CAFC大法廷判決:

Akamai v. Limelight

McKesson v. EPIC

 

2012831

 

Summarized by Tatsuo YABE

Jan. 31, 2013

 

 

大法廷(6:5)は、2つの事件(Akamai事件とMcKesson事件)に共通する方法クレームの誘因侵害(米国特許法第271b項)に対し重大な判決をくだした。 多数意見(65)によると、方法クレームに対する誘因侵害を成立するには、誘因者(教唆者)が問題となる方法クレーム(特許)を周知しており、方法クレームの全てのステップが満たされている(侵害がある)ことが大前提である。 しかし、方法クレームの全てのステップを満たす(実施する)のに、教唆者がステップの一部を実施し、残りのステップを被教唆者によって実施されても良い(Akamai事件)。 さらに、教唆者が方法クレームのステップの何れも実施せずに、複数の実行者(被教唆者)によってステップが分割的に実施され、トータルとしてステップの全てが実施されている場合であっても良い(McKesson事件)と判示した。

 

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2012831日、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷は271条(b)項に基づく特許侵害成立要件に対する重要な判決を下した。 CAFC大法廷(11人の判事)は、Akamai Technologies, Inc. v. Limelight Networks事件(以下Akamai事件) McKesson Technologies, Inc. v. Epic Systems 事件(以下McKesson事件)の2つのCAFC判決(パネル判決:3人の裁判官による判決)に対して判決をくだした。 

 

本大法廷判決の争点は、米国特許法第271条の(b)項の「誘発侵害」に基づくものであり、複数の者(人または法人)が方法クレームのステップを部分的に行い、トータルとしてステップ全てを実行する場合に、教唆侵害が成立するかということである。

本大法廷判決は、Rader主席判事を含む計11名中6名の判事(LourieBrysonMooreReynaWallach)による。

 

単一の者(自然人或いは法人)によって侵害を構成する全ての要素を実行した場合には271(a)項の基に直接侵害の責を負う。 侵害行為を成立させる構成要素の全てを他者に誘因実施させた場合に、誘因者(教唆者)271(b)項の基に誘発侵害の責を負う。 しかし、直接侵害を構成する要素を2者以上に分離し実施された場合には、今回のように法理の問題を生じる。本大法廷において、2つの争点が提起された。 一つは(Akamai事件においては)、被告が方法クレームのステップの一部を実施し、残りのステップを他者に誘因実施させた場合に、当該被告は誘発侵害の責を負うかということ。 2つめは(McKesson事件においては)、被告が他の複数の者に方法クレームの全てのステップを誘因実施(一人の者によって全てのステップが誘因実施されたわけではない)させた場合に、被告は誘発侵害の責を負うかということである。

 

このような誘因侵害事件における分離された侵害行為は方法クレームの場合にのみ発生する。 物のクレームの場合には、最終の要素(クレームの最後の構成要素)を追加する者が、クレームの構成要素の全てを満たすので、直接侵害が必ず発生する。 昨今のCAFC判決における先例は、クレームのステップを実施する者(或いは複数者)の行為を指示、また、管理していない場合には、これら複数の行為者によって結果としてクレーム・ステップの全てが実施されていたとしても、特許権者は271(b)項に基づく侵害行為に対する救済を求めることができないと解釈していた。

 

条文の解釈、先例、及び、特許の本来の目的に鑑み、上記のような271(b)項に対する本法廷(CAFC)の昨今の解釈は間違いであった。

 

数多くの助言(Amicus Curie Brief:裁判所に対する助言)が寄せられたが、その多くはクレームのステップの全てを単一の者(自然人又は法人)が実行しない場合に直接侵害を成立するのかに関するであったが、本大法廷においては、その点に関して審理しない。 何故なら、当大法廷における争点は誘発侵害の法理を適用することによって解決されるからである。 このようなアプローチで審理するに、当法廷は、「誘発侵害を構成するには、誘発者以外の単一の者(自然人又は法人)が直接侵害の責を負うという状況でなければならない」と判示した2007年の判決(BMC Resources v. Paymentech)を破棄する。 但し、方法クレームの全てのステップが実施されることは誘発侵害を成立するための要件であるが、それらすべてのステップを単一の者(自然人又は法人)によって実施されるという必要はない。

 

 

    本事件の背景:

 

