Campbell
Soup v. Gamon Plus Inc., 2021年8月19日
Design Patentにおける自明性判断 OPINION
by Chief Judge Moore Prost
and Stoll, Circuit Judges
Summarized by
Tatsuo YABE –
2021-08-29 |
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本事案はキャンベルスープ等で見られる製品陳列ラック(表示ラック)に関する意匠特許の自明性判断に関する。本事案はIPRから始まり一度CAFCに上がり差戻され再度IPRで審決が出た後に今回の判決に至った。特許権者(Gamon)は2度PTABで意匠特許の非自明性が維持された。PTABにおける自明性判断においても1966年最高裁判決によるGrahamテスト[1]-[4]の項目に基づき検討されたが、最後の2次的考察事項(客観的証拠)によってGamonの意匠特許の自明性が否定された。今回CAFCはPTABにおけるGrahamテストの[1]-[3]に対する判断を支持したが、Grahamテストの[4]
2次的考察事項に対するPTABの判断を否定し、Gamonの意匠特許を自明と結論づけた。
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今回CAFCは、Grahamテストの上記[1]-[3]の項目を検討するに際し、意匠特許ではDurlingテスト(Durling
v. Spectrum (Fed. Cir. 1996))に基づき判断することを確認した。即ち、当業者たるデザイナーが引例同士を組み合わせることでクレームされた意匠と全体として見た場合に同じ印象を与えるか否かで判断する。本事案においてはLinz引例単独で全体として同じ印象を与えると判断された。周知のように、意匠特許においては実線部分がクレームされた発明であり、問題となったGamonの意匠特許には表示ラック全体のごくごく一部しか実線で描かれていなかったことがLinz引例との差異を主張できなかった主たる理由と理解される。
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商業上の成功、業界における賞賛
非自明性を主張するための客観的証拠はクレームとのNexus(緊密な関連性)を示さなければならない。即ち、当該証拠とクレームされた発明との間に十分な法的且つ事実の関連性が示されていなければならない。Fox
Factory v. SRAM LLC (Fed Cir. 2019) 特許権者Gamonは意匠特許における客観的証拠はクレームされた意匠のユニークな特徴に起因するものでなくても良いと主張したがCAFCで否定された。即ち、意匠特許においても客観的証拠の扱いは用途特許と同じである。
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上記[1]-[3]の結論に至った理由と同様にGamonの意匠特許には商業上の成功を示す製品のごくごく一部しか実線で表示されていなかったので商業上の成功に緊密に関連した(Nexusがあった)とは事実認定者が判断するのは無理があったと理解される。(以上筆者)
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米国特許基礎セミナー 非自明性
Part 1 (35 USC 103) - YouTube
FOX
Factory:「商業上の成功」でもって非自明を主張する。
YouTube
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■ 事件の背景及び経緯:
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2002年〜2009年に掛けてGamon社はCampbellにiQ
Maximizerと呼称する製品陳列ラックを販売していたが、2008年の後半からCampbellはTrinity社から製品陳列ラックを購入し始めた。 |
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2015年、Gamon社はCampbell相手に自身の2件の意匠特許を基に侵害裁判をイリノイ州東部地区地裁で起こした。 |
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PTABでIPR手続き Campbellは2件の意匠特許を無効にすべくPTABでIPR手続きを開始; |
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第1回目:PTABの審決 |
Gamonの意匠特許は自明ではない; |
第1回目のCAFCの判決 |
審決を破棄しPTABに差し戻す; |
第2回目:PTABの審決 |
Gamonの意匠特許はLinz引例に鑑み類似しているが商業上の成功を示す証拠の重みが勝るのでGamonの意匠特許を維持; |
第2回目のPTAB審決を不服としCampbellが控訴し、今回のCAFCの判決に至る;
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■ 特許権者:Gamon
Plus, Inc.,
■ 被疑侵害者:Campbell
Soup
■ 関連特許:米国意匠特許
D612,646 & D621,645 (以下646特許及び645特許)
■ 特許発明の概要:
当該意匠特許のクレームは以下:
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646特許のクレーム(645特許のクレーム略同一)
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■ CAFCにおける争点:
Gamonの意匠特許2件の特許性を維持したPTABの審決は正しいか?
