Digitech Image Tech v.
Electronics for Imaging, Inc. Fed.
Cir. Decision 2014/07/11
Alice
v. CLS後初の101条関連のCAFC判決
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まとめ:
本事件はAlice v. CLS Bank事件(最高裁判決:2014年6月19日)後初の101条適格性が問われたCAFC事件である。 但し関連技術分野としては画像データ処理に関するもので、Alice事件(あるいはBilski事件)で問題となったビジネス手法ではない。本事件で問題となったクレーム1,26はデバイスのプロフィールが発明主題であって、構成要素が集積されたデータである。 さらにクレーム10は方法形式に表現されたクレームであって、デバイスのデータプロフィールを生成する手法であって構成要素はデータを集積するステップである。
CAFCはクレーム1,26の101条適格性判断に関して、集積されたデータは101条で規定する4つのカテゴリー(process,
machine, manufacture, composition of matter)に属さないとして101条適格性を否定した。 且つ、自身のNuijten判決(Fed.
Cir. 2007年)を引用し、当該クレームの101条適格性を否定している。 Nuijten事件における発明は映画データ等の著作権を伴うデータの違法コピーを防止する電子透かし技術に関し、但しデータ送信時にコンテンツと干渉するという問題があり、それを防ぐために当該干渉現象を相殺する補助データを電気信号に組み込むという技術であって、当該補助データが追加された信号の101条適格性が問題となった。 CAFCは当該電気信号の101条適格性を否定した(但し記憶媒体に記憶した形式のクレームは適格性ありとした)。101条適格性を否定した主たる理由は、当該電気信号はTransitory(どこかに保存されたりしている状態ではなく移動している)であるということであった。 本事件においてCAFCは、クレーム1,26はNuijtenよりも広範なもの、すなわち、Nuijtenでは補助データが含まれた電気信号であるのに対して本事件では集積されたデータのみである。 依って、Nuijtenの法理を活用し、101条適格性を否定した。
CAFCはさらに方法クレーム10に関しては、2種類のデータセットを取得し、それらを組み合わせ単一のデータセット(デバイスプロフィール)を作成する手法を規定しているにすぎないと述べている。 即ち、抽象的なアイデア(適格性を認められない対象)を規定しているのみで画像処理装置との関連性も一切規定されていないとして判断している。 CAFCはAlice判決を引用するも、実際にはBilski最高裁判決の法理であるMOTテスト(機械との密接な連携或いは変換)を一切満たしていないとして101条適格性を否定している。 Bilski判決において最高裁は自身のMOTテスト(1966年のBenson判決で最高裁が言及した法理のひとつ)はPer-seテストではない(それをパスしたからと言って101条を絶対に満たすというわけではない)が、MOTテストは利用価値のなるテストであると述べた。 即ち、MOTテストをパスするから問題となる方法クレームが101条をパスするとは言い切れないが、MOTテストをパスしない方法クレームは101条をパスすることはないとおおむね理解できる。然るに本事件においてはデバイスのプロフィールの製造手法であってクレームのコンテンツはデータの集積ステップであり、画像処理装置との一切の連携も記載されていないのでMOTテストをパスしないのは明白である。依って、本事件においてはBilski判決(2010年最高裁判決)の法理でもって解決できたと思料する。なお、Alice判決(および2012年のPrometheus最高裁判決)の本来の出番は、仮にマシンと連携されていたとしてクレームが全体として抽象的なアイデアを顕著に超えるものとなっているか否かであって、さらにAlice判決の本当の出番は方法クレームのみではなく、記憶媒体あるいはシステム形式のクレームにもPrometheus判決の適用幅が拡大されたということである。 依って、本事件ではクレーム10は方法クレームであってその101条適格性判断をするにあたり、本来のAlice判決の法理を適用するまでもなくBilski判決とPrometheus判決で十分に対応できていたであろう。
さらに傍論ではあるがAlice判決で言及されているようにクレームをドラフトする人の腕によって方法クレームを記録媒体形式あるいはシステム形式に書き換えることは容易であって、そのようにクレームを作成する人のペン捌きで101条が満たされたり否定されたりするのは理不尽である。この傍論に沿ってクレーム1,26とクレーム10を比較した場合にまさにクレームドラフトした人の筆さばきでクレーム10がドラフトされたことが理解できる。言い換えるとクレーム10の内容はクレーム1にクレーム26の一部を追加し方法クレーム形式に記載したにすぎない。依って、クレーム1,26に101条適格性が認められない以上はクレーム10にも認められないことは自明の理である。(筆者)
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Moore, Reyna, Hughes: Reyna判事による意見(2014年7月11日)の概要:
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特許権者: Digitech Image
Technolo社
問題となった特許:米国特許第6,128,415号
画像装置はそれがいかなるものであっても画像の色と色空間の特性にゆがみが生じる原因を内在している。 その主たる理由として異なる装置(デジタルカメラ、モニター、テレビ、プリンター)は、個々に、色と空間的情報に対して微妙に異なる領域を許容したうえで表示或いは再生している。 この問題を解決するため従来技術ではデバイスに依存した解決方法とデバイスとは独立したパラダイムを用いることが提唱された。 さらに、従来技術の特許ではデバイスとは独立した解決手法として色情報に限定し、元になるデバイス(source
device)と出力デバイス(output device)の色特性を表現するデバイスプロフィールを作成することを規定している。 本件の415特許では色特性と空間的特性の情報を含む改良型のデバイスプロフィールを開示している。
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415特許クレームの概要:
クレーム1 |
概要訳 |
1. A device profile for describing properties of a device in a digital
image reproduction system to capture, transform or render an image, said
device profile comprising: |
撮像、画像変換或いは描画するためのデジタル画像再生システムにおけるデバイスの特性を描写するデバイスのプロフィールであって、デバイスのプロフィールは以下の構成要素を含むことを特徴とする: 画像の色情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明する第1データ;及び、 画像の空間情報内容を前記装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明する第2データ。 |
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■背景及び判決文の概要:
Digitechは415特許を譲受人であり、32社を相手取りカリフォルニア中部地区連邦地裁に侵害裁判を起こした。 2013年7月3日に被告数社は415特許が101条適格性を満たさないとして略式判決の申立てを請求した。 同年7月31日に地裁は略式判決の請求を認め、問題となるクレームはすべて101条を満たさないと判断した。 地裁はデバイスのプロフィールに関するクレームは数値データの集積にすぎず、物理的な部材あるいは具現化されたものが存在しないと判断した。 依って、デバイスのプロフィールに対するクレームは単なる情報であって、それ以上のものではないと判断した。さらに、問題となった方法クレーム(デバイスのプロフィールを作成するための方法クレーム)は数式を用いてデータを取りまとめるという抽象的なアイデアにすぎないと判断した。
■CAFCの判断:
1)デバイスのプロフィールに対するクレーム:
デバイスのプロフィールに対するクレーム1,26は触知できるもの(tangible)ではなく、また、物理的なものでもない。 依って、101条で規定するいずれのカテゴリー(process,
machine, manufacture, composition of matter)にも属さない。クレーム1、26で規定するデバイスプロフィールは情報の集積であって、色情報と色の空間的情報をデバイス依存型変換することを記述しているにすぎない。
クレーム1 |
概要訳 |
1. A device profile for describing properties of a device in a digital
image reproduction system to capture, transform or render an image, said
device profile comprising: |
撮像、画像変換或いは描画するためのデジタル画像再生システムにおけるデバイスの特性を描写するデバイスのプロフィールであって、デバイスのプロフィールは以下の構成要素を含むことを特徴とする: 画像の色情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明する第1データ;及び、 画像の空間情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明する第2データ。 |
クレーム26 |
概要訳 |
A device profile for describing properties of a de-vice in
a digital image reproduction system to capture, transform or render an
image, said de-vice profile comprising data for describing a device
dependent transformation of spatial information content of the image to a
device independent color space, wherein through use of spatial stimuli and
