Cambridge Mobile v. SFARA 訴訟でのクレーム解釈と真逆故にIPR申請却下 Summarized by Tatsuo YABE – 2025-03-24 |
本件はPTAB(審判部)によるIPR申請が認められるか否かの判断に関するもので、2025年3月20日、USPTOのPTAB(審判部)において重要事案としてリストされた。より詳細には、無効の対象となるクレームにMPF形式の構成要素がある場合にIPR申請書において112条(f)項を適用する場合のクレーム解釈(或いは112条(f)項が適用されること)を言及していない場合には規則42.104(b)(3)の要件違反としてIPR申請が却下される可能性があることを明示した事例である。
本件の興味深い点は、訴訟において被告は問題となる構成要素は112条(f)項を適用し解釈されると主張し、その解釈によると明細書に対応する構造が開示されていないので112条(b)項の要件を満たさないという理由でクレームは無効であると主張した。しかし被告(IPR申請人)はIPR申請書において112条(f)項の適用による解釈を求めず、通常且つ一般的な意味合いでの解釈を求めた。
そもそもIPRにおける無効理由は刊行物による新規性と進歩性のみなので、通常且つ一般的な意味合いでクレームを解釈する方が無効にしやすいという点がある。しかし訴訟のように112条(f)項による解釈をすると結果的に112条(b)項による無効を求めることになりIPRでは審理されなくなる。
本件において結果的にIPR申請は認められなかったが、その理由は多数意見(Dougal, Kinder行政法判事)では規則42.104(b)(3)の要件違反ということだったが、Horvath判事による同意意見(Concurring Opinion)においては112条(f)項を適用した場合に問題となるクレームの構成要素に対応する明細書の構造が不明なために引例で対応する開示を見いだせないという理由であった。
従って被告(IPR申請人)にとってIPR申請が却下されたことは不服かもしれないが、訴訟に戻った場合に問題となった特許クレームは112条(f)項解釈が適用され、対応する構造が明細書に明示されていないのでクレームは112条(b)項の下に不明瞭という理由で無効となる判決を勝ち取れる(或いは早期に和解の手続き)後押しになると考える。(以上筆者)
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■ 特許権者:Sfara
■ 被疑侵害者:Cambridge Mobile Telematics (IPR申請人)
■ 関連特許:USP 8,989,952 (以下952特許)
■ 特許発明の概要:
当該特許は車両の衝突をより正確に検出するシステム及び方法に関する。従来例においては単一のパラメータを検出することによって衝突を検出していたのに対して本特許では少なくとも2つのパラメータの検出によって衝突を判断することを特徴としている。
■ 代表的なクレーム:
以下クレームのように、2つのパラメーターの検出によって衝突を判断することを特徴としている。
クレーム1、7,13が代表的なクレーム1は以下の通り:
Claim 1 |
クレーム1 |
A device for use with a vehicle, said device comprising: |
車両で使用するための装置であって、当該装置は以下を含む: |
■ PTABの多数意見 Dougal判事、
Kinder判事:
IPR申請を却下とする。
理由:
PTABの審理におけるクレーム解釈は282条(b)項に基づき経過書類を参酌のうえ、当業者が理解するであろう通常の一般的な意味合いで行う。37 CFR 42.100(b) さらに、規則42.104(b)(3)に基づきクレームにMPF形式(112条(f)項が適用される)の構成要素があるか否かを検討し、そのような構成要素がある場合にはMPF形式の構成要素に対応する明細書の構造或いはステップを特定しなければならない。
さらに、CTPG(Consolidated Trial Practice Guide: PTAB審理実務ガイド集)にも「クレームの構成要素が112条(f)項で解釈される場合にはIPR申請人はクレームの解釈を提示しなければならない(規則42.104(b)(3));IPR申請人は構成要素に112(f)が適用されるか否かを説明しなければならない;及び、112条(f)項によるクレーム解釈を提示しない場合には規則42.104(b)(3)の要件を満たさないと判断される危険性を伴う」と記載されている。
本件IPR申請前に提起された地裁での訴訟においてIPR申請人はクレームの「コンポーネント」という用語には112条(f)項が適用され、当該用語に対応する構成が明細書で特定できないという理由でクレームは不明瞭であると主張している。訴訟において、権利者側は「コンポーネント」は通常且つ一般的な意味合いで解釈されるのでIPR申請人の対象製品は侵害していると主張している。
上記したように、IPR申請人と権利者でクレーム解釈が対立しており、IPR申請人は、IPR審理を開始するか否かを判断する時点でPTAB(審判部)は問題となるクレームの構成要素に112条(f)項を適用するか否かを明確に判断する必要はなく、寧ろ、権利者が主張するように通常且つ一般的な意味合いで解釈すれば良いと述べた。従って、IPR申請人はクレームの構成要素「コンポーネント」に対して112条(f)項を適用する解釈、或いは、そうでない解釈の何れも説明しなかった。この事実に鑑み、権利者は、IPR申請人は規則42.104(b)(3)を順守していないという理由でIPR申請を却下するべきであると述べた。
訴訟において、IPR申請人は、問題となる構成要素「コンポーネント」にMPF解釈を適用するか否か、且つ、MPF解釈をする場合には明細書に対応する構造が開示されているか否かを判断することが最も重要であり、訴訟を結論に導くと主張した。
