In re: Xencor Jepson形式クレームのプレアンブルはクレームを限定し、同プレアンブルも112条(a)項で規定する明細書の「記述要件」を満たす必要がある。 Summarized by Tatsuo YABE – 2025-03-25 |
本件はJepson形式で記載されたクレームのプレアンブル(従来技術)の解釈に関する。 基本的に、Jepson形式で記載されたクレームのプレアンブルには出願人が従来例と自認する特徴を記載する。本件においては以下の2点が争点となった:
[1] Jepson形式のプレアンブルはクレームの限定(構成要素)と解釈されるのか?
[2] Jepson形式のプレアンブルにも112条(a)項の「記述要件」が適用されるのか?
本判決によって上記「[1],[2]共にYESである。
欧州特許ではJepson形式でクレームを規定することが基本であるが米国出願においては殆ど活用されていない。
(以下、米国出願全体におけるJepson形式のクレーム使用の頻度:2025年3月14日付Patentlyo:Dennis Crouch教授のWebより: 筆者により縦横比変更、数値挿入)
Xencorは米国CA州に本社を置く臨床段階のバイオ医薬の企業でありながらJepson形式のクレームを用いたのは不思議である(本件に関しては欧州への出願は一切無し)。さらに、本件は審判部からAPR(Appeal Review Panel: 審判部の審決をレビュするUSPTOの組織)で審理がなされ、さらには本CAFCの判決にテキサス州東部地区の連邦地裁の裁判官Schroeder氏(特許訴訟の経験が豊富で著名な裁判官)が加わっているのも不思議である。
本判決からの学びは以下:
[1] 米国出願においてJepson形式のクレームを使用しない;
[2] 非Jepson形式のクレームにおいてもプレアンブルで従来技術の特徴を規定しクレーム本体でプレアンブルの特徴を引用する場合には当該従来技術の特徴がクレームの限定事項となるので、当該従来技術の内容を当業者が理解できるように明細書で説明するか、或いは、従来技術を説明している米国特許或いは公開公報を参照により援用(incorporation by reference)しておくことが重要である。
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■ 特許出願人:Xencor,
Inc.
■ 関連特許出願:US Patent Application No. 18/803.690 (以下690出願)
■ 特許出願発明の概要:
690出願は、特定のアミノ酸置換によって抗体を修飾することで、体内での持続時間が延長され、治療の頻度が低減されると述べている。例えば、本明細書には、「これらの標的に対する治療薬は自己免疫疾患の治療に頻繁に用いられ、長期間にわたり複数回の注射が必要となる。したがって、本発明の変異体によってもたらされる血清半減期の延長および投与頻度の低減は、特に好ましい」と記載されている。
■ 代表的なクレーム:
Claim 8 |
クレーム8 |
[Preamble] |
「プレアンブル」 |
[Transitional Phrase] |
「移行句」 |
[Body] said Fc domain comprising amino acid substitutions M428L/N434S as compared to a human Fc polypeptide, wherein numbering is according to the EU index of Kabat, wherein said anti-C5 antibody with said amino acid substitutions has increased in vivo half-life as compared to said antibody without said substitutions. |
「本体」 前記Fcドメインが、ヒトFcポリペプチドと比較してM428L/N434Sのアミノ酸置換を含むこと、 |
注:筆者のようにバイオ医薬に詳しくない人は本判例要約の末尾を参照
■ 出願経過
出願人Xencorは、クレーム8(クレーム9に対する見解は割愛する)のプレアンブルを限定(クレームの構成要素)であると解釈した審審査結果を不服とし審判部に委ねたところ、審判部においても審査結果が支持された。審判部は抗C5抗体を使う治療は出願時(優先日)において周知ではなかったと判断した。Xencorは審判部に再考を求めたところ同じ結果となった。同審決を不服とし控訴したところCAFCが本件を取り上げる前に特許庁の方からARP(審判部の主任判事、特許商標庁長官、特許部門の責任者より構成され、査定系審査の審決を見直す権限を有する)でのレビュを求めたのでCAFCは同意した。
