Akamai and MIT v. | Limelight Networks, Inc. | Fed. Cir. en banc : 2015/08/13 |
By
Tatsuo YABE 2015-08-18
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まとめ(筆者コメント):
Akamai事件は先般最高裁(2014年6月)まで上がり昨今までは方法クレームのステップの実行者が複数である場合の271条(b)項の教唆侵害の判断基準を判示した事件として知られている。 然し元を正せば方法クレームの直接侵害(271条a項)の成立要件であるsingle
party ルールの解釈の仕方にある。
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Limelightは顧客にCDN(Contents Delivery Network)のサービスを提供するあたり顧客の側で2つのステップを実行させる仕組みとなっており、Limelightの行為と顧客の行為を合算したところAkamai特許方法クレームのステップを全て満たすという事実関係にある。
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CAFCは自身のMuniauction事件(2008年)*1において直接侵害の成立要件であるa
single partyとは単一の当事者、本人と代理人との関係、契約関係或いは共同事業を営む上で互いに代理できる関係を含むと判示し、同Muniauction判決に鑑みLimelightの行為は直接侵害を成立しないと判断した(2010年)。CAFCは間接侵害を争点に組み込み2012年の大法廷判決(6:5)でa
single party ルールと間接侵害の成立要件との関係を判示した(即ち、single
partyルールを満たさなくとも教唆侵害は成立することを言及した)。その後、2014年6月の最高裁では、教唆侵害を挙証する上で直接侵害の成立が要件になるかのみ判断した(即ち、直接侵害なきところに教唆侵害なしと判示した)。 但し、最高裁は、CAFCはMuniauction判決のsingle
party ルールを狭く解釈しすぎていないか・・・という示唆が判決文に盛り込まれた。 その後、CAFCはパネル判決においてMuniauction判決の判示事項に鑑み本事件を再審理したが2:1でCAFCのsingle
partyルールに鑑み正しく審理されたと判断した(2015年5月13日)。 驚くことに、今回(2015年8月13日)、CAFCは大法廷(全員一致で)において直接侵害の成立要件であるsingle
partyルールを再度見直し自身の5月13日パネル判決を破棄した。
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今回の大法廷判決(2015年8月13日)は271条(a)項の直接侵害の成立要件であるsingle
entityルールとは自身のBMC判決(*2)を引用し、方法クレームの手順(ステップ)の実行行為の全てが単一の当事者に帰属するか否か“whether
all method steps can be attributed to a single entity”で判断するのが適切であると述べた。
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但し、BMC判決(*2)はMuniauction判決(*1)でも肯定的に引用されている。 しかもMuniauction判決においても今回のwhether
all method steps can be attributed to a single entity(即ち、行為の全てが単一の当事者Limelightに帰属するか?)を判断する上でthe
entity directs or controls others’
performance(当事者Limelightが他者の行為を指揮・管理しているか)を手法としている。 今回の大法廷判決においても全く同じ論法でLimelightが顧客の行為を指揮・管理していると結論づけている。
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依って、今回の大法廷は自身の2008年のMuniauction事件の法理を否定、あるいは修正したわけではなく、寧ろ、CAFCは過去のパネル判決、大法廷判決で本件事実に対する法理の適用が間違っていたということだ。
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それにしてもAkamaiにとっては迷惑な話だ(勿論、Limelightにとっても)。2006年から地裁で訴訟を起こし2008年陪審の評決でLimelightを侵害と判断した・・ここで終結しておれば良かったが、地裁裁判官が評決を覆し、非侵害と判断した。 以後、2010年CAFCパネル判決、2012年CAFC大法廷判決(6:5)、2014年最高裁判決、そして2015年5月にCAFCパネル判決(本来少なくともこの時点で大法廷で審理するべきだった)、そして今回の2015年8月のCAFC大法廷判決に至った。 9年にも及ぶ理不尽な法曹界におけるボタンの掛け違いで漸くこれから差戻し審にて教唆侵害の有無、損害賠償等が審理されることになる(勿論、当事者間で和解による早期終結もあるが)。 「CAFC本当にしっかりしてくれよ!」・・と言うにつきる。(以上筆者コメント)
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Prost(判事長),
Newman, Lourie, Linn, Dyk, Moore, O’Malley, Reyna,
Wallach, Hughes判事: (Taranto,
Chen, Stoll判事は審理に参加せず)
全員一致意見
特許権者: Akamai
問題となった特許:米国特許第6,108,703号
被疑侵害者: Limelight
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■問題となった特許クレーム(発明)の概要:
19. A content delivery service(*3),
comprising:
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replicating
a set of page objects across a wide area network of content servers managed by a
domain other than a content provider domain;
—
for
a given page normally served from the content provider domain, tagging
the embedded objects of the page so that requests for the page objects resolve
to the domain instead of the content provider domain;
—
responsive
to a request for the given page received at the content provider domain, serving
the given page from the content provider domain; and
—
serving
at least one embedded object of the given page from a given content server in
the domain instead of from the content provider domain.