Akamai事件

AkamaiWebのコンテンツを効率的に配信する手法に関する特許を所有している。 Webコンテンツのプロバイダーの内容(コンテンツ)を複製されたサーバー群にアップロードし、プロバイダーのWebページをアップデート(変更)し、Webブラウザー(閲覧者)にそれらコンテンツをダウンロードするように指示するステップを規定している。 AkamaiLimelightが当該特許を直接侵害および教唆侵害をしているとし、特許侵害訴訟を起こした。 Limelightはネットワークサーバーを保守管理しており、コンテンツの要素をサーバー群にアップすることで効率的なコンテンツの配信サービスを実施している。 但し、Limelight自身はコンテンツ・プロバイダーのWebページをアップデート(変更)する作業は実施しておらず、Limelightの顧客にアップデート(変更)作業を実施するステップを指示している。

 

McKesson事件

McKessonはヘルスケアー提供者と患者との電子通信の手法に関する特許を有しており、Epicは当該特許の侵害を教唆している(教唆侵害)として特許裁判を提起した。  Epicはソフト制作会社であり、ヘルスケアーを提供する会社にソフトをライセンスすることを業としている。 ライセンスされたソフトの一例としては、MyChatというものがあり、ヘルスケアーの提供者が患者と電子的に通信することを可能にするものである。 McKessonは、Epicは自身の顧客にMckessonの特許を侵害することを誘発していると主張した。 尚、Epic自身は問題となる特許のいずれのステップも実施しておらず、それらステップは患者とヘルスケアの提供者で分割的に実施されている。

 

上記両方の事件の下級審(地裁)において、LimelightおよびEpicも共に非侵害と判断された。

 

Akamai事件(下級審)においては、Limelightの顧客が方法クレームのステップの一部を実施するのみなので、BMC判決に鑑みJMOL(法律判断)の申立てを受理し、非侵害の判決に至った。 McKesson事件(下級審)においては、患者(Epicの顧客ではない)が方法クレームの通信を開始するというステップを実施するという理由で、BMC判決に鑑みJMOLの申請を受理し判決に至った。

 

本大法廷は今回の判決に至った理由を以下のように説示した(抄訳)

 

    271(a)項と271(b)項の解釈:

271(a)項の直接侵害を認定するには、被告は特許侵害となるための全ての行為を自身であるいは監督者として実施しなければならない。Cross Med. Produs. V. Medtronic Sofamor Danek (Fed. Cir. 2005)  

 

方法クレームの場合には、被疑侵害者がクレームされたステップの全てを実施するか、あるいは、他者に指示するか、監督下のもとに行動を実施させるかである。直接侵害は独立した複数の者(自然人又は法人)が方法クレームのステップを実施する状態までをもカバーしていない。 

 

あくまで特許侵害は無過失責任の不法行為(strict liability offense: 行為者の故意・過失の有無を問わず、発生した結果について不法行為責任を負う)である。 依って、侵害行為の状況は懲罰賠償に影響するのみである。直接侵害は無過失の責任を発生させるが、その責任はクレームの各構成要素の全てを実施するものに制限されている。 Muniauction

 

誘発侵害は271条(b)項に規定されており、他の者に侵害行為を扇動し、助長し、あるいは、誘発する者に対する罰則規定である。 

 

尚、誘発侵害は直接侵害とは異なり無過失責任を負う不法行為ではなく、被疑侵害者がその誘発行為によって特許侵害が発生することを周知(「意図」)していることが要件である。 Global-Tech Appliances v. SEB (Sup Ct. 2011) 当該「意図」の要件に対して、CAFCは被疑侵害者が意図的に侵害行為を誘発していることと、他者の侵害行為を助長するという「特別の意思(specific intent)」を持っていることが要件であると判示している。 DSU Med. Corp v. JMS Co. (Fed Cir. 2006)

 

然しながら、誘因侵害の認定には、教唆者と被教唆者(教唆された者)との間に代位関係、あるいは、被教唆者が教唆者の管理監督下で行動していることを要件としない。 Arris Grp., Inc. v. British Telecomms. PLC (Fed Cir. 2011)

 

誘発侵害の範囲を制限する主たる要因は、誘発行為によって実際に侵害行為が行われるということである。 即ち、実際に侵害行為が発生しない場合には、誘発侵害もないという法理は確定している。 Deepsouth Packing Co. v. Laitram Corp. (Sup Ct. 1972)

 

言い換えると、特許侵害未遂という規定はない、即ち、侵害行為の発生がなければ、誘発侵害の責を負うことはない。

 