2024年5月21日、APRによる審決がでた。同審決によるとJepson形式クレームのプレアンブルはクレームの限定事項(構成要素)でありクレームの権利範囲を確定する。 本件の場合にクレームがJepson形式で記載されていなくても「患者を治療する」という文言はクレーム本体を解釈する上で必要な事項でありクレームを限定すると解釈する。
プレアンブルがクレームの限定事項(構成要素)であるので当該構成要素に対して112条(a)項の「記述要件」が課せられる。しかし抗C5抗体という広範なGenus(属する分野)をサポートする十分なSpecies(Genusの中に存在する詳細な具体例)が明細書に開示されていない。 さらに、抗C5抗体を用いる治療の対象となる患者(病名或いは容態)の説明が本件明細書には不十分である。 また、クレームされたFc修飾を有する抗C5抗体を用いて、疾患または病状を有する患者を治療する実施例は一つも記載されていない。
■ CAFCの判断
APRの審決を支持する。
Jepson形式でクレームを記載する際、そのプレアンブルはクレームされた発明を規定するためのものである。故にプレアンブルはクレームの権利範囲を限定する。 Jepson形式のクレームにおいて、そのプレアンブルは従来技術であると自認することになるが・・・クレームされた発明とはプレアンブルと改良された特徴の組合せと解釈される。 換言すれば、Jepson形式のクレームは非Jepson形式のクレームと同様にクレーム全体として理解される。Jepson形式のクレームにおける改良点のみが発明ではなく、当該改良点が従来技術に適用されたものが発明である。従って、発明者はクレームされた改良点が従来技術に適用された状態を発明とし、その発明を出願時に成していたことを当業者が理解できるように明細書に記載しなければならない。 Jepson形式のクレームは「従来技術」と「改良」とを区別して記載するが、そもそもクレームは単体であり、個々に明細書の充足性(112条の「記述要件」)を判断するのではない。
Jepson形式のクレームが112条(a)項の明細書の記述要件を満たすにはJepson形式のクレームで「従来技術」とするプレアンブルの記載が真に従来の技術であることを挙証しなければならない。 挙証する上で重要なのは出願時の明細書にその記述があるかということだが、場合によっては特許明細書以外の証拠によって示すことも可能である。どの程度の記述が明細書に必要かは当業者のレベル、技術分野の予見可能性、さらには、どの程度新しい技術なのかという要因によって変わる。例えば、19世紀にクレームで「自動車」という用語を使用する場合、明細書にかなり詳細な説明がないと開示要件を満たさなかったであろう、しかし、今日、機械関係の発明では「自動車」という用語を説明する必要もないだろう。
本件において、APRと審判部は「事実審」として機能しており、APRは審判部の判断(以下)を支持した:
Xencorの明細書には抗C5抗体が関連する技術分野において周知であったということを示す開示がない。
結論:
CAFCはAPRの判断を支持する。
********************(以下ChatGPT4oより)********************
**「Fcドメインを有する抗C5抗体を投与して患者を治療する方法」**とは、
「ある特定の病気を治療するために、特別な種類の抗体を患者に投与(体に入れること)する方法」です。
もう少し詳しく言うと:
² 抗体とは、体の中で病原体(ウイルスや細菌など)を攻撃するタンパク質の一種です。
² C5は、体の免疫反応に関係するタンパク質で、これが過剰に働くと病気(例えば自己免疫疾患など)を引き起こすことがあります。
² 抗C5抗体は、このC5の働きを抑えるために作られた特別な抗体です。
² Fcドメインは、抗体の一部で、体内での動きや持続時間(どれくらいの時間効果が続くか)に関係します。
² 投与するとは、薬を体に入れること(例:注射など)。
² つまり、この方法は「C5というタンパク質の働きを抑える特別な抗体を患者に投与し、病気を治療する方法」ということです。
** in vivo半減期とは? **
² 「in vivo」 はラテン語で 「生体内で」 という意味で、生きた体の中での現象を指します。(対義語として 「in vitro」(試験管内で)があります)
² 「半減期」 は、ある物質の量が 半分に減るまでの時間 のことを指します。
² 薬や抗体などを体内に入れたとき、それが
血液中にどれくらいの時間残るか が重要になります。
例えば、ある抗体が体の中で 24時間 で半分に減るなら、その抗体の in vivo半減期は24時間 ということになります。
² ポイント:
² 半減期が 長い → 効果が長く続く → 投与回数が減らせる
² 半減期が 短い → すぐに減る → 頻繁に投与が必要
² この概念は、薬の持続時間や投与間隔を決めるのに重要な指標となります。
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