日本の明細書を基礎とし米国特許明細書

作成時の留意点

How to Draft US Application

Based on JP Application

20241128

弁理士法人 ユニアス国際特許事務所

米国NY州弁護士 

矢部達雄

 

根拠条文

概要

関連する重要判決

判決の概要(一言で!)

35 USC 101

特許保護適格性

[1] Alice v. CLS Bank (2014:最高裁)

101条判断を未だに混乱させている元凶

35 USC 112(a)

明細書に対する要件

[2A] Ariad v. Eli Lilly (2010CAFC大法廷)

クレームの広さをサポートする実施例

[2B] Amgen v. Sanofi (2023: 最高裁)

クレーム範囲全域を実施可能にする説明要

35 USC 112(b)

クレームの明瞭性

[3] Nautilus v. Biosig (2015:最高裁)

合理的な確証を与える明瞭性

クレーム解釈

[4] Phillips v. AWH (2005: CAFC大法廷)

訴訟におけるクレーム解釈の基準
Doctrine of Claim Differentiation

クレーム解釈

[5] Abbott v. San (2009: CAFC大法廷)

Product by Processクレームの解釈

35 USC 112(e)

マルチ・マルチはX!

35 USC 112(f)

MPF解釈

[6] Williamson v. Citrix (2015: CAFC大法廷)

MPF解釈と112(a)/(b)との関係

不公正行為

[7] Therasense v. Becton. (2011: CAFC大法廷)

不公正行為の認定基準(騙す意図と重要性)

均等論の制限

[8] Johnston & Jon’n v. R.E. (2002: CAFC大法廷)

明細書に開示しているがクレームに含まれない特徴は公衆に寄与

 

関連するCAFCパネル判決

判決の概要(一言で!)

[a]

SciMed Life System (Fed. Cir. 2001)

The present invention as having XYZと記載されていたのでXYZに限定解釈となった。

[b]

Pacing Tech v. Garmin Int’l (Fed. Cir. 2015)

Summary of the Inventionに独立クレームよりも詳細な特徴を記載したがゆえにクレームを減縮解釈。

[c]

Vehicular Tech v. Titan Wheel (Fed. Cir. 1998)

発明の利点(効果)を繰り返し記載したことで当該効果を達成できないイ号までDOEの適用幅が制限された。

[d]

In re David Fought (Fed. Cir. 2019)

Preambleの記載がクレーム本体(body)で引用された限定と解釈された。

[e]

Ex Parte Schulhauser (PTAB: 2016)

条件付き方法クレームには要注意!

[f]

In re Nuijten (Fed. Cir. 2008)

プログラム自身101条違反となる;電気信号自身も101条違反。

 

 

日本語明細書から米国特許出願明細書を作成する上での注意事項

    

日本明細書

米国明細書

注意事項

【発明の名称】

 

 

Title of the Invention

(発明の名称)

 

● できるだけ短く簡潔に!500文字以内 MPEP606 & Rule 1.72

● 多くの場合審査でスルーされるが(例えば “Vehicle”)、時々発明をdescriptiveとなるように補正するよう指示(Objection)される。その時に対応すればよい。

 

Cross reference to Related Applications(関連出願の関係)

 

● 先の米国出願、或いは、継続出願、あるいは、日本出願を特定できる情報を記載するとともに、日本出願の内容がincorporation by reference(参照し援用:参照することで含む)されていると記載する。MPEP2163.07_II

⇒ Inc. by Ref.しておくことで日本出願の内容を含むと理解され、翻訳間違いがある場合の補正(訂正)の根拠にもなる。

⇒ 優先権を主張しているというだけでは補正の根拠とはならない。Ex Parte Bondiou (Bd. Pat. App.& Int. 1961)

2013年にPLTに準じRule 1.57(a)が改訂されADS(「願書」:Rule 1.76)で優先権の基礎となる先の出願(日本出願)を特定することで先の出願の内容が自動的に援用される(20131218日以降の米国出願に適用)。

【背景技術】

【技術分野】

【先行技術文献】

Background of the Invention

(発明の背景)

● 米国特許法102条の基に先行技術になるのか単に関連技術(或いは説明用の技術)なのか? 特にAIAPre-AIAから「先行技術の規定」が大きく変わった!

