FLO HEALTHCARE v. Kappos (Director) & RIOUX VISION, Inc.,
Fed Cir. 2011-1476
October 23, 2012
本事件の当事者にとっての争点は「高さ調整機構」というクレーム用語が112条第6項解釈されるか 否かであった、しかし CAFCは、「PTO審判部のクレーム解釈をCAFCで判断するときの基準(Review STD)」に関して Intra-Circuit Conflictを認め、大法廷での審理の必要性を名言した。
判決文(原文)
Summarized by Tatsuo YABE November 06, 2012 |
本事件の当事者にとっては、FLO社の6721178特許クレーム8の「高さ調整機構」の解釈に112条第6項を適用するべきか否かが争点であった。 当該争点に関してはどちらに判断されたとしても最終結論(FLO社のクレーム8の高さ調整機構に垂直ビームという要件を読み込んで解釈はできないので引例によって無効)に影響はなかった。 本判決の多数意見はPlager判事によるものである。(112条第6項の適用に関する本事件の要約は下段参照)
しかしPlager判事は、多数意見とは別に、PTO審判部のクレーム解釈に対するCAFCの審理基準(Review STD)がCAFC内において不明瞭になっていることを認め、且つ、謝罪し、CAFCの大法廷での審理が必要な時期に来ていることを言及した。Plague判事によると、CAFCでは3つの審理基準をその場凌ぎで適用してきた、即ち、(1)Morris基準:PTO(審判部)のクレーム解釈は妥当(reasonable)であったか否かの基準で判断する;(2)Baker Hughes基準:de novo review、即ち、PTOのクレーム解釈には一切の敬意を支払わない(一から検討し直す);(3)Abott Diabetes Care基準(2012年9月28日判決):de novo reviewであるが、CAFCにおいても行政庁(PTO)でのクレーム解釈に準じ、クレームに合理的に最も広範な意味合いを与えて解釈する。 Plager判事は、どの基準をCAFCが採用するべきかは言及せずに、PTO及び発明者に対して明白な方向性を示す共通の基準を大法廷で審理し、統一する時期に来ていると述べている。 また、Newman判事もCAFCの設立趣旨に鑑み、CAFCとして行政庁(PTO)の結論に対する審理基準を設定する必要性を述べている。
今回の判決でPlager判事およびNewman判事が、大法廷での審理の必要性を述べている理由は、クレームの有効性が問題になる場合に、下級審が行政庁(PTO)の場合と裁判所(連邦地裁)の場合とでクレーム解釈の判断基準が異なるので、当該判断を基に控訴があった場合にCAFCにおいてどの基準で審理をするべきかに混乱が生じているということです。 即ち、下級審がPTOの場合にはクレームに対して、Broadest Reasonable Interpretation(*1)で解釈するのに対して、裁判所においては正しいクレームの解釈は何かということでMarkmanヒアリングによって裁判官がクレームの解釈を決定するわけです。 言い換えると、PTOでは合理的に最大限広く("broadest reasonable interpretation")解釈し、地裁では裁判官が最終的に決定(Correctness)した権利範囲となる。
(*1)MPEP 2258: Scope of Ex Parte Reexamination
Original patent claims will be examined only on the basis of prior art patents or printed publications applied under the appropriate parts of 35 U.S.C. 102 and 103. See MPEP § 2217. During reexamination, claims are given the broadest reasonable interpretation consistent with the specification and limitations in the specification are not read into the claims (In re Yamamoto, 740 F.2d 1569, 222 USPQ 934 (Fed. Cir. 1984)). 以下略す。
MPEP2658: Scope of Inter Partes ReexaminationのセクションでInter Partes ReexaminationはEx Parte Reexaminationとは手続き面で異なるが実体面はEx Parte Reexamと同じと記載されている。
Plager判事の追加意見においては、CAFCが行政庁(PTO)からの控訴においてクレームを判断するときの基準を明確にするべきであるということに力点があり、Newman判事の追加意見においては、行政庁からの控訴であろうと、裁判所からの控訴であろうと(下級審がどこであれ)、CAFCにおけるクレーム解釈は統一された手法で行われるべきである(即ち、どちらのルートから控訴されようがCAFCにおけるクレーム解釈は同じであるべき)という点に力点がおかれている。 近未来に、CAFCの大法廷において手頃な事案に対して、Plager判事とNewman判事が提起しているIntra-Circuit Conflict(CAFC内で、行政庁が判断したクレーム解釈に対する法適用にコンフリクトが生じている)に関して審理される日を待ちたい。
(112条第6項の適用に関する本事件の要約)
