CAFC判決 Alison High-Tech
v. ITC and Aspen Aerogels 2019年
08月 27日 クレームの用語”lofty
fibrous batting”は112条第2項の 要件を満たすか? OPINION by JUDGE STOLL Summarized by Tatsuo YABE –
2019-08-31 |
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本判決は112条第2項のクレームの明瞭性に関するものであり、Aspen社の359特許で問題となった用語は、エアロゲル(軽量でありながら高い絶縁性を有する)の材料を規定するクレーム1の”lofty
fibrous batting”という用語である。明細書によるとlofty
battingとは孔(気泡:空気)と圧縮後に復元する弾性という性質を備えた繊維材料である。被疑侵害者であるAlisonは当該用語の解釈で「弾性(圧縮後復元する)」という意味合い(どの程度の復元なのか)が当業者にとって合理的な確証を与える程度の明瞭性がないと主張したがITC及びCAFCでも当該主張は容認されなかった。その主たる理由は、明細書での当該用語に対する定義が充実していたことである。さらに、外部の技術辞典においても明細書での定義と整合していたことによる。さらに、CAFCはAlisonが不明瞭とする「復元の度合い」(即ち、どの程度の復元であれば侵害・非侵害なのか不明瞭である)は当該技術分野における当業者であれば無視できるレベルの復元なのか否か(即ち非侵害)は判断できるとした。
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筆者の個人的な見解として、本事案は、CAFCの異なる3名の判事で審理されていたとしたら不明瞭と判断されていた可能性もあると思料する。Alisonが主張するように”loft fibrous
batting”という用語は幾分かの弾性(即ち侵害)と極微小或いは非弾性(即ち、非侵害)との間でどのレベルなのか客観的な境界が不明と判断されていてもそれは理不尽な判断とは言えないと考える。しかし、359特許の明細書は充実しているのでもし訴訟で不明瞭(無効)と判断されたとしても、明細書の開示を根拠に再審査で70%以上の復元であるというようにクレームを減縮補正し特許(権利)を維持できるし、且つ、侵害対応のイ号のかなり多くもその程度の復元率を備える材料と思料する。
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従って、クレームで程度を示す用語を使用する場合にはそのサポートが明細書に充実していることが何より重要である。(以上筆者)
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■ 特許権者:Aspen
Aerogels
■ 被疑侵害者:Alison
High-Tech
■ 特許:USP
7,078,359
■ 特許発明の概要:
発明はエアロゲル(軽量でありながら高い絶縁性を有する)の材料に関し、より詳細にはlofty
fibrous battingシートで表現されており数秒間の圧縮後に70%以上の厚みに復元できるような復元率の良い素材に関する。
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■ 争点:
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「a
lofty fibrous
batting」という用語を含む359特許クレーム1は112条第2項のクレームの明瞭性の要件を満たすか?
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■ 代表的な特許のクレーム:
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代表的なクレーム |
概要和訳 |
1. A composite article to serve as a
flexible, durable, light-weight insulation product, said article
comprising a lofty fibrous batting sheet and a continuous aerogel through said batting. |
柔軟性と耐久性を備えた軽量な絶縁材として機能する複合体であって、当該複合体はlofty
fibrous battingシートと前記batting全体に連続的なエアロゲルを含む。 |
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■ ITC:
Alisonは、クレーム解釈時に、lofty fibrous battingという用語は不明瞭であると主張したがITC
は359特許に当該用語の意味合いは”that
shows the properties of bulk and some resilience (with or without full bulk
recovery)”と説明されているとしAlisonの主張を否定した。ITCはさらに359特許の明細書に、”bulk”とは空気を意味し、”lofty
batting”は十分な弾性(数秒間圧縮した後元々の厚みの少なくとも70%に復元する)を意味すると記載されていることを指摘した。
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Alisonはlofty fibrous battingという素材は359特許の明細書で記載されている少なくとも50%以下の厚みに数秒間圧縮した後に少なくとも70%の厚みに復元するものに減縮解釈されるべきであると主張したが、ITCは容認しなかった。
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■ CAFC判決:
ITCの判断を支持。
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米国特許法112条第2項でクレームの明瞭性が要求されており、2014年のNaltilus最高裁判決で112条第2項の要件を満たすには「合理的な確証(“reasonable
certainty”)と呼称する判断基準が出された。“a patent’s
claims, viewed in light of the specification and prosecution history, inform
those skilled in the art about the scope of the invention with reasonable
certainty.” Nautilus,
Inc. v. Biosig Instruments, Inc., 572 U.S. 898, 910 (2014).