● 従来技術の説明は簡潔に!従来技術を詳述した内容は出願人が自認する先行技術(Applicant’s Admitted Prior Art)となりうる。自明性拒絶を誘発する;MPEP 2129 I

● 従来技術から発明への経緯を分かり易く説明しすぎると自明性拒絶を誘導することになる。

⇒ とは言え日本出願で先行技術の内容を詳述してしまった場合にはそれを省くと危険(不公正行為につながる);[7] Therasense v. Becton.CAFC大法廷:2011

● 従来技術が自社の場合にはその不具合を記載する場合には表現要注意(PLの問題)

【発明の概要】

【解決課題】

【解決手段】

【発明の効果】

Summary of the Invention

(発明の要旨)

● 通常メインクレームに相当する特徴、或いは、それよりもやや広い特徴を平易な言葉で表現する。

The present invention as having XYZと記載されていたのでXYZに限定解釈となった。 [a] SciMed Life System (CAFC: 2001)断定的な表現を避ける

● 従属クレームの特徴を記載する場合には”preferably”; “possible”; “may” 等、選択的(任意)な特徴であることを明瞭にする;

 ● Summary19項目の目的を列記し、それらを達成するために独立クレームよりも詳細な構成要素を記載したがゆえにクレームが減縮解釈された。 [b] Pacing Tech v. Garmin Int’l (CAFC: 2015)

● 米国出願実務においてクレームの補正に対応してSummary部分を補正することはしない。しかしクレームの権利範囲が広くなる場合(継続出願、再発行出願)にはその権利範囲に対応するようにSummary部分を補正すること。
[b] Pacing Tech v. Garmin Int’l (CAFC: 2015)

【図面の簡単な説明】

Brief Description of the Dwgs.

●普通に訳せば問題ない。

【発明を実施するための形態】

 

Detailed Description of the Invention (発明の詳細な説明)

112(a)項の3要件を満たす開示になっているか? 「記述要件」;「実施可能要件」;「ベストモード要件」 

「記述要件」:クレームされた発明(権利範囲全域)を発明者が出願時に所有していたことを当業者が理解できるように明細書が作成されていなければならない。即ち、クレームの広さに相応しい実施例が開示されているか? [2A] Ariad v. Eli LillyCAFC大法廷: 2010

「実施可能要件」:クレームの権利範囲全体に渡って当業者が実施可能となる開示が要求される。[2B] Amgen v. Sanofi  (最高裁: 2023)

「ベストモード」AIA改正法によって2011916日以降の訴訟における無効理由にはならない。

● 文献を引用し援用する場合にもIncorporation by reference可能。但し、112(a),(b),(f)項の要件を満たす開示内容(Essential Material)は米国特許・米国特許公開公報でなければならない。それ以外は諸外国の公報・文献であっても良い。MPEP2163.07(b); Rule 1.57

● クレームを無用に減縮する記載をしない。以下の断定的な用語を控える。
Essential / Critical / Indispensable / Never / Must / Always / This invention is クレームを減縮解釈する一つの根拠となった[a] SciMed Life System (CAFC: 2001)

● クレームの構成要素と直結する効果のみ記載する。実施例レベルの効果をクレーム1の効果のように記載しない。発明の利点(効果)を繰り返し記載したことで当該効果を達成できないイ号までDOEの適用幅が制限された [c] Vehicular Tech v. Titan Wheel (CAFC: 1998)

● 実施例が複数ある場合にそれら実施例の全てが最も広いクレームの権利範囲に属するかを確認するのが望ましい;権利範囲に属さない実施例は公共に寄与したものと推定され、均等論を適用して権利範囲に含めることすらできない。⇒ [8] Johnson & Johnston (CAFC大法廷:2002)

● 「予想例(実際に実験をしていないが合理的に予想される結果)」を記載するときに過去形を用いてはならない。MPEP 608.01(p) II
⇒ 官報で注意喚起: Fed. Register: 2021-07-01 "Prophetic & Working Examples in Application"

