EON Cirp. IP Holdings LLC v.
AT&T Mobility LLC Fed.
Cir. Decision 2015/05/06
| ソフトウェア関連発明においてMPF用語の機能を実現するための 構造(アルゴリズム)を明細書に記載しておくことの 重要さを再度警告した判決 By
Tatsuo YABE 2015-05-24
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まとめ(筆者コメント):
発明をクレームする場合に構成(structure)ではなくその機能(function)で表現することは112条第6項で許されている。但し、112条第6項でクレームの構成要素を記載すると当該機能表現された構成要素はmeans
plus function termと呼称される。 Means plus
function用語の権利範囲を112条第6項の規定に基づき明細書で開示された構造とその均等物と解釈される。この解釈は審査段階及び権利行使段階においても同様である(In
re Donaldson: Fed. Cir. en banc 1994)。尚、ソフトウェア関連発明をクレームする場合、機能表現無しでクレームすることは困難である。
機能表現された構成要件の権利範囲は明細書で開示された構造(structure)と均等物に減縮解釈されるが、この場合(ソフトウェア関連)の明細書で開示された構造(structure)とはアルゴリズムのことである(WMS
Gaming v. Int’l Game Tech: Fed Cir. 1999)。依って、明細書にアルゴリズムが開示されていない場合には112条第6項に基づく構造物が明細書に開示されておらず112条第2項の要件違反として拒絶される。 尚、例外的に明細書でアルゴリズムが開示されておらず汎用のマイクロプロセッサとかコンピューターという開示だけでも112条第6項と112条第2項(明瞭性)を満たす場合が例外的にある。 この例外を判示したのがIn
re Katzであり(In re Katz Interactive Call
Processing Patent Litigation: Fed. Cir. 2011)、Katz例外(“The
Katz Exception”)と称される。但し、Katz例外の範疇と解されるのは非常に限定的で「受信する」、「記憶する」、「処理する」といったレベルの一般的な機能表現に対応する構造の場合のみである。
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本事件で問題となった特許(EON)のクレーム用語はMeans
plus Function形式の用語と解釈された。 さらに、Means
plus Function形式の用語は、Katz例外が適用されうるごく一般的な機能(receiving,
storing, processing)とは程遠い複雑な機能で表現されている。然るに、MPF用語に対応する明細書の開示物(アルゴリズム)が存在しない。さらに、アルゴリズムが存在しない場合には問題となるクレーム用語を含む発明を当業者が実施可能であるか否かは問題ではない。言い換えると、112条第1項の実施可能要件と112条第6項用語の明瞭性(112条第2項)の要件とは独立している。
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本事件は、訴訟途上(地裁でのSJ判決後であって本CAFC判決がでるまでの間)でTeva最高裁判決(2015)とNautilus最高裁判決(2014)がでた。 即ち、地裁判決の事実認定に対するCAFCのレビュ基準がClearエラー基準に変更された(Teva:2015)。 さらに、112条第2項の明瞭性の要件が当業者に合理的な確からしさでその意味合いを伝えるというより厳格な基準に変更された(Nautilus:2014)。
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これら2つの重要な最高裁判決を跨ってはいるもののCAFCは地裁のSJ判決(MPF用語は不明瞭でありEON特許のクレームは無効である)を支持した。確かに、外部証拠を基礎とする事実認定に対する地裁判決がより尊重される(Teva)ことになった上にクレームの明瞭性の要件がより厳格になった(Nautilus)ので、地裁で不明瞭とされた判断が今後CAFCで破棄される可能性は極小になると予想される。
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さらに、ソフトウェア関連発明の米国出願において機能表現された用語に対応するアルゴリズムを明細書でしっかりと記載しておくことの重要性を再認識することを促した判決と言えよう。
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Prost, Newman, Bryson判事:
Prost判事長による意見の概要:
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特許権者: EON社
問題となった特許:米国特許第5,663,757号
被疑侵害者:AT&T
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■事件の背景:
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EONの757特許はTVとON-TIMEでリンクしユーザーが商品の購入、投票、或いは、TVプログラムを自在に配列できるようにする相互作用を可能にするソフトウェアに関する。 2010年9月にEONはネットワークの提供者及びスマート電話のコンテンツの提供者等17社を相手取り侵害裁判を提起し、その9か月後にAT&Tを相手に訴訟を提起し、2つの事件が統合された。これら訴訟の進行中に757特許は2つの再審査を通過した。 2013年11月に被告により略式判決の申立てがあり、2014年2月に専門家によるヒアリングが実施された。当該ヒアリングの直後に地裁は757特許のクレーム全てを明瞭性の要件を満たしていないとして無効と判断した。2014年3月18日に地裁は757特許を無効であると最終判決を下した。
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■問題となったクレーム用語(Means
Plus Function Terms)は以下:
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1. “means under control of said replaceable
software means for indicating acknowledging shipment of an order from a remote
station” (Claim 7);
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2. “means controlled by replaceable
software means operable with said operation control system for . . .
