COMMIL USA v. CISCO SYSTEMS

 Sup. Ct. Decision

2015/05/26

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Opinion

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「特許は無効であると信じていた」・・・では教唆侵害の責任を免れない。

Alleged Inducer’s Belief of Invalidity is No Defense to Inducement Infringement under 35 U.S.C. 271(b)

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By Tatsuo YABE

2015-05-30

 

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2015526日、最高裁は62の多数意見で、「被疑教唆者が問題となる特許が無効であると善意で信じていた(alleged inducer’s belief in invalidity)」という挙証は教唆侵害の責任を免れないと判示した。最高裁は本題に入る前にCommil社と政府(Solicitor General)の教唆侵害に対する理解を正した。 即ち、教唆侵害を構成するには問題となる特許の存在を周知していることのみならず被疑教唆者の行為によって他者が当該特許を侵害することを周知しているという2つの周知要件を挙証することが必要である(2011Global-Tech最高裁判決)。多数意見に至った主たる理由は特許侵害特許の有効性とは区別されるべき判断事項ということだ。裁判所或いは特許庁において特許が無効であると判断された場合にはその結果として特許侵害の責任を回避できるということである。言い換えると特許の有効性を否定するということは特許侵害に対する直接の抗弁ではなく、特許侵害によって被る責任に対する抗弁ということだ。確かに、ACの特許Pの存在を周知しており、Bに当該特許製品の製造販売を委託した)が善意で特許Pが無効であると信じていたということのみで教唆侵害の責任を回避できるのであれば、当該特許Pによって特許権者Cが2つの訴訟、Aを相手に間接侵害の訴訟、Bを相手に直接侵害の訴訟を提起し、結果的に特許Pの有効性が維持された場合、Bは損害賠償を請求されるがAは教唆侵害の責任を回避できるということになりうる。また、善意で特許Pが無効であると信じていたことを証明するにはA側の弁護士の鑑定を持っていれば良い。この鑑定はA側に都合の良いようにいくらでも無効を主張できる。さらに弁護士・顧客間の秘匿特権を行使し鑑定書の内容を開示する必要もない(もちろん、全く内容を開示せずに無効を善意で信じていたと挙証できるかは不明、少なくとも無効の根拠となる先行技術文献、記載不備、101条違反を示す必要はあるだろう)。このように考えると、善意で無効と信じていたという挙証は教唆侵害に対する直接的な抗弁ではなく、Aには少なくとも懲罰規定(賠償額の増大)が適用されないというのが妥当ではなかろうか。 

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さらに、最高裁は被疑教唆侵害者の”Belief in Invalidity”が教唆侵害を警告される前後で違いがあるのか・・時期的なことには一切言及していない。(筆者注)

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Kennedy最高裁裁判官による多数意見(6:2):

Scalia最高裁裁判官とRoberts最高裁裁判長による反対意見

Breyer最高裁裁判官は本法廷に参加せず)

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特許権者: Commil

被疑侵害者:CISCO

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■問題となった特許USP6430395号の概要:

比較的短距離以内でのワイヤーレスネットワークを実現する手法に関する。

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争点:被疑侵害者(教唆侵害の被疑侵害者)が問題となる特許が無効であると信じていた(“善意で無効と信じる”)ということで、271(b)項で規定する教唆侵害の責任を免れるか?

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最高裁判決:

無効と信じていたということによって、教唆侵害の責任を回避できるわけではない。

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本題に入る前に271(b)項の教唆侵害を構成する要件を再確認した:

本題に入る前に、Commil社とSolicitor Generalの教唆侵害の構成要件に対する理解は不正確であるとして最高裁は自身のGlobal-Tech事件(2011:*1)の判示事項を再確認した。 即ち、CommilSolicitor Generalの解釈では、271(b)項で規定する教唆侵害を構成するには被疑教唆者が特許の存在を周知していたという要件のみで、自身の行為が他者に侵害行為を誘因するということを周知していなくても良いことになる。 しかしGlobal-Tech事件で明示されたように、271(b)項の教唆侵害の構成要件として、教唆侵害者が問題となる特許の存在を周知していることのみならず、自身の誘因行為によって他者が当該特許を侵害するということを周知していることと判示した。The [Global-Tech] Court concluded there was enough evidence to support a finding that Pentalpha knew “the infringing nature of sales it encouraged Sunbeam to make……It was not only knowledge of the existence of SEB’s patent that led the Court to affirm the liability finding but also it was the fact that Pentalpha copied “all but the cosmetic features of SEB’s fryer”, demonstrating Pentalpha knew it would be causing customers to infringe SEB’s patent.

