Sanho v. Kaijet Tech. Int’l Limited

Fed. Cir. 2024731
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私的な販売行為は102(b)(2)(B)で規定する新規性喪失の例外には該当しない。

OPINION by DYK, Clevenger and Stoll (Circuit Judges)
 Summarized by Tatsuo YABE  2024-08-11

本事案はAIAによる102条(b)(2)(B)の新規性喪失の例外規定の適用に関する。そもそも2011年に成立したAIA(アメリカ発明者法)によって米国特許法は先発明主義から先願主義に変わった(適用されるのは2013316日以降に有効出願日を持つ米国出願)。102条(a)(1)は有効出願日前の刊行物、販売、公用が引例となる。102条(a)(2)では先願(本願の有効出願日前に有効に出願された米国出願)が引例となる。102(b)は新規性喪失の例外を規定しており、今回問題となったのは先願の有効出願日の前の販売行為が102条(b)(2)(B)で規定する「公衆への公開 (public disclosure)」に該当するかであった。 

結論から云うと、2者の間で私的な商談により販売行為(守秘義務無し)が実施されたとしても、その販売行為によって問題となる発明の特徴が十分に公衆に開示された状態でない場合には102(b)(2)(B)項で規定する「公衆への公開」には該当しない。

但し、102(a)項で規定する引例としては刊行物、販売、及び、公用も含まれる。言い換えると、102(a)項による引例としての地位は守秘義務を伴わない私的な販売行為も含まれるが、当該私的な販売行為によって発明主題が公衆に十分に公開されていない場合には当該販売行為は102(b)項の新規性喪失の例外とはならない。(以上筆者) 

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■ 特許権者:Sanho
■ 控訴人:Sanho
■ IPR請求人:Kaijet
■ 関連特許:USP 10,572,429 (以下 US429特許)

■ 事件の背景:
KaijetSanhoUS429を無効にするべくIPRを申請した。KaijetKuoUS公開公報:US2018/0165053)と他の先行技術の組み合わせによってUS429は自明であると主張した。SanhoKuoUS429に対して米国特許法102(a)(2)の下に先行技術に該当することには同意。しかし、Kuoの有効出願日の前にSanhoは問題となる製品を販売していたので米国特許法102(b)(2)(B)の下にKuoの先行技術の地位を否定できると反論しUS429の特許性を主張した。 

■ 争点:
Kuoの有効出願日前のSanhoの販売行為によって米国特許法第102(b)(2)(B)の下にKuoの先行技術の地位が否定されるか?

■ PTABの判断(審決):
Kuoの有効出願日はUS429の有効出願日の前なので米国特許法102(a)(2)の下にUS429に対する先行技術(引例)に該当する。 

 

 

 

有効出願日

米国出願日

Sanho
US429関連

2016/11/27

発明者からSanhoに販売の申し立て

2016/12/6

Sanho15000ユニット購入決定

2017/04/27

2018/03/28

Kuo

 

 

2016/12/13

2017/02/17



上記のようにKuoの有効出願日の前に発明者からSanhoに販売の申し立てがあり、Sanho15000ユニットを発注した。これらKuoの有効出願日の前に実施された発明者とSanhoとの間の守秘義務のない販売行為が102(b)(2)(B)で規定する新規性喪失の例外(有効出願日前の公共への公開 ”Public Disclosure”)に該当するか否かが争点となった。

審判部はSanhoの行為は102(b)(2)(B)の「公衆に公開 (public disclosure)」に該当しないとしKuoと他の先行技術によってUS429は自明であると判断した。

■ CAFCの判断
守秘義務の無い、私的な販売行為が102(b)(2)(B)で規定する「公衆への公開 (public disclosure)」に該当するか否かを検討する。以下の理由によって審決を支持する。

「1」102条によると、公衆に公開されていない販売行為も「公開 (disclosure)」に含まれる。しかし102(b)(2)(B)で云う「公衆への公開 (public disclosure)」と102条で規定する「公開 (disclosure)」は違う意味合いで立法されている102(b)(2)(B)で云う「公衆への公開」は「公開」という用語の狭い意味と解釈される。