reconfiguring the operating modes by adding or changing features and introducing
new menus”
(Claims 1-6, 8-10);
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3. “means responsive to said self-contained
software for establishing a mode of operations for selection of one of a
plurality of authorized television program channels” (Claim 8);
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4. “means establishing a first menu
directed to different interactively selectable program theme subsets available
from said authorized television program channels” (Claim 8);
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5. “means for causing selected themes to
automatically display a second menu” (Claim 8);
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6. “means controlled by replaceable
software means operable with said operation control system for establishing and
controlling a mode of operation that records historical operating data of the
local subscriber’s data processing station” (Claim 9);
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7. “means controlled by replaceable
software means operable with said operat[ion] control system for establishing
and controlling fiscal transactions with a further local station” (Claim 10);
and
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8. “means for establishing an accounting
mode of operation for maintaining and reporting fiscal transactions incurred in
the operation of the local subscriber’s data processing station” (Claim 10).
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■争点:
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地裁の略式判決(757特許クレームは112条第2項の明瞭性の要件を満たしていないので無効である)を支持するか否か?
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CAFC判決概要
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地裁は略式判決(SJ)の申立てを認めた。 当該地裁判断(Grant
of motion for Summary Judgment)に関してはde novoでレビュする。被申立人側に最も有利になるように想定したとしても重要な事実問題が生じない場合には略式判決(Summary
Judgment)が妥当する。地裁の112条第2項に対する最終判断に対してはde
novoでレビュする。但し、地裁において数多くの事実認定があった。 特に、Means
plus Function(MPF)エレメントに対応する構造体に対しては明白なエラー基準(Clear
Error STD)でレビュする(Teva Pharm. v. Sandoz:
2015)。さらに112条第2項の明瞭性に関してはBiosig
v. Nautilus(2015年4月27日最高裁判決)に鑑みレビュする。
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当事者間で以下に関して同意している:
争点となるクレームの用語は112条6項で規定されるmeans-plus-function(MPF)用語であることに同意している。
それらMPF形式で規定されている用語の機能はコンピューターのソフトで実行される。
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ソフトのアルゴリズムで実行されるMPF形式用語の機能に相当する構成(structure)はアルゴリズム自身である。See
WMS Gaming v. Int’l Game Tech (Fed Cir. 1999)
