forest
Lab v. Sigmapharm 2019年
03月 14日 The invention relates to…という記載に関する判決 OPINION by JUDGE MOORE Summarized by Tatsuo YABE –
2019-05-13 |
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本事件で問題となった特許発明は精神疾患の症状を緩和するアセナピンの服用手法に関する。即ち、従来の水と一緒に飲み込むという服用の仕方とは異なり舌下(“sublingual”)或いは頬内(”buccal”)で服用する(溶解する)という特徴で権利化された。当該発明によってアセナピンの従来の服用手法に起因する副作用を軽減できるというメリットが明細書に開示されている。
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本事案の第1の争点は明細書で
[i]“the invention relates to…”;[ii]”the
title of the invention”;及び[iii]本願発明のメリットの記載によるクレームの文言解釈への影響に関する。即ち、[i];
[ii]; [iii]での開示に整合性があり、それらと非整合或いは異にする発明の開示がない場合には「the
invention relates to “X”」の”X”をクレームの権利範囲に読み込んで解釈されても仕方ないということが学べる。第2の争点は自明性の判断に関する。興味深い点は本事案特許の発明者にしか認識されていなかった問題点(アセナピンを飲み込むという服用に起因する心毒性)を解決したという事実が認定され当業者にとって予期せぬ結果(“unexpected
result”)を得たと地裁は判断した。然し、CAFCは当該地裁判断を否定した。即ち、CAFCは当業者に周知されていなかった問題点を解決したということ自体でunexpected
resultを挙証したことにはならないという(例:以下参照)。寧ろ、製剤を飲み込むという服用の仕方を困難とする患者が多くいたという事実(地裁でこの点が明白ではない)があれば舌下投与(あるいは頬内投与)をすることに対する動機付けとなるとし地裁にこの点を明白にするように差し戻した。[注意:非自明性を挙証するのに”unexpected
result”は強力な証拠ではあるが、非自明性はそれのみ依存するわけではない。]
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例)例えば、非常に濃いコーヒーを飲むことで胃があれるという問題が当業者(コーヒー飲み)に全く知られていなかったと仮定した場合に、ある人が濃いコーヒーをいきなり飲み込むのではなく口内で15秒程度味わって(含んで)飲み込むことで胃があれないということを発見してもそれ自体では
unexpected resultには直接つながらないということでしょうか?
即ち、unexpected resultを挙証するには当業者に解消されるべき問題点の認識があるということが条件となるみたいです。(以上筆者)
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■ 特許権者:Forest
Laboratories
■ 特許USP 5,763,476 (以下476特許と称する)
■ 被疑侵害者: Sigmapharm
Laboratories
■ 発明の概要:
Asenapine(Saphrisという商品名で販売)という精神疾患に起因する症状を緩和する製剤に関する発明で、タブレットを水と共に飲み込んで服用するのに対して、476特許発明では舌下或いは頬内の空間(以下単に頬内と称する)で服用することに特徴がある。
本事件には4つの争点があり、ここでは2つの争点に絞りその概要を記す。
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■■ 第1争点:
第1争点はクレーム1のwherein節で「”the
composition disintegrates within 30 seconds in water at 37 degrees(37度の水液に30秒以内で分解する)”」と記載されているがその意味合いを「舌下或いは頬内(buccal)で薬を溶融させる」という特徴を読み込んで解釈するか否かである。
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476特許には独立クレームが4項あり、本事件で問題となったクレームは以下の通り:
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Claim
1 |
Claim
4 |
A
pharmaceutical composition comprising as a medicinally active compound: trans-5-chloro-2-methyl-2,3,3a,
12b-tetrahydro-1H-dibenz[2,3:6,7]oxepino[4,5-c]pyrrole (アセナピンを意味する)or
a pharmaceutically
acceptable salt thereof; wherein
the composition is a solid composition and disintegrates within 30
seconds in water at 37° C. |
A
method for treating tension, excitation, anxiety, and psychotic and