device response for said device, said data is represented by spatial
characteristic functions. |
撮像、画像変換或いは描画するためのデジタル画像再生システムにおけるデバイスの特性を描写するデバイスのプロフィールであって、デバイスのプロフィールは以下の構成要素を含むことを特徴とする: 色刺激及び装置の前記装置に対する反応を用いて、画像の空間情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明する(describe)データ、ここで前記データは色空間の特性機能を示すものである。 |
Nuijten事件においてCAFCはPTOの審決(補助データが埋め込まれた信号は101条を満たさない)を支持した。Nuijten事件ではCAFCは問題となった信号は知覚できる作用効果を備えた物理的な性質を有することを認識したが、信号のような過渡的なものは101条の保護適格性を満たさないと判断した。 本事件においてはNuijten事件で争点となったクレームよりもさらに広範なクレームである。即ち、Nuijten事件の補助的データは過渡的なものの形態であったが、415特許のデバイスプロフィールは物理的実体を一切必要としない。415特許のデバイスプロフィールは触知できない色と空間情報の集積をクレームしているにすぎない。
2)方法クレーム:
415特許のクレーム10は方法クレームであって101条のプロセスに属することに異論はない。 然し101条で規定する4つのカテゴリーに対する属する場合であっても自然法則、自然現象、或いは、抽象的なアイデアを含むクレームは101条適格性を満たさない場合がある。Chakrabarty
447 U.S. at 309 最高裁はAlice v CLS Bank事件(2014/06/19)においてChakrabarty判決の法理を再確認した。
但し、自然法則、数学の公式を公知の装置或いは方法に適用する場合には特許保護適格性を得られる場合も十分にある。Diamond
v. Diehr (1981) クレームがさらなる進歩的な特徴を含み、クレームが抽象的なアイデア自身を権利範囲としない場合には101条を満たす場合がある。しかし、抽象的なアイデアを含むクレームにおいて当該アイデアを「適用する」という文言を加えるだけでは101条の適格性を満たさない。
Bancorp Servs. LLC v. Sun life Assurance Co.
(Fed. Cir. 2012)
415特許のクレーム10は抽象的なアイデアをクレームしているにすぎない。 何故なら、数学の関係式を活用し情報を取りまとめる手法を規定しているにすぎず、特定の構造体或いは機械に関連性がない。
クレーム10:
上記クレームは2種類のデータセットを取得し、それらを組み合わせ単一のデータセット(デバイスプロフィール)を作成する手法を規定している。 取得される2つのデータセットは既存の情報を取得することで生成され、それら情報を取りまとめ新しいフォームにする。このように、2つのデータセットおよびその結果生成されるデバイスプロフィールは101条の保護適格性を満たさない。依って、それ以外の構成要素(限定事項)がクレームに存在しない限りは101条を満たしようがない。
クレーム10 |
クレーム10概訳 |
10. A method
of generating a device profile that describes properties of a device in a
digital image reproduction system for capturing, transforming or rendering
an image, said method comprising: |
撮像、画像変換或いは描画するためのデジタル画像再生システムにおけるデバイスの特質を描写するデバイスのプロフィールを生成する方法であって、当該方法は以下のステップを含むことを特徴とする: 測定された色の刺激機能と装置の反応特性機能を用いて、画像の色情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明(describe)する第1データを生成するステップ;及び、 測定された色の刺激機能と装置の反応特性機能を用いて、画像の空間情報内容を装置とは独立した色空間に装置依存型変換することを説明(describe)する第2データを生成するステップ;及び 前記第1データと前記第2データを前記デバイスプロフィールに組み合わせるステップ。 |
クレーム10において、当該手法を画像処理に関連付ける明白な文言が存在しない。 クレームは2つのデータセットを組み合わせてデバイスプロフィールを作成するというプロセスを一般的に規定しており、デバイスプロフィールを画像処理装置で活用する手法を規定していない。 クレームのプレアンブルにおいてデジタル画像再生システムという文言があるが、それは単に発明に意図された目的として解釈されるのみでクレームの実体的な構成要素とは解釈されない。
Bicon v. Straumann (Fed. Cir. 2006) 然るに、クレーム10は抽象的すぎる規定であってデバイスプロフィール自身を包括し、その使用をも包括する。Gottschalk
v. Benson (1972) 結論、クレーム10で規定する手法は抽象的なアイデアであって101条の保護適格性を満たさない。
■依って、地裁判決を支持する。
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