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特許権者EONは757特許にアルゴリズムが開示されていないことに異議を唱えていない。 757特許に開示された構造(structure)に相当するものとしてはマイクロプロセッサのみであることにも反論していない。 それ故、EONはKatz例外(特定のプログラムを開示することなく、一般的なマイクロプロセッサを開示しているだけでも112条6項の構造(structure)の要件を満たす例を判示した)に依存し757特許クレームのMPF用語の明瞭性を主張した。然し、Katz例外はかなり限定的な場合にのみ適用可能である。 Katz判決では、”processing”,
“receiving”, “storing”という機能を含む用語に関しては特別のプログラムを開示がなくとも不明瞭とは判断されないと判示した。Ergo
Licensing v. CareFusion (Fed. Cir. 2012)に鑑み、本事件に対してはKatz例外は適用されないと判断する。Ergo判決で、MPF用語の機能を実行するプログラム(アルゴリズム)の開示がなく汎用コンピューターの開示のみで明瞭性の要件が認められるのは稀な事案であると判示した。
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EONは757特許クレームのMPF用語の機能は特定のプログラムが記載されていなくとも実行可能でありKatz例外の範疇にあると主張しているが、Katz例外の範囲はかなり狭いものだ。 Katz判決においては、マイクロプロセッサ自身とクレームされた機能とが同延する(coextensive)状態であったので、マイクロプロセッサがコンピューターで実行される機能に対応する構造として理解されたのである。Katz判決で言及された「特定のプログラム」とはWMS Gaming事件の判示にルーツがある。WMS事件において、「汎用コンピューターの開示のみでは不十分である、何故なら、アルゴリズムを実行することで汎用コンピューター或いはマイクロプロセッサは特定の目的を達成するためのコンピューターになる」と言及された。
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さらに、WMSの上記判示事項は、主たる争点が101条であったAlappat判決(Fed.
Cir. en banc: 1994)に由来する。Alappat判決で、汎用目的に使用されるコンピューターは特定のプログラムをインストールすることで特別の機能を実行するコンピューターに変貌する。然るに、汎用目的のコンピューター或いはマイクロプロセッサはクレームに十分な構造を提供することにはならない。言い換えると、汎用目的のコンピューター或いはマイクロプロセッサはその基本機能に対してのみ十分な構造を提供することになる。 注記すべきは、Alappat判決の101条に関する部分は2010年のBilski最高裁判決及び2014年のAlice最高裁判決によって変更された。しかし、112条第2項に関してはWMS
Gaming判決とKatz判決は昨今のNautilus最高裁判決に鑑みても整合していると理解される。即ち、公共への通知機能である明瞭性の要件が形骸化することと新たな発明意欲を阻害する不明瞭な領域(不明瞭なクレームの権利範囲)が増大することに警告している。
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従って、ソフトウェアの機能に対する構造として汎用目的のコンピューター或いはマイクロプロセッサを開示していたとしてもクレームの権利範囲を限定しないし、単なる機能表現を回避することにはならない。
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さらにEONは757特許に開示されたマイクロプロセッサはクレーム用語の機能を達成するのに十分な開示と当業者であれば理解できると主張した。この主張は意味をなさない。 明細書にアルゴリズムが開示されていない場合には当業者の理解は一切関係ない。本事件において757特許にはアルゴリズムが開示されていないことに当事者は同意している。EONの主張は112条第1項の実施可能要件と(112条第6項に対する)112条第2項と明瞭性の要件とを混同している。 即ち、実施可能要件とは明細書の開示が、当業者が発明を実施するに十分なレベルに記載されていることを要求しているのに対して、112条第6項はクレームの権利範囲を明細書に開示された構造とその均等物に限定するという要件である。然るに、本事件争点の本質は757特許の明細書に112条第6項を満たす構造が開示されているか否かであって、クレームされたMPF用語の機能を当業者が実施できるかではない。
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上記理由に鑑み、本事件に結論をだすのは容易である。即ち、地裁において専門家の証言を考慮した上で明白な事実認定をした。 即ち、問題となった8項目のクレーム用語は複雑でカスタマイズされたコンピューターソフトウエアを規定している。地裁の判断に明白なエラーはない。 事実、EONは自身の専門家証言でクレームされた機能を達成するために当業者は明細書には記載されていない外部のアルゴリズムが必要であると述べた。 さらに、地裁はクレームされた機能を実現するためには特別のコード(プログラム)を作成する必要があると事実認定した。依って、757特許に記載されたマイクロプロセッサは問題となったクレーム用語の機能に対応する十分な開示を提供することにはならない。従って、757特許クレームは112条第2項の要件を満たさない。
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