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AkamaiはCDN(Content
Delivery Network:コンテンツ配信ネットワーク)を利用する電子データ配信手法に関する特許(USP6,108,703)の専用実施権者である。 LimelightはCDNを利用し、当該特許クレームの幾つかのステップを実行している。 しかし、”tagging(タグ付)”と呼ばれるステップは顧客が実施することになっている。
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■事件の経緯:
□ 2006年6月、AkamaiとMITがLimelightをマサチューセッツ地区連邦地裁に提訴した。 2008年2月に陪審はLimelightを侵害と判断した。
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□ マサチューセッツ地区連邦地裁判決:2009年4月
2008年2月の陪審の評決を否定し非侵害と判断した。
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□ CAFCパネル判決:2010年12月20日
単一の当事者によって特許の全てのステップが実行されていることが直接侵害の構成要件(単一Partyルール)である。Akamai特許の全てのステップをLimelightが実施しているわけではなく、その顧客もLimelightの代理人として残りのステップを実行しているわけではないのでLimelightによる直接侵害なし。
Panel decision of Akamai
significantly narrows the circumstances
under which an accused infringer can be found liable for infringement where it
practices some but not all of the steps of a patented method. While the Federal
Circuit's BMC and Muniauction cases held that joint
infringement liability would arise if the accused infringer "directed or
controlled" the other party's practice of one or more of the method steps, Akamai
holds that liability arises only where the other party is acting as
the accused infringer's agent under traditional principles of agency law, or
where the other party is contractually obligated to perform the relevant
method steps.
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□ CAFC大法廷判決(6:5): 2012年8月31日
Limelightの直接侵害を否定するも教唆侵害の可能性を言及し、教唆侵害の判断基準は方法クレームの全てのステップが単一の当事者によって実行されている必要はないと言及した。
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“In these cases, we conclude that it is unlikely
that Congress intended to endorse the “single
entity rule,” at least for the purpose of induced infringement,
advocated by Epic and Limelight, which would permit ready evasion of valid
method claims with no apparent countervailing benefits.”
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The en banc Court determined that a party
can still show induced
infringement under
circumstances where both the inducer and the induced party each perform some of
the steps of a method claim. Applying this test, the Court found that Limelight
could be held liable for induced infringement and reversed and remanded the case
for further proceedings.
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□ 最高裁判決: 2014年6月2日 (CAFC判決破棄差し戻し)
最高裁はCAFC大法廷判決(Akamai
v. Limelight: 2012-08-31)を破棄・差し戻した。 最高裁によると271条(a)項による直接侵害を構成しない場合には被告Limelightが271条(b)項の教唆侵害の責任を負うことはない。
最高裁は271条(a)項の直接侵害の構成要件に関して、CAFCによるMuniauction事件(2008年)の判示を正しいと推定し(最高裁は皮肉交じりに”正しいと推定する“と判決文で言及している)、最高裁は自身のAro
Mfg.事件(最高裁1961年)の法理を適用し、271条(a)の直接侵害が認定されないので、271条(b)項の責をLimelightは負わないとした。 但し、最高裁は判決文の末尾にCAFCに対して271条(a)項の直接侵害の構成要件を再度レビュするように示唆している。
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□ CAFC差戻し審(パネル判決)Akamai
v. Limelight:
2015年5月13日
CAFCは2014年6月の最高裁判決からの差戻し審において271条(a)項の直接侵害を構成する要件を再審理した。 多数意見(但し、Moore判事による33ページにも及ぶ反対意見あり)は自身のMuniauction事件(2008年)の判示を肯定した。即ち、271条(a)項の直接侵害を構成するためには「単一のEntity:
single entity」によってクレームしている全てのステップが実行されなければならない。ここで言う「単一のEntity」とは単一の人(法人)、或いは、本人と代理人との関係、契約関係、或いは、共同事業を営む上で互いに代理人となる関係を含む。
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□ 今回のCAFC大法廷判決:2015年8月13日
■争点:
271(a)項で規定する直接侵害の構成要件である「単一Partyルール(Muniauction事件の判示:2008年)」を狭く解釈しすぎていないか? 複数の当事者の行為によってのみ方法クレームの構成要素が全て満たされる場合に「単一のParty規則」を満たすには、本人と代理人との関係、契約関係、或いは、共同事業を営む上で互いに代理人となる関係の場合のみか?
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■ CAFC大法廷判決概要
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方法クレームに対する直接侵害(271条a項)はクレームで規定された全てのステップが単一の当事者によって実行されるか、或いは、ステップを実行する者が単一の当事者に属する場合に成立するBMC
Res., Inc. v. Paymentech, L.P. 498 F.3d (Fed. Cir.