即ち、Gamonの意匠特許2件はLinz引例に鑑み自明であるか?Graham判決の2次的考察事項に対するPTABの判断は妥当するか?
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■ CAFCの判断
PTABの審決を破棄する。
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意匠特許の自明性判断も用途特許(Utility
Patent)と同じく1966年のGraham最高裁判決の法理(Grahamテスト)を適用する;
[1] Determining the scope and content of the prior
art; |
先行技術の開示範囲と内容を特定する; |
[2] Ascertaining the differences between the
claimed invention and the prior art; |
先行技術とクレームとの差異を確定する; |
[3] Resolving the level of ordinary skill in the
pertinent art. |
関連技術における当業者のレベルを解明する; |
[4] Objective evidence (such as commercial success, long-felt but unsolved
needs, failure of others, and unexpected results) relevant to the issue of
obviousness must be evaluated by Office personnel. |
客観的な証拠(市場での成功、長年に渡り実現されなかった必要性、他者の失敗、予期せぬ効果等)を検討する; |
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「A」Grahamテストの[1]-[3]
Grahamテストの上記[1]-[3]を判断において意匠特許ではDurlingテスト(Durling
v. Spectrum (Fed. Cir. 1996))に基づき判断する。即ち、当業者たるデザイナーが引例同士を組み合わせることでクレームされた意匠と全体として見た目に同じ印象を与えるか否かで判断する。
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この判断をする際に2つのステップで行う。第1に、事実認定者が、クレームされた意匠と目視によるところ「基本的に同じ」印象を与える主引例が存在するか否かを検討する。ここで「基本的に同じ」というためには引例との違いは微小であって全体的な印象に実質的な相違があってはならない。第2に、主引例が見つかれば、副次的な引例によって主引例を変更することでクレームされた意匠と目視によるところ当業者に全体として同じ印象を与えるか否かを事実認定者が判断する。
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本事案においては、PTABはLinz引例単独で当業者に全体として同じ印象を与えると判断した。以下に646特許のクレームとLinz引例を並べて比較すると両者の差異は殆ど識別できないものと理解される。
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646特許のクレーム(実線部分) |
引例(Linz) |
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PTABにおいてもLinz引例はラベルの部分が左右対称であり、緩やかな凸形状であり、中央部が前方に突出していると判断している。さらにラベル部の下に製品(缶)を係止しそれを表示する部分がある。Gamonは、Linzは意匠特許のものよりも小さな缶を収容し、さらに、Linzの缶は意匠特許で示される缶の位置より後方で止められると主張している。しかしこれら差異では全体としての目視による印象を実体的に変えるレベルではない。然るに、本法廷(CAFC)においてDurlingテストに基づくPTABの判断を支持する。
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「B」Grahamテストの[4]
商業上の成功、業界における賞賛
非自明性を主張するための客観的証拠はクレームとのNexus(緊密な関連性)を示さなければならない。即ち、当該証拠とクレームされた発明との間に十分な法的且つ事実の関連性が示されていなければならない。Fox
Factory v. SRAM LLC (Fed Cir. 2019)
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「B-1」Nexusは推定されない:
クレームされた発明と対象となる製品との間にcoextensiveness(範囲の同一性)が存在する場合においてのみNexus(緊密な関連性)が推定される。即ち、商業上の成功の対象となる製品は特許で開示されクレームされた発明である。クレームされていない特徴が非実質的なものにすぎない場合には、対象となる製品は本質的にクレームされた発明である。
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クレームされた製品表示ラックはそれ自体の本の一部しかカバーしていないに拘わらずPATBはGamonの製品(iQ
Maximizer)とクレームとの間のextensiveness(範囲の同一性)を認めた。Extensivenessに対して言及したFox
Factory事件の判示は用途特許(Utility
Patent)に対するものであって意匠特許には適用されないと判断した。
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本事案において、Gamonの意匠特許はiQ
Maximizerの極一部しかカバーしておらず、iQ