schizophrenic disorders, comprising administering sublingually or
buccally an effective amount of a pharmaceutical composition comprising trans-5-chloro-2-methyl-2,3,3a,
12b-tetrahydro-1H-dibenz [2,3:6,7] oxepino [4,5-c] pyrrole (アセナピンを意味する)or
a pharmaceutically acceptable salt thereof. |
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クレーム4ではsublingually(舌下で)またはbuccally(頬内で)で薬を服用するという特徴が明白に規定されているがクレーム1ではwherein節で”the
composition disintegrates within 30 seconds in water at 37 degrees(37度の水液に30秒以内で分解する)”と記載されている。
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地裁はクレーム1の当該特徴(wherein
clause)の意味合いを舌下又はbuccally(頬内)で服用する製剤であると解釈した。その理由は少なくとも以下の4点ある:
[1] 476特許の明細書に”the
invention relates to a sublingual or buccal pharmaceutical composition (476
Patent col. 1: 6-7)”と記載されているので地裁判断の強い根拠となる。
[2] 476特許の明細書に舌下或いは頬内服用のメリット(先行技術と比べたメリット)が記載されている。
[3] 476特許の発明の名称として「Sublingual
or Buccal Pharmaceutical Composition」と記載されている。
[4] 476特許の明細書(Col.
1:59-61)に“disintegrates within 30 seconds in water
at 37 degrees”は製剤を早く分解する(“rapid
disintegration”)という趣旨で、口内で服用することで製剤が早く分解することが記載されている。
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※476特許明細書コラム5にTable1(以下)があり、PO(飲み込む服用)とSL(舌下による服用)での心拍数の変動(10-20sのビーグル犬による)を比較している。舌下での服用により心拍数の変動はかなり顕著に抑えられるという結果が出ている(筆者)。
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CAFCは上記地裁のクレーム解釈に明白な間違いはないと支持した。
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■■ 第2争点:
第2争点は476特許クレーム1とクレーム4の非自明に関する。
地裁は以下の理由で476特許のクレーム1とクレーム4の非自明性を認めた。
[1] アセナピンの製剤を舌下或いは頬内で服用することに対する動機づけがない。
[2] 舌下或いは頬内で服用することでアセナピンの副作用(心毒性)に対する解決手段になるということは予期せぬ効果(“unexpected
result”)である;
[3] 精神疾患に対する製剤の服用における安全性、有効性、を満たすという長期に渡る必要性(“long-felt
need”)を満たす。
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CAFCの見解:
An
invention is not obvious simply because all of the claimed limitations were
known in the prior art at the time of the invention. Instead, we ask “whether
there is a rea-son, suggestion, or motivation in the prior art that would lead
one of ordinary skill in the art to combine the references, and that would also
suggest a reasonable likelihood of success.” Smiths Indus. Med. Sys., Inc.
v. Vital Signs, Inc., 183 F.3d 1347, 1356 (Fed. Cir. 1999). The motivation
“can be found explicitly or implicitly in the prior art references themselves,
in market forces, in design incentives, or in ‘any need or problem known in
the field of endeavor at the time of invention and addressed by the
patent.’” Arctic Cat, 876 F.3d at 1359 (quoting KSR Int’l Co. v.
Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 420–21 (2007)).