2007)。従って、複数の当事者で方法クレームのステップを実行する場合に直接侵害を判断するには、裁判所は、第1当事者の行為が他の当事者に帰属し、全体として単一の当事者が侵害行為に責任を負うか否かを検討する。次のような場合に当事者が他者によるステップを実施する行為に対しても責任を負う(1)当該当事者が他者の行為を指揮(指示)しているか、管理している場合、(2)複数の行為者(例:当事者と他者)が共同事業体を構成する場合。
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271条(a)項の直接侵害を判断するには方法クレームのステップの全てが単一の当事者に帰属するか否かで判断する(whether
all method steps can be attributed to a single entity)。
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地裁判決を見直したところ、LimelightはAkamai特許クレームの残りのステップを実施することを顧客に対して指示、或いは、管理をしており、Akamai特許クレームで規定されている全てのステップの実行がLimelightに帰属すると理解するに十分な証拠がある。以下にその根拠を示す。
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Limelightはサービスを提供する前に顧客に契約することを要請している。当該契約書には顧客がLimelightのサービスを受けるために所定の手順(ステップ)の実行が必要であると述べている。当該手順(ステップ)とはAkamai特許クレームで規定しているタッギング(タグ付け)と提供する(serving)ステップである。従って、Limelightの顧客がLimelightの製品を使用するにはコンテンツのタグ付と提供という手順を実行しなければならない。このようにLimelightはコンテンツ配信ネットワークを顧客が使用するにあたり上記2つのステップの実行を要件としている。
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初期手続が完了した後にLimelightは顧客にWELCOMEレーターを配信しLimelightの提供するサービスを受けるための手順を説明する。 当該WELCOMEレーターにLimelightの技術アカウントマネージャーがLimelightのサービスの運営を統括すると明記されている。Limelightは顧客に対して手順ごとの指示を逐次与えている。 顧客は当該手順を実行することなくLimelightのサービスを受けることはできない。
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Limelightの技術者は顧客の問題解決を継続的にアシストする。
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上記のように、顧客はLimelightのガイダンスを単に参照し各人各様で独自に行動するという自由はない。 寧ろ、Limelightが顧客の行為(所定手順)の内容とタイミングを管理し、当該手順を規定通りに実行しないとサービスを受けることはできない。このようにLimelightは顧客がAkamai特許クレームの残りのステップ(手順:タッギングとサービス)の実行を指示し、或いは、管理していると理解される。従ってLimelightはAkamai特許に対して直接侵害の責任を負う。
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結論:
Limelightが顧客の行為(所定手順)の内容とタイミングを管理しており、顧客は当該手順をLimelightの指示に基づき規定通りに実行しないとLimelightの提供するサービスを受けることはできない。このようにLimelightは顧客がAkamai特許クレームの残りのステップ(手順:タッギングとサービス)の実行を指示し、或いは、管理していると理解される。従ってLimelightはAkamai特許に対して直接侵害の責任を負う。
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上記に鑑み、パネル判決を破棄・差し戻しとする。
References:
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*1
Muniauction事件(2008年CAFC判決)
Muniauction Inc. v. Thomson Corp. 532 F.3d
1318 (Fed. Cir.: 2008)
被告は方法クレームで規定されたステップの幾つかを実施し、当該被告のシステムにアクセス許可された顧客が残りのステップを実施するという事実関係において、CAFCはまずは単一の者がクレームされた方法クレームの全てを実施することが271条(a)項の直接侵害の要件であるという理解に基づき審理した。 但し、この要件は、方法クレームのステップが複数の者によって実施されるとしても、単一の者がすべてのステップの実行を自身の指揮・管理下に置いている場合には満たされると判断した。 当該理解の基に、CAFCは、顧客が残りのステップを実行するのは被告の指揮・管理下にないとして被告の行為は方法クレームの直接侵害を構成しないと判断した。
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“Accordingly,
where the actions of multiple parties combine to perform every step of a claimed
method, the claim is directly infringed only if one party exercises “control
or direction” over the entire process such that every step is attributable to
the controlling party, i.e., mastermind.” (2007-1485: Fed. Cir. decided on
2008-07-14)
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*2
BMC事件(2007年判決)
BMC Res., Inc. v. Paymentech, L.P. 498 F.3d (Fed. Cir. 2007)
Direct
infringement under 271(a) occurs where all steps of a claimed method are
performed by or attributable to a single entity.
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*3
Akamai特許(USP6,108,703)クレーム19のPreambleは“A
content delivery service”と記載されているが、A
content delivery methodの間違いであると思料する。 何故なら、クレーム19の本文は全てステップが規定されており、従属クレーム20でThe
content delivery method as described in claim 19と記載されている。
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