Biosig Instrument v.
Nautilus,Inc.,
Fed.
Cir. Decision 2015/04/27
| 差戻審においてFed.
Cir.は最高裁のReasonable certainty基準 で判断してもクレーム用語“spaced
relationship”は112条第2項を 満たすと判断した。
By
Tatsuo YABE 2015-05-08
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筆者コメント:
2014年6月2日、最高裁(Nautilus
v. Biosig)は、112条第2項の要件をこれまでの
“insolubly ambiguous STD”を否定し”reasonable
certainty基準”が妥当すると判示した。 依って、本事件をCAFCに差戻した。 CAFCによると最高裁の新基準によっても”spaced relationship”という用語を含むBiosig’753特許のクレーム1は112条第2項を満たすと判断した。依って当事者間においては問題となる特許クレームの有効性が維持されたということで侵害訴訟の係属か、早期和解かという選択肢となる。
今回のCAFC判決の奇妙な点は2014年6月の最高裁判決によって明瞭性の判断基準が変わったというものの、そもそも”reasonableness”という用語は英米法の多くの場合においてコア(核)であり、”reasonable
certainty”という基準は法律の広範な領域で規定されてきたと述べている。 即ち、CAFCにとっては、”reasonable
certainty”の基準に変わったとしてもそれほどの驚きでもなく、その運用も問題ないということを示すべく判決文の5ページを割き最高裁の過去の判決(特許関連以外も含めて)を列記している。然しながら実務者(米国特許出願実務)にとって、列記されたこれら最高裁の判決は殆ど意味をなさない。
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今回の差戻し審において”insolubly
ambiguous STD(IA基準)”或いは”reasonable
certainty STD(RC基準)”のどちらで判断してもBiosig753特許クレーム1の”spaced
relationship”は不明瞭ではないという結論に達したが、IA基準とRC基準(*1)とを比較するとRC基準の方が明瞭性を満たすハードルは高いと言える。
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(*1): “[W]e (最高裁)
hold that a patent is invalid for indefiniteness if its claims, read in light of
the specification delineating the patent, and the prosecution history, fail to
inform, with reasonable certainty
those skilled in the art about the scope of the invention.” Id. At 2124 Nautilus,
Inc. v. Biosig Instruments, Inc. (Sup. Ct. 2120:
2014.06.02)
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然るに実務者(米国特許出願実務)にとってNautlius最高裁判決に鑑み、クレーム用語の明瞭性と明細書(図面を含めて)のサポートの重要性は言うに及ばず、Phillis判決(2005年CAFC大法廷:クレーム解釈において内部証拠の優先性を判示した。)及びTeva判決(最高裁2015年1月:地裁の事実認定に対しては明白な誤りがある場合にのみ控訴審で破棄できる”clear
error STD”としたが、地裁が内部証拠によってのみクレームを解釈した場合には控訴審はde
novo基準でレビュすると判示した。*2)に鑑みて、内部証拠(出願書類と経過書類)の明瞭性がいかに重要であるかを再認識することが重要である。
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(*2) 内部証拠のみでクレーム解釈を完結できるということは訴訟の負担を軽減し、さらに勝敗の不確定要素を軽減できる。外部証拠、例えば、専門家の証言にクレーム用語の解釈を依存する場合にはその事実認定は陪審による技術の理解というよりも証言者の信憑性(好印象を与えるしゃべり方、自信ありそうに発言したか・・等)が大きく影響する。依って、事実認定は証言内容の技術的確からしさというよりも陪審の心象に委ねることになり、且つ、控訴審においては当該陪審の事実認定を破棄する(clear
error STD:Teva判決)のがかなり困難となる。 逆に、特許裁判に不慣れな地裁で裁判が起こされ、しかし内部証拠によってのみ地裁でクレームが解釈された場合にその解釈が理不尽な場合には控訴審でde
novoレビュを受けられる。
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Newman, Schall, Wallach判事:
Wallach判事による意見(2015年4月27日)の概要:
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特許権者: Biosig社
問題となった特許:米国特許第5,337,753号
被疑侵害者: Nautilus
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■問題となった特許クレーム(発明)の概要:
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問題となった特許はBiosig社の心拍数を検出するモニターに関する技術で、以下図7で示すようなエクササイズ用のバイクのグリップなどに取り付けられる。 753特許における発明の本質部分は、運動中のユーザーの心拍数をモニターする際に心臓の鼓動から検出されるECC信号に加えて筋肉の運動より生じるEMG信号があり、このEMG信号がECC信号の検出精度を阻害するノイズとなり、当該ノイズをキャンセルするべくユーザーがグリップするハンドルの部分に2つの電極、{活性電極(active electrode)と共通電極(common electrode)}を所定間隔あけて設置したということである。
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■事件の背景:
特許権者BiosigはNautilusが753特許を侵害しているとして地裁に侵害裁判を起こした。マークマンヒアリングの後に問題となっているクレームの用語”in
spaced relationship”は不明瞭であって無効であると主張し、略式判決を求めた。 地裁は略式判決の訴えを認め問題となるクレームは不明瞭であって無効であると判断した(2012/02)。 当該略式判決を不服としてCAFCに控訴し、控訴審は問題となるクレームは不明瞭ではないと判断し、地裁判決を破棄差し戻した(2013/04:
Nautilus Iと称する)。 当該判決を不服としNautilusは最高裁に上告したところ最高裁が裁量上告を認め、112条第2項の明瞭性の判断基準をこれまで下級審で基準としていた
“insolubly ambiguous
STD”を否定し”reasonable
certainty(*1)”に変更した(2014/6: Nautilus
IIと称す)。本判決は合衆国最高裁判決による差戻し審である。
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(*1): “[W]e (最高裁)
hold that a patent is invalid for indefiniteness if its claims, read in light of
the specification delineating the patent, and the prosecution history, fail to
inform, with reasonable certainty
those skilled in the art about the scope of the invention.” Id. At 2124
Nautilus, Inc. v. Biosig Instruments, Inc.