特許権者FLO(米国特許第6721178号)は同特許を侵害しているとしRiouxをGerrgia連邦地裁に提訴した。Riouxは提訴を受けて同特許に対して当事者系再審査を請求し、PTOにて審理(再審査)がなされた。再審査の結果、53項のクレームが許可、16項のクレームが許可可能(独立形式に補正)と判断され、新たに7つの拒絶理由が出された。 7つの拒絶理由において特に問題となったのは、「高さ調整機構("height adjustment mechanism")」という用語の解釈であって、FLOは当該要素をMeans +Functionクレーム要素と理解するべきであり、そうした場合には引例と識別可能であると主張した。 しかし、審査官の同意を得ることはできず、FLOは審判請求をし、審判においては、審判官は当該構成要素は112条第6項のMeans+Functionとして解釈することに同意した。 しかしMean+Functionで解釈したところで、垂直ビームを「高さ調整機構」の必須要件としてクレーム解釈することはできないとし、然るに、審査官(再審査部門)の判断(即ち、引例Gross及びErgotronにFLO特許クレームの「高さ調整機構」に相当するものが開示されている)を支持した。 拠って、問題となる拒絶クレームは引例によって拒絶するという再審査結果が支持された。
米国特許第6721178号の問題となったクレーム8と図4Aと図10A
8. A mobile workstation, comprising:
a moveable chassis;
a substantially horizontal tray supported by the chassis that defines a work surface;
a height adjustment mechanism (「高さ調整機構」)for altering the height of the horizontal tray;
a display screen adjacent to the work surface that is tiltable relative to the work surface;
an input device tray supported adjacent to the work surface; and
a power unit supported by the chassis for supplying power to the display screen.
(特許権者FLOは、クレーム8の「高さ調整機構」に垂直ビーム72、252を読み込んで解釈するべきであると主張した)
Gross引例 (高さ調整機構に相当する構成が開示されている)
Ergotron引例(高さ調整機構に相当する構成が開示されている)
上記審判部の審決を不服としFLOはCAFCに控訴した。 CAFCは「高さ調整機構」の解釈に112条第6項を適用した審判部の判断は間違いであるとした。 用語にmeansを伴うことで出願人が当該用語を112条第6項に基づく解釈を意図しているという推定が働くが、meansという用語を使用しない場合には出願人は112条第6項の解釈を意図していないという推定が働く。 両方の推定はRebuttable Presumption(反論によっては推定を破棄できる)である。Personalized Media Commc'ns LLC v. Int'l Trade Comm'n (Fed Cir 1998)。meansを使用しないクレーム用語の推定(112条第6項の解釈をしない)を覆すには、クレームの用語が十分に明白な構造体を規定していないこと、或いは、機能を果たすための十分な構造体を規定していない場合には可能となる。 審判部は当該推定(112条第6項の解釈をしないという推定)を覆すことができたと判断したが、CAFCはそれに同意しなかった。 meansを使用しないクレーム用語の解釈に対して112条第6項を適用するには、当該用語に一切の構造体と理解されるものが存在しないということを立証できない限り、112条第6項の解釈をすることはできない。 Masco Corp. v. United States (Fed Cir 2002) 「機構(mechanism)」という用語自体が構造であることを暗示しており、当該用語の周辺の文言において十分に構造体であることを示す。 拠って、112条第6項の解釈は適切ではない。Greenberg v Ethicon Endo-Surgery Inc. (Fed Cir 1996) さらに、調整(adjustment)という辞書の定義においても、構造体を修飾する意味合いを持つということは至極一般的に理解されている。 さらに、178特許明細書に「高さ調整機構」という用語は24回登場するが、どこにもそれが単なる機能的な意味で使用されていない。 さらに、明細書には「高さ調整機構」としてはケーブルとプーリー機構、取り外し可能なピンとピン穴の配列、その他でも良いと記載されている。
拠って、178特許で使用される「高さ調整機構」及び一般的な用語としても十分な構造を与えるものであり、「112条第6項の適用を受けないという推定」を覆すことはできない。 従って、当該用語に垂直なビームを要件として読み込むことはできない。FLOは垂直なビームという要件を導入するべく再審査中にクレーム補正することができたが(実際にいくつかのクレームに対してはそのような減縮補正を行った)、審判で問題となったクレームに関しては理由はどうあれそのような補正を行わなかった。拠って、先行技術によって問題となるクレームは特許性がない。 高さ調整機構の解釈に112条第6項を適用した審判部の判断は間違いであるが、結果として当該構成要素に垂直ビームを必須要件として読み込まなかったので、審判部の審決(問題となるクレームは引例によって拒絶を維持する)を支持する。