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被疑侵害者側は患者の迎合性及びある特定の患者にとっては薬を飲み込むことが困難でありそれが舌下或いは頬内で服用するということに対する動機付けになると主張している。しかし特許権者側の専門家証言においては精神疾患のある患者に薬を舌下で服用させることはとても困難なことであると証言している。CAFCは薬を飲み込むことの困難さが舌下或いは頬内での服用に対する動機になるという明白な証拠があるのかに焦点を絞り検討する。
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薬には多様な服用の仕方があるということのみが動機付けとなることを否定した地裁の判断を支持する。当時、当業者には周知されていなかった問題点を発明者が発見しそれに対する解決手段を見出したと(地裁は)認識した。開発者であるOrganon氏によるとアセナピンを静脈注射或いは飲み込むという手法で服用すると厳しい心毒性がでることを発見し、その後、アセナピンの改良を中断した。しかしその後暫くしてビーグル犬を使ったテストでは薬を喉に投与すると心拍数が上がるという明白な傾向があり、舌下で服用させるとそのような傾向はないことを発見した。
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通常の薬の服用手法(飲み込む)によるとアセナピンは一次通過で代謝作用を受ける(アセナピンの主成分が代謝物となる)が、舌下による服用では一次通過での代謝作用を回避するアセナピンの量が増える。依って、地裁は心毒性を伴う服用という問題点を舌下による服用が解決手段になるということは予期できなかったであろうと判断した。
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地裁の採用した証拠及び証言によると種々の関連事実が認められるが、究極的には476特許のクレームによって周知でなかった問題点が解決されたということ、及び、当該証拠・証言(舌下で服用することの困難さ)によると当該解決手段は否定される(teach-away)と判断した地裁判決に明白な間違いはない。然しながら、地裁は薬を飲み込むという手段で服用することが困難な患者に対する迎合性(解決策)が(476特許発明に至る)動機付けになったか否かに対して明白な結論を出していない。依って、この点に絞り地裁に差戻しとする。
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■ 地裁が認めたLong-Felt
Needに関して:
“Evidence
of a long felt but unresolved need tends to show non-obviousness because it is
reasonable to infer that the need would have not persisted had the solution been
obvious.” WBIP, LLC v. Kohler Co., 829 F.3d 1317, 1332 (Fed. Cir.
2016). Whether or not such a long-felt need ex-isted is a question of fact. Bristol-Myers
Squibb Co. v. Teva Pharm. USA, Inc., 752 F.3d 967, 978 (Fed. Cir. 2014).
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種々の議論が交わされたが精神疾患に対する製剤は幾種もあるがそれらには副作用がつきもので、Saphrisはその副作用を軽減したということは認識される。しかしこの事実認定のみで非自明性が挙証されるわけではない。但し、地裁が本事実認定を非自明性の挙証にプラスと理解したことに間違いはない。
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■ 地裁が認めたUnexpected
Resultsに関して:
A
showing of unexpected results can support a conclusion of non-obviousness. See
United States v. Adams, 383 U.S. 39, 51–52 (1966). In considering
unexpected results, courts ask whether “the
claimed invention exhibits some superior property or advantage that a person of
ordinary skill in the relevant art would have found surprising or un-expected.”
In re Soni, 54 F.3d 746, 750 (Fed. Cir. 1995). While we have permitted evidence
from after the patent is granted to be considered in assessing whether there
are unexpected results, Knoll Pharm. Co. v. Teva Pharm. USA, Inc., 367
F.3d 1381, 1385 (Fed. Cir. 2004), the results must be “unexpected by one of
ordinary skill in the art at the time of [the] application,” In re Geisler,
116 F.3d 1465, 1470 (Fed. Cir. 1997).
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地裁は476特許で記載されている舌下での服用によって精神疾患の製薬に起因する心毒性の問題を解決できるということは当業者にとって驚きであり、且つ、予見不能であったと判断したが、この判断は正しくない。地裁は当該製薬を他の手法で服用することに起因する心毒性の問題点を開示した先行技術はないと理解している。即ち、発明がなされた時点において他の手法による服用で生じる心毒性の問題を認識していなかったということになる。依って、当業者は舌下での投与で周知でない問題点が解決されたという事実を知ったとしても驚くことはなかったであろう(そもそも問題を認識がなかったわけだから)。 依って予期せぬ結果に対する地裁の判断は誤りである。
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地裁判決を一部破棄、差戻し(「薬を飲み込むという手段で服用することが困難な患者に対する解決策が476特許発明に至る動機付けになったか否か」という点に絞り再審理すること)
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