CAFC判決 Arctic
Cat Inc. v. GEP POWER PRoducts 2019年
03月 26日 Preamble解釈に関する判決 OPINION by JUDGE TARANTO Summarized by Tatsuo YABE –
2019-05-10 |
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本判決はクレームのPreambleを限定と解釈するか否か(第1の争点)に関する興味深い判決と思います。米国特許の一般的な法理としてクレーム本体(body)でPreambleの用語が引用されているか、或いは、審査経過でPreambleが引例と識別するべく主張されたという記録がない場合にはPreambleは権利範囲を減縮しません。 本願ではまさにその法理によりPreambleが限定として解釈されなかったものです。発明は(車両用の)動力分配モジュールに関する。然し、発明のタイトル、関連技術分野、及び、背景技術で説明されている車両はsnowmobileなどオフロードのrecreation車両(一般的な乗用車ではない)です。さらにSummary
of the Inventionの箇所にもone aspectとして
a power distribution module for a personal recreation vehicleで、another
aspectとして a personal recreation vehicleと記載されています。しかし上記法理に基づきクレームのPreambleで記載された
personal recreation vehicleは一切限定事項として解釈されないと判示されました。被疑侵害者の側に立てばクレームの本文の特徴を満たしていれば2輪のモーターバイクであるからという理由で非侵害とはならないということです。
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第2の争点はPre-AIA102条(e)項の先行技術を規則131条に基づき発明日を遡及する場合のconceptual
stage(発明の着想)〜reduction to practice(発明の実施)の間のdue
diligence(誠実な努力)の継続性の挙証に関する。地裁は発明者のdue
diligenceの継続性を否定したが、CAFCは発明者の記録によって(地裁の判断は厳格すぎるとして)due
diligenceの継続性を認めました。
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■ 特許権者:Arctic
Cat Inc.
■ 特許USP
7,072,188 & USP 7,420,822
■ 被疑侵害者: GEP
Power Products
■ 発明の概要:
(娯楽用車両の)動力分配モジュールに関する。クレームの本文には当該モジュールの構成要素としてハウジング220の詳細な構造(cover
250; receptacle openings 232: component attachment portion 230)と動力分配用のハーネス260(electrical
conductors 262)が構成要素として記載されている。
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ArcticはUSP7,072,188(以下188特許)とUSP7,420,822(822特許)の権利者であり、822特許は188特許からの継続出願で権利化された。
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本事件には3つの争点があり、ここでは2つの争点に絞りその概要を記す。
第1の争点はPreambleの解釈で、第2の争点はPre-AIA米国特許法102条[e]項における発明日の遡及に関する。
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■■ 第1争点:
第1争点はクレームのPreambleの解釈に関する。
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■ 188特許には独立クレームが3項あり、Preambleは以下の通りである:
Claim 1 |
Claim 11 |
Claim 19 |
A power distribution module for a personal
recreational vehicle |
A power distribution module for a personal
recreational vehicle |
A power distribution module |
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特許庁審判部はクレーム1、11のPreambleの「personal
recreational vehicle」はクレームの限定事項ではないと判断した。CAFCも同審決を支持した。その理由は以下の通りである:
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根拠となる判例法:
クレームの本文(Body)の記載で構造的に発明が完結しており、Preambleで当該発明の目的(purpose)或いは使用意図(intended
use)を言及している場合にはPreambleはクレーム解釈の限定事項にはならない。Catalina,
289 F.3d at 808 (quoting Rowe, 112 F.3d at 478); see Georgetown Rail
Equip. Co. v. Holland L.P., 867 F.3d 1229, 1236−37 (Fed. Cir. 2017); Deere,
703 F.3d at 1358.
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米国特許法で確立した規則では、周知の製品(物)の新規なる使用目的を規定したクレームに特許を与えることはできない。In
re Schreiber, 128 F.3d 1473, 1477 (Fed. Cir.
