CAFC判決 Deere v. Gramm MPF解釈されたが故に明白に非自明と 判断された判決 2021年2月4日 Summarized
by Tatsuo YABE –
2021-02-15 |
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本事案で問題となった特許は、Gramm氏の作物刈取り装置であって裁判のタイトルとしてはDeere
v Grammとなる。本CAFCの判決の序文においても自明性の判断基準を判示した1966年のGraham
v John Deere(1966年)が引用され今回はJohn
Deereは問題となったGramm氏の特許を自明として無効にできなかったと冗談を述べている。そもそも今回の特許権者Gramm氏は1966年最高裁の原告(特許権者)であるGraham氏とは何の関係もない赤の他人である。
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本事件の面白いのは2018年のSUS最高裁判決によってIPR申請が受理された場合にはIPR申請書で無効を主張されたクレーム全てに対してPTAB(審判部)は審理しなければならないと判示されたのでPTABにおいて審理されずに残ったクレームに対して審理を再開しその審決に対するCAFCの判断となった。(注意:PTABは、IPR申請書で無効を主張されたクレームの一部に関してIPR申請を受理することも勿論可能である。その場合にはPTABはIPRを受理したクレームを明示する必要がある)
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問題となったGramm氏特許のクレーム12ではアームを垂直方向に対して所定角度変位するように付勢力を生成する構成要素をbiasing
means for biasing..と表現されていた。依って、当該構成要素(biasing
means)には112条(f)項解釈が適用され明細書及び図面におけるcorresponding
structuresに限定的に解釈されることになった。結果的には先行技術として引用されたCleveland特許のスプリングではbiasing
meansの機能が実現されないとしてクレーム12は自明ではないとされた(審決及びCAFC判決)。然し、筆者がCAFCの判決を読む限りではbiasing
meansに112条(f)項解釈を適用しようがしまいが結果は同じになっていたのではないかと考える。即ち、biasing
meansはアーム96を垂直方向に対して傾斜した姿勢となるように付勢する付勢手段と規定されており、Cleveland引例に開示されているアーム(helical
spring 38)は垂直方向に延設して(地面と接触することによってのみ曲がる)おりアーム38を垂直方向に対して角度変位させるのは作物刈取機に設けられたbiasing
meansではなく地面である。
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Corresponding
Structure to “biasing means” recited in Claim 12 [USP
6,202,395] |
Cleveland特許(先行技術) |
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言い換えるとbiasing meansの代わりにa
springと記載されていてもクレームされた機能(『アーム96を垂直方向に対して傾斜した姿勢となるように付勢する』)を限定事項と解釈する以上はCleveland引例によって自明とは判断されていなかったであろう。
敢えてMPF解釈によってクレームの有効性が維持されやすいというコメント(明細書の対応する構造に限定的に解釈される以外)を加えるならばMPF解釈されたエレメントの機能を限定事項として解釈されるということだ。Non-MPF形式の構成要素の場合にはクレームで規定する機能に対して確実にそれを限定事項と解釈されるという保証はない。(以上筆者)
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■ 特許権者:Richard Gramm
■ 被疑侵害者: Deere &
Company
■ 問題となった特許:US
Patent No.6,202,395
■ 特許発明の概要:
作物の刈取り機に関する発明であって、ヘッダーの位置を検出し常に地面よりも上の所定位置となるように制御することを特徴とする。地面に衝突して破損することなく、且つ、横倒れした作物を刈り取れない程度に高すぎないように、ヘッダーを地面に対して所定高さに維持すれることは重要である。このようにヘッダの所定高さ位置を維持するために刈取り機の移動に伴い地面と接触し摺動する柔軟なセンサアームを備えたことを特徴とする。
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■ IPRで引用された先行技術特許:
USP3611286号(Cleveland)
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■ 事件の概要:
2015年、Deereは2件のIPR手続きでUSP’395のクレーム全て(クレーム1〜34)の無効を試みた。PTABにおいてクレーム1〜11及び27〜34を無効と判断しCAFCでも同審決が支持された。しかし2018年のSAS最高裁判決においてPTABはIPR申請を受理した全てのクレームに対して審理をすること(結論を出すこと)と判示されたのでPTABはクレーム12〜26に関して審理を再開した。PTABで再開された審理において独立クレーム12の有効性が唯一問題となった。2019年12月20日、PTABにおいてCleveland特許に鑑みてクレーム12(及びその従属クレーム13〜26)は自明とは判断されなかった。同審決を不服としDeereがCAFCに控訴した。
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■ 争点:
USP’395 のクレーム12に対するPTABの審決(クレーム12はCleveland特許に鑑み自明ではない)は支持されるか?
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■ 問題となったクレーム:
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Claim 12 of US Patent No. 8,448,285 |
クレーム12のBiasing
Means部分の抄訳 |
12.