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上記判決に至った理由:

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(1)無効と信じていたことを立証することで教唆侵害の責任を回避できるとするならば、282(a)項で規定する成立した米国特許の有効性を推定するという「推定」の効力がかなり脆弱となる。 被告の側が(特許の)有効性の推定に対して明白かつ説得性のある挙証レベルで反証しなければならない。 無効と判断された特許を侵害することはない、或いは、無効となった特許を侵害するように教唆することはできないというのは理論的に正しい。 しかし裁判所で重要となるのは、条文で規定された枠組みの意味合いを理解し、それを実行する、即ち、教唆という不法な行為と関連する特許の有効性の問題を挙証するという所定の手続きを踏まえることが必要である。特許の有効性と特許権の侵害は、明白に異なる問題である、即ち、挙証責任の負担者、推定、活用できる証拠が異なる。 特許の無効とは積極的抗弁(affirmative defense)であり、本来であれば侵害となる行為に対して特許権の権利行使ができなくなる。 しかし、特許が無効であるということは侵害に対する抗弁ではなく、侵害行為による責任に対する抗弁である。 然るに特許が無効であると信じていたとしてもそれは教唆侵害の構成要件である「scienter ”故意」を否定することにはならない。That is because invalidity is not a defense to infringement, it is a defense to liability.  And because of that fact, a belief as to invalidity cannot negate the scienter required for inducement infringement.

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(2)さらに、現実的な側面から「善意で無効と信じる」を新たな被告の抗弁に加えないという理由がある。即ち、教唆侵害を通告された被疑侵害者は、DJアクション、査定系再審査、IPRなる手法(手続き)、さらには訴訟の中で有効性を否定することで問題となる特許の有効性を攻撃することが可能である。

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(3)さらに、現実的な側面から「善意で無効と信じる」を新たな被告の抗弁に加えるべきではない理由がある。 それは訴訟をより複雑化するからである。即ち、被告にとって非侵害を挙証するよりも「善意で無効と信じる」という抗弁をする方が多くの場合簡単である。 しかしそのような抗弁は陪審にとって混乱をもたらす。 陪審にとって「善意で無効と信じる」という特許の有効性に対する判断と実際に特許の有効性に対する判断とを識別するのは非常に困難となるであろう。

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(4)また、民事訴訟において被告が自身の行為が法律を違反していることを周知していなくとも、当該行為を意図的であったと解釈される場合もあり、本事件の争点もこの考え方と大きく離反するものではない。 契約の無効性を主張することは、当該契約の不履行に対する抗弁となる。しかし当該契約を無効と信じていたということ自体は抗弁にはならない。 その一例として、例えば他人の土地に不法侵入した者は、自身が当該土地に侵入する権利があると信じていたとしても抗弁にはならない。 さらには、刑事法の基本であるが、法の無知、勘違いは刑事訴訟法における抗弁として有効ではない、この考え方は米国の法体系に深く根ざしている。

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*1 Global-Tech最高裁判決 (Global-Tech v. SEB: Sup. Ct. 2011)

原告SEBは特許権者(天ぷらなべ)。SunbeamPentalpha社に天ぷらなべを供給するように依頼し、PentalphaSEBの鍋を購入しその構造の実体部分を全てコピーし、それを自社の製品としてSEBに供給し、SEBは自身の顧客に当該鍋を販売した。特許権者SEBは特許侵害を教唆している(PentalphaSunbeamSEB特許を侵害する製品の販売行為を誘因・教唆している)という理由でPentalpha社相手に訴訟を起こした。最高裁は教唆侵害の構成要件を(1)特許の存在を周知している;(2)自身の(誘因)行為によって他者が当該特許を侵害するということを周知していることと判示した。

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*2 Scalia最高裁裁判官(Roberts最高裁裁判長が同意)による反対意見

特許を侵害するとは特許権者のクレームした発明に対する排他権を侵略するということである。有効な特許のみにこの排他権が認められており無効な特許にはそれがない。依って有効な特許のみが侵害されうる。従って、特許を無効であると善意で信じる者は、自身の行為(誘因・教唆)によって特許侵害が発生しないと信じていることになる。然るに、善意の基に特許が無効であると信じるということは教唆侵害に対する抗弁となる。