しかし、誘発侵害を認定するために侵害行為の存在を証明するということは、単一の人(法人又は自然人)による直接侵害を証明することではない。 教唆者が意図的に被教唆者(複数)を扇動し特許侵害となる行為を実行させた場合に、被誘発者が単一(法人あるいは自然人)ではないということのみで、教唆者が誘発侵害の責任を回避できることを正当化できる理由はない。

 

特許権者にとっては、方法クレームの全てを満たす行為を複数の者に誘因実施させる場合と、単一の者に誘因させる場合とは結果としてその影響は同じである。

 

同様に、特許権者にとっては、方法クレームのステップの一部を教唆者自身が実施し残りを他者に誘因実施させる場合と、単一者に当該ステップの全てを誘因実施させる場合とでは、結果として同じである。

 

    1952年、改正特許法とそれ以前の法解釈:

1952年に成立した米国特許法の立法趣旨によっても、教唆侵害を成立させるのに、被教唆者が単一であることを要件としないことが十分に支持されている。 実は1952年以前は、教唆侵害と寄与侵害とは共に、寄与侵害(contributory infringement)という枠で規定されていたが、1952年の法改正によって(b)侵害の教唆と(c)侵害の寄与という別概念に分離された。 271条(c)は特許侵害の幇助という概念を規定することの困難さからできた妥協の産物であり、最高裁判決およびその後の近年の特許のミスユース(不正使用)の法理を適用する判決に至っている。

 

    刑法より

本大法廷は以下のように刑法も引用した。

 

連邦刑法においても、何人も、合衆国に対して罪を犯し、その行為の達成を手助けし、助言し、命令し、あるいは、教唆する者は、主犯者としての責を負う。 18 U.S.C. 2(a)

 

さらに、何人も、合衆国に対する犯罪を意図的に、自身で、あるいは、他者を利用して、行った場合には、主犯者としての罪に問われる。18 U.S.C2(b)

 

無知のものに意図的に行為を誘発し、それによって刑事罰に処せられる刑罰を構成する結果を生じた場合には、当該行為を誘発したる者は、その者自身は刑法に処せられる行動を起こしていないとしても主犯者として刑罰に処せられる。 United States v. Rapoport (2nd Cir. 1976)

 

    民法の不法行為:

さらに、大法廷は民法(不法行為)も引用した。

 

民法においても、善意の者(悪意のない者)に不法行為を行うことを誘因した者はその責任を負う。

 

First Restatementによると、教唆者は被教唆者がその行為の法益侵害性を認知していなくとも誘発行為の責任を負うことが明記されている。

 

例) 証言台で証人に本来であれば名誉棄損に処せられる発言を誘因するものは、その罪(名誉棄損罪)に問われる。(証人は証言台における発言なので免責とされる)Laun v. Union Elec. Co., (Mo. 1943)

 

例) 警察に元従業員を不法行為者として逮捕することを誘発した被告人は不法監禁の責を負う。(警察官の当該逮捕が適法であったか否かは別として)

 

法律は善意の第3者を利用して法益を侵害するものに対して多くの場合に罰を課せる。 Pelster v. Ray (8th Cir. 1993)

 

例) 偽ることで、FAAから証明書を発行してもらい、飛行機を販売した飛行機製造者は、当該FAA証明書を信頼し、購入した者(飛行機の所有者)に対して詐欺罪の責を負う。Hawkins v. Upjohn Co. (E.D. Tex. 1994)

 

 Linn判事の反対意見に対する大法廷の多数意見の見解:

尚、Linn判事の反対意見の中で引用された2つの判例(BMC判決とAro最高裁判決)に関して以下のように述べています。 

 

BMC判決においてDynacoreの判示(誘発侵害の成立要件として侵害行為が存在していること)がより限定的に解釈され、当該侵害行為の存在が一人(一当事者)によるという要件が付加された。 

 

Aro最高裁判決(Aro Mfg. Co. v. Convertible Top Replacement Co. (Sup Ct. 1961))においては、オープンカーのトップカバーに関する発明であり、それを構成するファブリック(布)と支持部材を規定している。 この場合にオープンカーの所有者が特許権者の許可無しに、古くなったファブリックを新しいものに交換するという行為が侵害となるかが争われた。裁判の結果、ファブリックを交換するという行為は再生ではなく修理に該当するので被侵害であると判断された。

 

