In re Gesture Tech Partners
 (Fed. Cir. 2025/12/01
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CAFCは、米国特許法315(e)(1) IPRエストッペルは、進行中の査定系再審査に適用されないと判示した。現状、USPTO長官(Director Squires)就任後(20259月)、長官の裁量権行使(ややもすると濫用)により、IPR手続が必ずしも容易に開始されない状況が続いている。多数のIPR申立てが、十分な理由が示されないまま開始否定(institution denial)されている実情を踏まえると、査定系再審査によって特許の有効性を争う手続の意義を改めて検討する価値がある。

Summarized by Tatsuo YABE  2026-01-24
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[1] 事案の概要

本件は、米国特許第7,933,431号(以下、431特許)に関する査定系再審査(ex parte reexamination)の審決を不服として、特許権者Gesture Technology Partners, LLC(以下、Gesture)が連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴した事案である。

431特許は、カメラを用いて物体や人の動きを検知し、その情報に基づいて装置の機能を制御する携帯型コンピュータ装置/方法に関する発明であり、スマートフォン等への応用が想定されている。

本件では、

注:Squires氏がUSPTO長官に就任する20259月以前は所定条件(米国特許法324条(a)項)を満たせば多くのIPR請求が受理されていた。

[] 手続の経緯

判決文で示された主要な時系列は以下のとおり:

   IPR 査定系再審査 
202111     Samsung431特許について査定系再審査を請求
20221    USPTO再審査を開始Reexamination No. 90/014,901
202211 2件のIPRについて、PTABが最終書面決定(FWD)を発行

Unified Patents (Samsung
含む)による IPRではクレーム7-9, 12が無効;

Apple によるIPRではクレーム1-10, 12, 14-31が無効;

 
20249    再審査においてPTAB全クレーム(130)を無効とする審決
2025年3月  CAFC2件のIPRに関する控訴事件で、
クレーム11および13を除く全クレームの無効を確定
 
     本件控訴
再審査審決に対する控訴(本判決)

[3] 争点

争点 1

米国特許法315(e)(1) IPRエストッペルは、進行中の査定系再審査に適用されるか?

(1) 特許権者の主張

権利者Gestureは、SamsungUnified Patentsを通じて関与したIPRで最終書面決定が出た以上、米国特許法315(e)(1) により、「USPTOにおける同一クレームに関する手続を請求または 維持すること」は禁止されると主張し、進行中の査定系再審査は打ち切られるべきであると主張した。

(2) USPTOおよびCAFCの判断

CAFCはこの主張を明確に否定した。その理由は以下のとおり:

この点につき、裁判所はAlarm.com v. Hirshfeld判決なども引用し、査定系再審査の制度構造を踏まえた解釈を示した。結論として、IPRエストッペルは、進行中の査定系再審査を終了させる根拠にはならないと明確に判示した点が、本判決の最大の制度的意義である。

争点 2

クレーム11および13の新規性(anticipation

IPRによって他のクレームはすでに無効が確定していたため、本件で実体的に審理対象となったのはクレーム11および13のみであった。PTABおよびCAFCは、先行技術であるLiebermann特許(US 5,982,853:2件のIPRでは提示されていなかった)が、

という点で、クレーム7(独立クレーム)およびそれに従属するクレーム1113の構成をすべて開示していると認定した。特に、「means for controlling a function」というMPFクレームについて、

という一連の動作は、「情報と機能との相関(correlation)」を満たすと判断し、実質的証拠(substantial evidence)に基づく認定として審決を維持した。

争点 3

 特許が満了していても再審査は可能か?
 Gestureは、431特許がすでに満了しているため、USPTOは再審査を行う管轄権を欠くと主張した。
 しかしCAFCは、特許満了後であっても、過去の侵害に基づく損害賠償請求権などが存続し得る。よって、実体的な争訟性(case or controversy)は失われないとして、IPRと同様に、査定系再審査についてもUSPTOの管轄権を肯定した。

[4] 結論

 [5] コメント:

現状(2025年10月~20261)USPTO長官(Director Squires)の裁量権行使により、IPR手続が必ずしも容易に開始されない状況が続いている。多数のIPR請求が、十分な理由付けが示されないまま開始否定(institution denial)されている実情を踏まえると、査定系再審査によって特許の有効性を争う手続の意義を改めて検討する価値がある

IPR手続ではクレーム解釈にPhillips基準が適用されるのに対し、査定系再審査ではBRIBroadest Reasonable Interpretation)基準が適用される。その結果、再審査ではクレームの権利範囲がより広く解釈され、無効理由が成立しやすいという制度的特徴がある。他方で、査定系再審査は当事者系手続ではなく、再審査請求人(特許権者でない第三者)は、請求時に無効理由を提示する事実上一度きりの機会しか与えられない。この点では、当事者が継続的に主張・立証を行えるIPRに比べ、無効化のハードルは高いとも言える。

それでもなお、本判決が示すように、IPRと再審査は制度的に排他的な関係にはなく、併存し得る手続であるIPRの開始が見込めない局面において、査定系再審査を戦略的選択肢として再評価することは、今後の米国特許実務において重要な意味を持つと考えられる。

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参考:

  ◎ 米国特許法324(a)

PGRを開始するための挙証基準は、「無効を主張されている少なくともひとつのクレームが無効になるであろうということがより確からしい(More likely than not that at least one of the claims challenged is unpatentable)」である [規則 42.208(c)]

◎ Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. 大法廷 2005)

訴訟でクレームの用語を解釈する際に、まずは内部証拠(出願関連書類と経過書類)、そして外部証拠(専門家の証言、辞書、専門書など)を参照すること(後にPhillips基準と称される)。 従属クレームは親クレームの権利範囲を明確にする(クレーム識別論)ことを明示した判例

◎ IPRにおけるクレーム解釈基準変更20181113日)

USPTOの審判部での付与後の手続き(PGRIPR)において、20181113日以降は、クレーム解釈基準をBRI基準からPhillips基準に変更することを決定した。

◎ BRI基準:

審査においてはクレームの解釈にBRI基準(明細書の説明と矛盾しない範囲で当業者にとって合理的に最も広い意味合い)で解釈する。