1997); see In re Zierden, 411 F.2d 1325, 1328−29 (C.C.P.A. 1969); In
re Sinex, 309 F.2d 488, 492 (C.C.P.A. 1962); Kropa v. Robie, 187 F.2d
150, 152 (C.C.P.A. 1951); see also Catalina, 289 F.3d at 809 (discussing Roberts
v. Ryer, 91 U.S. 150, 157 (1875), and In re Gardiner, 171 F.2d 313,
315−16 (C.C.P.A. 1948))
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本事件の188特許のクレーム1,11はその本文において構造的に完結された発明の特徴が規定されており、Preambleのpersonal
recreation vehicleはクレームされた発明「power
distribution module」の使用目的を示すに過ぎない。 PreambleのPersonal
recreation vehicleはクレームの本文において完結された発明に必要となる構造を加えるものではない、さらには、審査過程においてpersonal
recreation vehicleに依存して権利化された記録はない。
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依って、188特許のクレーム1、11のPreambleは発明を限定するものではない。
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■ 822特許には独立クレームが3項あり、Preambleは以下の通りである:
Claim 1 |
Claim 5 |
Claim 10 |
A personal recreational vehicle |
An electric distribution module for a vehicle |
A power distribution module |
本事件ではクレーム1のPreambleの解釈のみが問題点となった。クレーム1では確かにPreambleが本文(the
power distribution module)に対して構造を規定している。しかしPreambleが構造を規定しているからといって如何なる場合であっても限定事項となるとは限らない。明細書においてPreambleの特徴が重要であると記載されている場合にはPreambleの特徴はクレームの限定事項と解釈させるであろう。
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本事件の822特許クレーム1のPreambleの構造は明細書を参酌するにクレームされた発明の部分を構成するには不十分と判断する。即ち、Preambleのvehicleという用語はクレーム本文のantecedent
basis(先行詞)となっていない(即ち、本文で引用されていない)。 さらに本文の記載(規定された構成要素)においてクレームされた発明は完結しており、Preambleが本文の欠落事項を補充する余地がない。寧ろ、Preambleは本文で規定されたmoduleがその部分であるということを追記するのみである。さらには審査経過において引例と識別するべくPreambleが主張されたという記録がない。
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明細書のSummary of the Inventionのセクションに、one
aspect of the present invention is directed to a
power distribution module for a personal recreation vehicleとanother
aspect of the invention is directed to a
personal recreation vehicle having claimed features regarding electrical
distributionと記載されている。図1にはmoduleのみではなく車両が描写されている。しかし明細書の
aspect(一実施態様)という用語は決定的であり、図面は骨格(skeletal)にすぎない。即ち、power
distribution moduleに対する改良以外に車両の特徴が改良に加担しているという記載が明細書には存在しない。また、クレーム本文での改良点に関わる特徴に対して、Preambleのvehicleという用語は一般的な用語にすぎない。
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さらには本事件の822特許クレーム1のPreambleと本文との関係は長期に渡り引用される判例(ex
parte Jepson: 1917)のJepsonタイプとは明瞭に異なる。Jepson形式(“conventional
or known” elements in a “preamble” followed by a transition phrase “such
as ‘wherein the improvement comprises,”)でクレームが表現された場合にはPreamble部分はクレームの構成要素であり、権利範囲を決定する。
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依って、822特許のクレーム1のPreambleは発明を限定するものではない。
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■■ 第2争点:
第2の争点はPre-AIA米国特許法102条[e]項の発明日の遡及に関する。
本事件では以下のタイムラインのようにBoyd引例が先行技術として審判部で引用されBoyd引例がPre-AIAの102条[e]項の引例として引用された。Boydの米国出願日(2002年4月1日)の後に出願された188特許(2002年10月29日)の発明者Janisch氏が4月1日以前に発明を着想(concept)していたことは当事者間に争いはない。
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発明日を遡及するには問題となる引例のPrior
Artの日(即ち、Boydの出願日)以前に発明の着想(conceived
the invention)があり、当該着想日から発明が実施(reduction
to practice)されるまでの期間に発明者が発明を実施するのに必要な努力(due
diligence)を継続していたかが問題となる。本判例では言及されていないが米国特許出願日は発明の実施日と擬制(みなされる)される(”constructive
reduction to practice”筆者)。審判部は、発明者Janischによる誠実な努力が継続していない(4月1日〜4月29日と8月16日〜10月18日の約3か月間)としてBoydの出願日以前に発明日の遡及を否定した。CAFCは審判部の判断は硬直すぎるとし、Janisch氏によるdue
diligenceの継続ありと判断した。
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Lack of diligence cannot be inferred from putting the
invention into someone else’s hands for needed testing and awaiting test
results for a short period commensurate with the testing need, at least where
oversight was diligent. That course of action, as a way of reducing an invention
to practice, does not give rise to an inference of unreasonable delay or
abandonment of the invention. See Perfect Surgical, 841 F.3d at 1009
(“That an inventor overseeing a study did not record its progress on a daily,
weekly, or even monthly basis does not mean the inventor necessarily
abandoned his invention or unreasonably delayed it.” (emphasis added)).
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Janisch氏はBoyd出願日以降に5回にわたり製品の仕様及びテスト条件の変更を行っており、2002年5月17日及び2002年8月16日のemailでテストに必要な部品の納入を迫り、Tyco氏(Arctic社従業員)にテストの進捗状況の報告を迫るなど発明の実施化に向けて必要な努力(Due
Diligence)を継続したと理解できる。
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依って、Boydは188特許及び822特許の先行技術とはならない。
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地裁判決を一部破棄、差戻し
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