本法廷の2つの事件の被疑侵害者であるLimelightおよびEpicAro最高裁判決を引用し誘発侵害を成立するにはひとりの者による直接侵害の認定が不可欠であると主張したが、上記のように、Aro判決はそもそも製造物(もの)のクレームであって方法クレームに関する判決ではない。

 

また、上記のように、オープンカーの所有者がファブリックを交換するという「行為」は再生ではなく「修理」に該当するので非侵害であって、侵害の幇助もないと判断された。 即ち、侵害の幇助が成立しないという理由が単一の者(自然人又は法人)の直接侵害行為があるか否かで判断されたわけではない。

 

さらに、同判決文(Aro判決)で「特許の侵害が発生しない場合には侵害の幇助も成立しない」とあるが、同事件の場合にはファブリックを購入する行為が修理の範疇に入るので非侵害であるという判断が出されたのである。依って、この判決は本事件の争点、即ち、「2人以上の者(自然人或いは法人)による行為がないと侵害を成立しない場合に誘発侵害を成立させるか否か」に何ら影響を与えるものではない。

 

Aro判決以前の判決においても誘発侵害を成立させるために、単一の者(自然人或いは法人)による直接侵害の発生を要件としていない。 寧ろ、誘発行為によって侵害が発生したのかが重要である。

 

    Aro最高裁判決(1961年)以前の他の判決:

1918年のSalva Waterproof Glue v. Perkins Glue Co事件では、被告が問題となる方法特許クレームの1つのステップを実施し、顧客によって残りのもうひとつのステップを実施させた。 侵害の幇助と認定した。 

 

1937年のPeerless Equipment v. W.H. Miner事件においては、被告はクレームの最後のステップを除いて他の全てのステップを実施しており、被告より製品を購入した者が最後のステップを実施することになっていた。 販売者である被告は購入者が最後のステップを実施することを周知していた、依って、被告は方法クレームで規定された全てのステップを実施していないので直接侵害の責を負わないが、侵害幇助の責を負うと判断した。

 

    まとめ:

上記のように、271条の立法趣旨、民法の不法行為の原理、判例に鑑み、BMC判決およびBMC判決の判示を採用したるその後の判決は方法クレームに対する誘発侵害成立要件の解釈が正しくない。 本法廷の役割は議会の立法趣旨(1952年の法改正)を正確に読み取ることが重要である。

 

教唆者が方法クレームのステップを複数の者に分担実施させることで侵害の責任を回避できることを意図して連邦議会が立法したとは理解できない。 連邦議会(立法者)が、「単一の者(自然人或いは法人)による」というルールを誘因侵害の要件としていたとは理解しがたい。

 

結論:

 

McKesson事件において、以下の要件が満たされるときにEpicは誘発侵害の責を負う:

(1)  McKessonの特許を知っていた;

(2)  当該特許の方法クレームのステップを実施させることを誘発した;

(3)  それらステップが実施された。

 

Akamai事件においては、以下の要件が満たされる場合にLimelightは誘発侵害の責を負う:

(1)  Akamaiの特許を知っていた;

(2)  Limelightは当該特許方法クレームのステップの一部を実施した;

(3)  Limelightはコンテンツの提供者に当該方法クレームの最後のステップを実施させることを誘因した;

(4)  コンテンツの提供者は当該最後のステップを実行した。

 

依って、破棄、差し戻しとする。

 

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反対意見:


Newman
判事は双方の事件とも前下級審の決定を覆すべきだとする大法廷判決には賛成したが、特許侵害に対する新しい理論(刑法に基づく理論)を適用したという点に意義を唱えるとともに、直接侵害を構成する行為者の責任には一切言及せずに、誘因者のみを有責とする判断にも異議を唱えています。さらに、271(b)項の基に誘因者が責任を負う誘因行為(単に誘因するのみで有責と判断される)を大きく拡張しているという点にも異議を唱えています。 さらには、実行者が複数のときに直接侵害をどのように考えるのかに関して多数意見が一切コメントしていない点に関しても異議を唱えています。

Linn
判事Dyk判事、 Prost判事、O’Malley判事)は、「直接侵害がなければ、寄与侵害も起こりえない」という判断に基づく特許法およびAro最高裁判決(1961)に、多数意見は違反すると異議を唱えている。 さらに、反対派は、「方法クレームの誘因侵害を立証するには、実行者が複数であろうが、単一であろうが、また、代位関係があろうがなかろうが、271(a)項の直接侵害が成立していることが大原則である」と述べた。