Apparatus for maintaining a non-cut crop header in a crop harvester a
designated height above the soil as the crop harvester traverses a field,
said apparatus comprising: |
前記アーム96を垂直方向に対して選択的に傾斜した姿勢となるように付勢する付勢手段、尚、作物刈取り機が前方に動くにつれて、前記選択された傾斜姿勢の前記アームは角度位置検出手段48の下方で且つ後方に延設する。 |
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■ PTABの判断:
USP’395 のクレーム12はCleveland特許に鑑みて自明ではない。
クレーム12のbiasing
meansはMPF形式で記載されているので112条(f)項の解釈が適用される。クレーム12において当該biasing
meansが実施する機能は3つ規定されているが、第1の機能はセンサアーム96を付勢し当該センサアームを垂直方向に対して所定の角度変位させている。この第1の機能を実現する当該構成要素(biasing
means)に対応する明細書の開示物はコイルスプリング114である。この点に関し当事者間で争いはない。従って、クレーム12を無効にするうえでbiasing
meansに関しては、先行技術において当該構成要素の機能を実現する構成を開示していなければならない。
DeereはCleveland特許において長手方向に延設するスプリング38が地面と設置した場合にクレーム12のbiasing meansの機能を実現すると主張している。
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Clevelandのスプリング38はその長手方向軸に対して柔軟であるがそれ自体に外部から力が生じない限りは直線状の姿勢を維持する。Clevelandの機器においては、スプリング38と揺動部20によって長手部材を構成するが当該長手部材はヒンジボルト30の軸心周りに揺動可能となっている。Clevelandのスプリング38は図6、図7に示すように先端部に設けられたベアリング44が地面と設置したときにおいてのみばね力(付勢力)を生じる。
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尚、Clevelandの明細書のコラム3,67行目〜コラム4、26行目に記載されているように、そもそも取り付け位置18とガイド溝の最も深い箇所との距離はヒンジボルト30とスプリング38の先端のベアリング部材44との距離よりも小さく設定されていることによってスプリング38は図7のように垂直姿勢から曲がり姿勢に変化する。
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従って、Clevelandにはクレーム12の「前記アームを垂直方向に対して選択的に傾斜した姿勢となるように付勢する付勢手段」という特徴を開示していない。
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■ CAFCの判断:
CAFCはPTABの法律判断に関してはde
novo基準(下級審に全く拘束されない)で判断する。しかし法律判断の基礎となった事実に対してはsubstantial
evidence基準(十分な証拠で挙証されているか)で判断する。In
re Gartside (Fed. Cir. 2000) Substantial Evidence基準による判断とは合理的な思考の持ち主(a
reasonable mind)が結論に至った証拠が適当(adequate)であると認めるか否かである。Console.
Edison Co. v. NLRB (1938)
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クレームの有効性の分析は2つのステップで進める、即ち、第1ステップはクレームの解釈であり、第2ステップは適切に解釈されたクレームの構成要素が先行技術に開示されているか否かである。尚、第2ステップ(先行技術のクレームの構成要素との差異を検討する)は事実問題でありその事実判断に対して控訴審ではde
novo Review(一からの審理)ではなくSubstantial
Evidence(実質的な証拠で挙証されているか)という挙証基準で審理する。
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上記PTABのクレーム12のbiasing
meansに対するクレーム解釈とCleveland引例とbiasing
meansとの差異に対する判断とそれに至った理由は実質的な証拠(substantial
evidence)で挙証されていると判断する。
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審決を支持する。The
Board’s final decisions are Affirmed.
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■ 自明性の判断基準
Graham v. John Deer(1966年合衆国最高裁判決)
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特許権者: William Graham氏
被疑侵害者:
John Deer社
問題となった特許:
US Patent No. 2,493,811
US Patent No. 2,627,798
土地を耕す装置に関する発明で岩等固い土地或いは凸凹の土地を耕すときに工具の先端部(3)に損傷を少なくするためにシャンクを揺動する構造としたことを特徴とする。Graham氏はJohn
Deer社を相手に侵害訴訟を提起した。結果的にGraham氏の特許は引例に鑑み自明であり無効となったが、最高裁まで上がり、今日の自明性判断基準が判示された。
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審査便覧
2141 米国特許法103条:
自明性の判断基準(1966年Graham合衆国最高裁判決より)
Graham v. John Deer, 383 U.S. 1, 148 USPQ 459
審査官が103条の自明性を検討あるいは判断をするときにはGraham判決で判示された基準を採用しなければならない:
[a] 先行技術の開示範囲と内容を特定する;
[b] 先行技術とクレームとの差異を確定する;
[c] 関連技術における当業者のレベルを解明する;
[d] 副次的(客観的)な証拠を検討する;
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