USPTO (新長官)によるIPRに対する規則改定案
20251017
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https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-10-17/pdf/2025-19580.pdf

 IPR規則改定案はUSPTOの権限を逸脱する内容(例:IPR請求人は、対象となる特許に対して他のフォーラム(地裁、または、ITC)で新規性・進歩性を再度争わないということの合意が必要)であり、おそらく大幅な改訂無しには成立しないだろう。

 Summarized by Tatsuo YABE  2025-10-23

本件は、IPR手続き規則に対するUSPTOによる改定案であり、その内容はPTOの権限を越えておりとても承服できる内容ではない。すなわち、「1」IPR請求人は、対象となる特許に対して他のフォーラム(地裁、または、ITC)で新規性・進歩性を再度争わないということの合意が必要;「2」他のフォーラムで新規性・進歩性に基づき有効性が認められた特許に対してIPRを請求できない;「3」IPRの対象となる特許に対する並行する他のフォーラムでの判決、あるいは、決定がでるであろうという場合にはIPRを実施しない。

USPTO長官Squiresは、上院での公聴会で、米国特許のクレームがIPR(当事者系レビュ)で約7割が無効となっている、すなわち、米国特許生産工場USPTO)の製品の7割が欠陥品であり、普通の会社であればリコールはおろか倒産に追い込まれるという現実への対応を迫られた。先日はAIによる引例サーチ試験的に実施し今後出願審査でより関連性の高い先行技術が審査されるようにしていくという方針には納得できる。しかし、今回のIPR規則改定案はIPRの件数を減らすことにしか繋がらない。しかも、IPR請求人に、IPR請求時に対象となる特許の有効性を他のフォーラムで争わないことに合意させるというのはUSPTOの権限(米国特許法311(b)項、316(a)項、2条(b)(2)(A))を逸脱することは明らかである。

パブコメの期限は1117までということだが、既に数多くの反対意見が提出され、規則は成立しないだろう。仮に、USPTOが規則を成立させたとした場合には行政訴訟となり地裁判決で差し止めとなるだろう。過去にも理不尽な改訂規則に対して差し止め判決がでた。Tafas v. Dudasこの判決は、行政機関が特許法の条文を超えて出願人・請願者の権利を制限することはできないという原則を確立した。(以上筆者)

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以下、USPTOIPR手続きに関する規則改定案
規則42.108 (d)(g) の要約


規則 42.108 – [37 CFR 42.108]
(d) 効率化のための必須協定
IPR を「開始」するためには、IPR請求人は PTAB に対し、IPRが開始された場合には、請求人は当該特許(IPR対象特許)について、102条、 または、  103条 に基づく無効または特許不可の主張を、他の手続き(訴訟、ITC 等)において一切行わないと約束することを要件とする。

要するに、IPR を利用するならば、IPR請求人は「この特許について 新規性・進歩性 に基づく無効主張を他の場ではしない」という約束をした上でしか進められない。同じ先行技術に基づき再度争わないというのであれば少しは承服できるが、新たな先行技術による無効の主張を(ましてや、違うフォーラム”地裁・ITC“において)封じる権限はUSPTOにはない。


(e) 既存手続きで有効と判断されたクレーム
以下の場合にはIPR手続きを開始できない:

  1. 連邦地裁の審理において、新規性・進歩性の条文に基づき「無効ではない」と判断された場合。
  2. 連邦地裁による略式判決で、新規性・進歩性判断が取消・破棄されていない場合。
  3. ITC において、新規性・進歩性の条文に基づき「無効ではない」とされた場合。
  4. PTAB (審判部)による決定(§ 318(a) または § 328(a))で「特許不可ではない」と判断された場合。
  5. 権利者以外の者が再審査を請求し、特許性が認められた場合。
  6. CAFCで、新規性・進歩性の条文に基づき「特許不可/無効」とされたものの、その判断が後に覆された場合。

つまり、既に他のフォーラムで 新規性・進歩性の条文に基づく有効性(無効ではない)判断が確定していれば、同じクレームについて IPR を行えない。上記コメントと同様、新たな先行技術が見つかれば当然のことながらIPR請求を封じることはできない。


(f) 平行訴訟(並行手続)
IPR を開始できない他の事情(理由)として、「IPR最終決定期限:35 U.S.C. 316(a)(11) 」までに、当該対象クレームの新規性・進歩性に関して、次のいずれかが発生することがより確からしい場合:

  1. 連邦地裁で、当該特許が新規性・進歩性を根拠に無効を争われる裁判が行われる。
  2. ITC において 新規性・進歩性を根拠とする判断がなされる。
  3. PTAB において別の最終決定(§ 318(a) または § 328(a))が発行される。

平行して他のフォーラムで有効性/無効性について結論が出る可能性が高いと認められると、PTAB による IPR手続きを認めないという趣旨。


(g) 例外的事情におけるIPR開始
上記 (d)(e)(f) の各項に該当する場合でも、PTAB のパネルが「例外的事情」があると判断すれば、審判部はその案件を USPTO 長官に付託し、長官が個別に IPR の開始を認めることができる。
例外的事情とは、例えば:

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参考:

■ 米国特許法311(b)
35 U.S.C. § 311(b) ― IPRの法的根拠の逸脱

“A petitioner in an inter partes review may request to cancel one or more claims of a patent only on a ground that could be raised under section 102 or 103 and only on the basis of prior art consisting of patents or printed publications.

この条文は、IPRで特許を無効にできる根拠を限定的に定めている。つまり:

■ 米国特許法316(a)
“The Director shall prescribe regulations…
(2) setting forth the standards for the showing of sufficient grounds to institute a review under section 314(a);
(4) establishing and governing inter partes review under this chapter and the relationship of such review to other proceedings under this title.”

USPTOは「他の手続との関係を定める権限」を§316(a)(4)に依拠している。しかし、この規定は、手続上の調整に関するものであり、「他のフォーラムでの無効主張を放棄せよ」というような実体的権利の制限を正当化するものではない。

■ 米国特許法2条(b)(2)(A)
“The Office may establish regulations… not inconsistent with law, which shall govern the conduct of proceedings in the Office.”とあり、not inconsistent with law(法律と矛盾しない範囲)が前提で、つまり、§311(b)で許可されている範囲を超える条件を加えることは法律と矛盾する。

■ Tafas v. Dudas (D.D.C. 2008; aff’d in part, Fed. Cir. 2009)

⇒ 後に(200910月)、Kappos長官がDudas前長官改訂規則全て廃止した。

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(1) US_Patent Related 

(2) Case Laws 

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