(Sup. Ct. 2120: 2014.06.02)
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■代表的なクレームは以下の通り:
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Claim
1 of the ’753 patent,
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1. A heart rate monitor for use by a user in association with exercise apparatus
and/or exercise procedures, comprising:
an elongate member;
electronic circuitry including a difference amplifier having a first input
terminal of a first polarity and a second input terminal of a second polarity
opposite to said first polarity;
said elongate member comprising a first half and a second half;
a first live electrode and a first common electrode mounted on said first half
in spaced relationship with each other;
a second live electrode and a second common electrode mounted on said second
half in spaced relationship with each
other;
said first and second common electrodes being connected to each other and to a
point of common potential . . . .
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■争点:
本差戻し審における唯一の争点は、地裁判決(753特許クレーム1は不明瞭であり無効である)を支持するか否かである。 より詳細には、共通電極と活性電極とが間隔を開けて設けられていると記載するクレーム1の文言「間隔を開けて(“spaced
relationship”)」が112条第2項で規定する明瞭性の要件を満たすか否かである。
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CAFC判決概要
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Nautlius Iの後、2015年1月20日に最高裁はTeva判決をくだした。 当最高裁該判決において「内部証拠によってのみ地裁がクレームを解釈した場合には控訴審におけるレビュ基準はde
novoである。然し、内部証拠を超えて外部証拠に依存してクレームを解釈した場合には地裁の事実認定に対する控訴審におけるレビュ基準はclear
errorである」と判示した。
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Nautlius IにおいてFed
Cirは地裁の略式判決(内部証拠による)をレビュした。依って、Fed
Cirにおいてde novo基準でのレビュが妥当する。Nautilus
Iにおいて述べたように、753特許の明細書において
“spaced relationship”が1インチであるというような定量的な記載はない。 然しながら、753特許クレーム、明細書、及び、図面を参酌すると活性電極と共通電極との離間の度合いを当業者が理解するに十分に明瞭であることが理解できる。 即ち、両電極の離間度合いはユーザーの手の幅を超えてはならない(クレーム1において両電極のそれぞれが手から信号を検出すると規定している)、さらに、当該離間度合いは近くなりすぎて両電極による検出値が同一になるということではない。
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さらに、審査過程(再審査)においても引例と識別するためにクレーム1のwhereby節によってEMG信号を除去するという機能の必要性と両電極との関係が記録されている。Whereby節が特許性に重要な条件(状況)を記載している場合にはwhereby節はクレームの限定要件と解釈される。
See Hoffer v. Microsoft (Fed.
Cir. 2005)
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whereby, a first electromyogram signal will be detected between
said first live electrode and said first common electrode, and a second
electromyogram signal, of substantially equal magnitude and phase to said first
electromyogram signal will be detected between said second live electrode and
said second common electrode; so that, when said first electromyogram signal is
applied to said first terminal and said second electromyogram signal is applied
to said second terminal, the first and second electromyogram signals will be
subtracted from each other to produce a substantially
zero electromyogram signal at the output of said difference amplifier
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さらに、当業者であれば、実際のエクササイズを模擬的に実施し、オシロスコープでEMG信号とECC信号を検出し、EMG信号が実質的に除去されたことを確認することでクレームのspaced
relationship(離間)の度合いを決定することができる。
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さらに、再審査係属中に、Biosigの発明者は当業者であればEMG信号が実質的に除去される位置(活性電極と共通電極との離間距離)を決定することができると供述した。
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上記理由で、本法廷(差戻し審)は、クレームの“spaced
relationship”という用語はその権利範囲に対して当業者に合理的な確証を与えると判断する。依って、当該用語を含むクレームは112条第2項の要件を満たす。
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