最高裁によって判示された「合理的な確証」という基準は文言に内在する限定(制限)とクレームとして公共に対する通知機能との微妙なバランスを反映している。特許権者は自身の発明を数学的な正確さで規定する必要はない。寧ろ、クレームに要求される正確さの度合いは発明の主題によって異なる。
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The “reasonable certainty”
standard established in Nautilus reflects a “delicate balance” between “the inherent
limitations of language” and providing “clear notice of what is claimed.”
572 U.S. at 909 (first quoting Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 535 U.S. 722, 731
(2002)).
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Consistent with these principles, we
have explained that “a patentee need not define his invention with
mathematical precision in order to comply with the definiteness requirement.” Sonix Tech.
Co. v. Publ’ns Int’l, Ltd., 844 F.3d 1370, 1377 (Fed. Cir. 2017) (quoting Invitrogen Corp. v.
Biocrest Mfg., L.P., 424 F.3d 1374, 1384 (Fed. Cir. 2005)).
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Instead, “[t]he degree of precision
necessary for adequate claims is a function of the nature of the subject
matter.” Biosig
Instruments, Inc. v. Nautilus, Inc., 783 F.3d 1374, 1382 (Fed. Cir. 2015)
(alteration in original)(quoting Miles Labs., Inc. v. Shandon,
Inc., 997 F.2d 870,
875 (Fed. Cir. 1993)).
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いずれにせよ、クレームで使用する用語が「程度・度合い」を表す場合にはそれは当業者にとって客観性のある境界を示さなければならない。One-E-Way, 859 F.3d at 1068
(quoting Interval
Licensing LLC v. AOL, Inc., 766 F.3d 1364, 1371 (Fed. Cir. 2014)). 内部証拠(クレーム、明細書、図面、審査経過)によって客観性のある境界を示すことも可能である。さらに外部証拠によっても客観性のある境界を示すのを補助することも可能である。Enzo Biochem,
Inc. v. Applera Corp., 599 F.3d 1325, 1332–36 (Fed. Cir. 2010)
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問題となる用語、lofty battingは明細書で明白に規定されている(A
“lofty batting” as “a fibrous material that shows the properties of bulk
and some resilience (with or without full bulk recovery).” さらに、a
batting is “sufficiently resilient” if it “can be compressed to remove the
air (bulk) yet spring back to substantially its original size and shape”. 中略 359特許にはさらにクレームされた発明に関わる7つの実施例(Examples)が詳細に記載されている。明細書内での開示はクレームの明瞭性の判断の要となる。
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依って、これだけの開示が明細書にあるので問題となる用語を含むクレームは112条2項の明瞭性の要件を満たしていると結論づけられる。しかし、付け加えるならば出願経過における特許許可理由において、審査官は、the
specification defined “lofty fibrous batting” as “a fibrous material that
shows the properties of bulk and some resilience (with or without the full bulk
recovery)”and distinguished the prior art based on this termと述べている。
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さらには外部証拠(技術用語辞典)よっても問題となる用語”lofty
fibrous batting”の”loft”と”batting”の意味合いが359特許で使用される意味合いと整合性があることが確認できる。
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上記のように359特許の開示は”lofty
fibrous batting”という用語の意味合いを十分詳細に説明している。然るに、359特許は”lofty
fibrous batting”という用語の権利範囲を当業者が十分な確証をもって理解できる記載になっているので359特許のクレーム1は不明瞭ではない。
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さらに、Alisonは”loft
fibrous batting”という用語は幾分かの弾性(即ち侵害)と極微小或いは非弾性(即ち、非侵害)との間でどのレベルなのか客観的な境界が示されていないと主張するが、Alisonは程度(度合)を示すクレーム用語に対して数値レベルでの過度の正確さを要求しており、ある程度の不明瞭さを容認するということは発明を助長するためのコスト(支払うべき費用)であるとする法理に抵触する。With this argument,
Alison seeks a level of numerical precision beyond that required when using a
term of degree. See Enzo, 599 F.3d at 1335; see also
Nautilus, 572 U.S. at 909
(“Some modicum of uncertainty . . . is the ‘price of ensuring the
appropriate incentives for innovation.’” (quoting Festo, 535 U.S. at
732)).
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本発明においては当業者であれば数値的な限定がなくとも素材が無視できるレベルの弾性体であるか、又は非弾性体であるかを判断できる。
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最後にAlisonは問題となる用語の意味合いを明細書のEXAMPLEで言及されているように、数秒間の圧縮後に70%以上の厚みに復元できる材料に限定解釈されるべきであると主張しているが、容認できない。多くのCAFCの判例で述べたが、明細書のEXAMPLEはクレームの権利範囲を当該EXAMPLEに直接的に拘束(減縮)することなく、クレームの権利範囲を合理的な確証を伴い当業者に伝える役割をし、即ち、クレームが不明瞭ではないことを示す。
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