WEBER v. Provisur Tech Inc., 食品を拘束でスライスする高額な機械の購入社(10社程度)のみに配布された |
本事案は旧法102条(b)項の「刊行物」に関する。被疑侵害者の製品の操作マニュアルが旧法102条(b)項の刊行物(publication)になるか否かが争点になった。そもそも被疑侵害者の製品(侵害の対象物ではない)は少なくとも2006年には販売されており問題となった特許(2011年5月出願)に対する引例にはなるがIPR(特許庁審判部での権利無効化の手続き)において無効理由は新規性と自明性であり提出可能な証拠としては「刊行物」に限定される。従って、公知公用は先行技術にはならないという点がIPR手続きの制約でもある(2011年のAIA法改正で立法された手続きで、ディスカバリーも含めて一年以内に結論を出すという手続きなので提出可能な証拠も限られている)。
被疑侵害者の製品は食品加工工場における食品(肉、チーズなど)を高速でスライスする装置で、かなり高価なものであり販売台数もかなり少なく(当事者間で10社以上か否かも論争になった)、当該装置の操作マニュアルは購買者にのみに提供されるものであり、著作権表示、無断複製の禁止並びにその他知財に関わる帰属は被疑侵害者にある云々と記載されており、審判部(PTAB)において当該マニュアルは守秘義務で保護されるものと理解した。しかしCAFCにおいて操作マニュアルを受け取った、即ち、装置を購入した会社の数、あるいは、それがいかに高額であるかによって刊行物であるか否かを判断するのではないと述べた。寧ろ、購買を希望する者(法人)、即ち、関連する技術分野の一般人(パブリック)が合理的な努力の下に当該マニュアルにアクセスできるか否かで判断すると判示した。
尚、本事件は旧法下(Pre-AIA)における「刊行物(Publication)」に関する判決であるが現行法AIA102条(a)(1)にも適用される。(以上筆者)
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■ 特許権者:Provisur
■ 被疑侵害者:Weber
■ 関連特許:USP 10,639,812 and USP 10,625,436
それぞれ特許付与日は2020年5月5日、2020年4月21日と最近ではあるが共に2011年5月2日に出願された米国出願13/099,325からの分割出願なので旧法102条が適用される。
■ 特許発明の概要:
当該特許は食品加工場において食品を高速でスライスするスライサーに関する。
近年CAFC判決文中に図面がカラーになってきた。
■ 争点:
Weber社の2006年の操作マニュアルは上記2件の特許(2011年出願)に対し旧法102条(b)項の下に刊行物になるか否か? 他の争点(自明性判断)に関して本稿では略す。
35 U.S.C. 102 (pre-AIA) 旧法102条(b)項
"A person shall be entitled to a patent
unless -
(b) the
invention was patented or described in a printed publication in this or a foreign country or in public use or on sale in
this country, more than one year prior to the date of the application for
patent in the United States,
米国特許出願日1年以上前に、「内外国で、特許または刊行物に記載」または「米国内で公用または販売」された発明は特許を受けることはできない・・・
■ 事件の背景:
Provisurは上記2件の特許の権利者で、Weberを相手に侵害裁判を提起した。Weberは当該2件の特許を無効にするべくPTAB(USPTOの審判部)にIPRを申請した。PTABは当初Weberの2006年の操作マニュアルを刊行物と認定し他の先行技術と組み合わせて問題となった2件の特許クレームを自明と判断した。しかし後にPTABは、当該マニュアルには著作権と知財での制限による守秘義務が付随しているという理由で102条の刊行物には該当しないと判断した。PTABはさらに仮に操作マニュアルが102条の刊行物に該当するとしても2件の特許クレームの”disposed over”と”stop gate”という特徴を満たさないと判断した。即ち、Provisurの2件の特許は無効ではないとした。PTABの審決を不服としWeberはCAFCに控訴し、本判決に至った。
■ CAFCの判断
審決を破棄する。
CAFCは、操作マニュアルが旧法102条(b)項の刊行物に該当するか否かのPTABの法律判断に対しては一切拘束されないde novo基準で審理し、PTABの事実認定に対しては十分な証拠に基づいているかという基準(substantial evidence STD)で審理する。Valve Corp. v. Ironburg Inventions (Fed. Cir. 2021)
Weberの操作マニュアルが旧法102条(b)項の刊行物に該当するか否か
102条で規定する「刊行物」に該当するか否かは関連する技術分野の公衆が十分にアクセス可能な状態にあるかで判断する。
In re Klopfenstein (Fed. Cir.
2004) 公共がアクセス可能であるか否かは関連する分野の一般人が合理的な努力を支払うことでその情報を得ることができるか否かで判断する。Valve
PTABは判例(Cordis Corp. c. Boston Scientific Corp: Fed. Cir. 2009)に基づき刊行物であるか否か判断した。Cordis事件においては、血管内のステント(チューブのようなもの)に関する2件の学術論文でありそれらは少数の大学及び病院の関係者と商品化を試みた2つの会社にのみ公開された。記録を見る限りそれら学術論文は学問的規範により守秘義務が保たれていると理解される。このようにCordis事件は本件事案とは明白に異なる。Weberの操作マニュアルは機械(スライサー)の組み立て方、使用、清掃、維持管理、さらには不具合への対処法を関係者に知らせることを意図して作成されたものである。このようにWeberの操作マニュアルはCordis事件における学術的機密保持の規範に基づく2件の論文とは性質が異なることは明白である。
Weberの従業員の証言にあるようにWeberの操作マニュアルはWeberの食品スライサーを購入すると付いてくるものであり、もしくは、購入を希望する者はWeberの従業員にコンタクトすると入手可能である。Weberの従業員と顧客とのメイルでのやり取りがその証拠として提示されている。さらにはWeberの操作マニュアルは特定のトレードショウ、または、Weberの工場のショウルームでも閲覧可能である。
PTABはWeberの操作マニュアルに記載された著作権に関する記載(本操作マニュアルをコピー、または、譲渡することを一切禁じる)によって守秘義務が存在すると解釈した。さらに、費用見積もり、設計、図面、及び、その他一切の書類はWeberに帰属するという記載によって守秘義務の存在と解釈したのである。著作権表示はスライサーの所有者が自身の使用のために操作マニュアルを複製することを許可するという趣旨である。Weberはスライサーを再販する顧客に対して操作マニュアルも付けて販売するように明白に指示している。さらに知財情報の帰属に関する記載はWeberがスライサーを販売した後にまでその権利を担保できるものではない。
上記によりWeberの操作マニュアルは旧法102条(b)項で規定する刊行物と理解される。依って、審決を破棄する。
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参考:
Pre-AIA 35 U.S.C. 102(b) |
AIA 35 U.S.C. 102(a)(1) |
A person shall be entitled to a patent unless - |
(a) A person shall be entitled to a patent unless— (1) the claimed invention was patented, described in a printed publication, or in public use, on sale, or otherwise available to the public before the effective filing date of the claimed invention; |