他者の特許を無効にする引例としての「公開 (disclosure)」と自分の特許を守るための102条の新規性喪失の例外規定としての「公衆への公開 (public disclosure)」とは識別される。

「2」立法趣旨(AIA)を考慮すると「公衆への公開 (public disclosure)」は発明が公衆に利用可能であることが必要である。102(b)(1)(B)及び102(b)(2)(B)における「公衆への公開 (public disclosure)」とは、発明者が発明主題を公衆に十分に公開した場合、既に「公衆へ公開」された主題を後に第3者が公開したとしても発明者が特許を受けることを否定されないことを保証している。

「3」102(a)で云う引例としての「公用 (public use)」と102(b)で云う「公衆への公開 (public disclosure)」は根本的に意味合いが異なる。Helsinn最高裁判決(Helsinn v. Teva Pharma: US Sup Ct. 2019)で判示されたように、公衆に発明の特徴全てを開示しない公での商業的利用(a public commercial use)は他者の特許を無効にする引例になりうる。さらに、引例としての販売行為或いは販売の申し込みは、公衆に利用可能である必要はない。このように102(b)で云う「公衆への公開」は引例としての「公用 (public use)」を含むと推定してはならない。

「4」事実関係を整理すると、Kuoの有効出願日の前に、発明者はSanhoWeChatで商談をはじめ発明品(HyperDrive)を発送した。Sanhoは計15000ユニットのHyperDriveを発注した。Sanho側の証言も同様の内容であり、さらにSanho153,600ドルを支払った。しかし15000ユニットのHyperDriveの売買契約が成立したのか、或いは、15000ユニットのHyperDriveが製造されたのかは明らかになっていない。この商談は守秘義務もなく、秘密保持契約もないが、問題となる発明(HyperDrive)の特徴がSanho以外に開示されたという記録はない。 

上記証言によると、2者の間で私的なメッセージを介して私的な売買があったということのみで、この販売行為によって発明の主題が十分に公衆に開示されたという記録はない。従って、この販売行為に、102(b)(2)(B)による新規性喪失の例外規定は適用されない。 

結論:
上記理由により審決を認容する。

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References:

[1] 新法(2011年改正法)による102条の適用

2011年に成立したAIA(アメリカ発明者法)によって米国特許法は先発明主義から先願主義に変わった(適用されるのは2013316日以降に有効出願日を持つ米国出願)。


[2] AIAによる102条(全貌)

条文:35 U.S.C. 102

概要

102(a)

(1) Publication, Use, Sales

有効出願日の前の先行技術(開示)により新規性否定

(2) 先願

有効出願日の前の先願により新規性否定

102(b)

(1)

(A)

GP内(有効出願日前の1年以内)の発明者等による開示は先行技術にならない。

(B)

GP内(有効出願日前の1年以内)の発明者による公表(先行技術の開示前)によって先行技術を排除できる。[公表public disclosure]

(2) 先願

(A)

先願の開示内容が発明者等による場合、先願は先行技術にならない。

(B)

GP内(有効出願日前の1年以内)の発明者による公表(先願の有効出願日の前)によって先願は先行技術とはならない。[公表public disclosure]

(C)

先願の開示とクレームされた発明主題が、有効出願日の前に同一人に所有されていた場合には、先願は先行技術とはならない。

102(c)

共同研究契約下で生まれた発明は同一人所有とみなす。

102(d)

(1)&(2)

上記102(a)(2)で先行技術となる先願を規定。

 

[3] AIA-102(b)(2)(B)- Prior Public Disclosure Exception

Bの出願は、Aの米国出願に対する102(a)(2)の先行技術となるが、Aの「公表 (Public Disclosure)」によってBの先願は先行技術の地位を喪失する。 Fed Reg. vol. 78, 2/14/2013: pg. 11079 Aの公表とB先願の開示内容との同一性に関して)⇒ 102(b)(1)(B)の例外規定の適用と同様(規則130(b)を活用する)

 

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(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

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