construction of the listed “component” terms—specifically, whether those terms are means-plus-function limitations governed by 35 U.S.C. § 112(f), and if so, whether the specification properly discloses corresponding structure for the recited function in those limitations—will be most significant to the resolution of the case and/or will be case or claim dispositive or substantially conducive to promoting settlement.
上記訴訟での主張に拘わらず、IPR申請人は112条(f)項適用による「コンポーネント」の意味合い(クレーム解釈)をIPR申請書で言及しなかった。
規則42.104(b)(3)によると、IPR申請人は申請書において当該構成要素に対し112条(f)項を適用した場合のクレーム解釈を説明するべきであった。或いは、少なくとも当該構成要素に対して何故通常且つ一般的な意味合いで解釈するのかを説明するべきであった。
ここで注記すべきは、CTPGに集約された規則において、IPR申請人が訴訟におけるクレーム解釈と合致しない解釈を提示することを真っ向から否定するものではない。しかし、本件においてIPR申請人は、訴訟において、当該構成要素「コンポーネント」に112条(f)項の適用有無が最も重要な争点というだけではなく、訴訟を結論に導くと述べた。依って、IPR申請書はCTPGに鑑み不十分である判断する。
■ PTABのHorvath判事による同意意見(Concurring Opinion):
多数意見に同意する(IPR申請を却下する)。規則42.104(b)(3)の要件を満たさないという理由のみで申請が却下されることはない。規則42.104(b)(3)は、訴訟でのクレーム解釈と異なる解釈をすることを禁止するものではない。なお、問題となった構成要素「コンポーネント」を解釈する上で112条(f)項を適用するか否かは審判部の判断事項である。本件で問題となった構成要素「コンポーネント」に112条(f)項解釈が適用されることは明らかである。しかし、当該構成要素に対応する明細書の開示が不十分であり当該構成要素の意味合いを理解できない。依って、当該構成要素に対応する引例の開示箇所を特定することができない。結果として本件IPR申請書はIPR審理を開始する基準を満たさない。
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参考:
規則42.104(b)(3))
(b) Identification of challenge. Provide
a statement of the precise relief requested for each claim challenged. The
statement must identify the following:
(1) The claim;
(2) The specific statutory grounds under 35 U.S.C. 102 or 103 on which the challenge to the claim is based and
the patents or printed publications relied upon for each ground;
(3) How the challenged claim is to be construed. Where
the claim to be construed contains a means-plus-function or step-plus-function
limitation as permitted under 35 U.S.C. 112(f), the construction of the claim must identify the
specific portions of the specification that describe the structure, material,
or acts corresponding to each claimed function;
The Consolidated Trial Practice Guide (“CTPG”) . . . instructs that “[w]here claim language may be construed according to 35 U.S.C. § 112(f), a petitioner must provide a construction.” CTPG 45 (emphases added) (citing 37 C.F.R. § 42.104(b)(3)). The CTPG advises that a party “may choose to elaborate why § 112(f) should or should not apply to the limitation at issue.” Id. Notably, the CTPG warns that “[a] petitioner who chooses not to address construction under § 112(f) risks failing to satisfy the requirement of 37 C.F.R. § 42.104(b)(3).”