Maximizerの後方部分及びサイド部分などを全くカバーしていない。依って、iQ
Maximizerにはクレームされていない実体的な機能部分があり、通常の事実認定者はiQ
Maximizerとクレームとの間にcoextensiveness(範囲の同一性)があるとは認識しない。
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「B-2」Gamonの主張と証拠ではNexusは認められない:
特許権者は上記した推定がされない場合であっても、客観的証拠がクレームされた発明のユニークな特徴(引例と識別される特徴)に起因することを示すことでNexus(クレームとの緊密な関連性)を証明できる。Fox
Factory, 944 F.3d at 1373-74
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本事案においてPTABは、iQ
Maximizerに関する商業上の成功及び業界における賞賛はクレームされたラベルの部分に起因すると認識している。しかしPTABは同時に製品表示ラックに|おいてラベルの部分があること自体は新規ではないと認めている。
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PTABはGamon特許の発明とLinz引例との差異は[i]
Linz引例ではより小径の製品(缶)を収容すること;[ii]
製品の係止する位置がラベル位置よりも部分的に前方であること;[iii]
製品を模倣したラベルの部分;及び、[iv]
ラベルと製品との間隔がラベルの垂直長さに等しいと判断している。
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646特許のクレーム(実線部分) |
引例(Linz) |
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従って、クレームとのNexusが否定された以上Gamonは上記特徴に基づき客観的証拠を示さなければならない。然しながらGamonが基礎とした客観的証拠はラベルの部分によるものであり、業界紙における賞賛もiQ
maximizerのラベル部で表示された画像が実際の製品サイズの2倍であることのみを理由としている。しかしGamon特許のクレームではラベル部の外観は破線で示されているので上記したユニークな特徴と認識された[iii]-[iv]はクレームされていない。
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さらに、意匠特許における客観的証拠はクレームされた意匠のユニークな特徴に起因するものでなくても良いとするGamonの主張は間違いである。意匠特許においても用途特許と同様に客観的証拠は意匠特許でクレームされたユニークな特徴と関連するものでなければならない。
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結論:
1966年最高裁判決であるGrahamテストの4つの要件に鑑み検討した結果Gamonの特許はLinz引例によって自明と判断される。依って、第2回目のPTABの審決(Gamonの特許は客観的考察事項に鑑み非自明である)を破棄する。
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参考資料:
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[a] Gamonの製品表示ラック iQ
Maximizer
2002年〜2009年に掛けてCampbellはGamon社のiQ Maximizerと呼称する製品陳列ラックを採用していた。
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[b] 2008年後半にCampbellが採用したTrinity社の製品表示ラック(GarmonのiQ
Maximizerと類似している)
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[c] 自明性の判断基準(1966年Graham合衆国最高裁判決より)
自明性の判断は、Graham事件の事実認定(以下の項目)に基づく法律問題である:
[1] Determining the scope and content of the prior
art; |
先行技術の開示範囲と内容を特定する; |
[2] Ascertaining the differences between the
claimed invention and the prior art; |
先行技術とクレームとの差異を確定する; |
[3] Resolving the level of ordinary skill in the
pertinent art. |
関連技術における当業者のレベルを解明する; |
[4] Objective evidence (such as commercial success, long-felt but unsolved
needs, failure of others, and unexpected results) relevant to the issue of
obviousness must be evaluated by Office personnel. |
客観的な証拠(市場での成功、長年に渡り実現されなかった必要性、他者の失敗、予期せぬ効果等)を検討する; |
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米国特許基礎セミナー 非自明性
Part 1 (35 USC 103) - YouTube
FOX
Factory:「商業上の成功」でもって非自明を主張する。
YouTube
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