● クレームの構成要素が機能表現されている場合には当該機能を実現するためのstructureが明細書に記載されていること([6] Williamson  CAFC大法廷: 2015):ソフトウェア関連発明ではstructureに相当するのはアルゴリズム (Aristocrat Tech Australia PTY v. Int’l Game Tech: Fed. Cir. 2008)

2014年([1] Alice最高裁判決)によって特に、ソフトウェア関連発明が101条拒絶(単なる抽象的なアイデアをクレームしているとして)を受ける度合いが増えた。この種の拒絶に対応できるように明細書にクレームの構成要素が従来技術に対する技術的な改良、即ち、技術的な解決手段であることを説明しておくのが望ましい。さらに現実社会における適用 (integrate into a practical applicationを記載しておくことが望ましい。

【特許請求の範囲】

Claims (クレーム)

● 基本は独立クレーム3項、合計クレーム数20項とする。

   3項を超える独立クレーム1項毎に $480[$600:2025-01-19]:

   20項を超えるクレーム1項毎に$100[$200:2025-01-19]

※ 多数項従属クレームは使用しない(料金$860[料金$905: 2025-01-19]

USPTO's FY2025 Fee Schedule 
2024
1118日の官報でFY2025USPTO改訂費用(fee schedule)が公開。現長官Kathi Vidal氏はトランプ元大統領の再選によって12月に辞任。そのタイミングもあり急遽USPTOは改訂費用を最終決定し2025119から適用。

● 理想:階層的に(広い⇒中概念⇒下位概念)クレームを構築する。

● クレームは[a] Preamble [b] Transitional phrase [c] Bodyで構成され、Preambleは基本的には限定と解釈されない;Preambleの記載がクレーム本体(body)で引用された場合には限定と解釈される;[d] In re David Fought (CAFC: 2019)

Transitional Phrasecomprising/consisting of/consisting essentially ofがある。 但し、”including”; “containing””comprising”と同様にOpen endMPEP2111.03

 従属クレームは親クレームの権利範囲を明瞭にするとともに親クレームの権利範囲の広さを確証する。Doctrine of Claim Differentiation [4] Phillips v AWH (CAFC 大法廷: 2005)

 実施例に比べて広すぎるクレームは要注意! [2A] Ariad v. Eli Lilly (CAFC大法廷: 2010) [2B] Amgen v. Sanofi (最高裁: 2023)

 クレームの明瞭性の要件がnot insolubly ambiguous(解決できないほど不明瞭でなければ良い)からreasonable certainty(当業者に合理的な確証を与える明確さ)に変わった。[3] Nautilus v. BioSig: (最高裁: 2014)

● 機能表現されたクレームは112(f)項解釈(MPF解釈)される傾向にある。以下のような表現は少し工夫することでMPF解釈を回避できる:

- a storage unit memory (or a storage);

- an image generating unit an image generator;

- a display unit a display;

MPEP2181A112(f)項の解釈を回避した表現が例示されている。

“circuit”, “digital detector”, “reciprocating member”, “connector assembly”, “perforation”, “eye glass hanging member”, “correction circuitry”,

 112(f)項解釈の3要件と(f)項解釈と(a)項と(b)項との関係を説示した: [6] Williamson判決(CAFC大法廷: 2015

⇒ 特にソフトウェア関連発明の構成要素の場合には112(f)項解釈(「機能表現」)を回避できない場合が多い。依って、明細書に「機能」を実現するアルゴリズムを明細書に開示しておくこと。Williamson判決

● プログラム自身は101条違反となる;電気信号自身も101条違反([f] In re Nuijten: CAFC 2008; 但し、記憶媒体(non-transitory medium)に記憶されたという形式にすると101条を満たす。

昨今では以下のように表現することで実質的には「プログラム」及び「信号」を権利化できる:

A non-transitory computer-readable storage medium storing a program (a signal) for causing a computer to execute processing comprising:

a step of …ing; and

a step of..ing.  

 Jepsonタイプクレームを使用しない。
⇒ characterized in that或いはwherein the improvement comprisesまでをPreambleで周知の技術と解釈され審査される。Rule 1.75(e) & MPEP2129 III

 Markushタイプのクレームは許容される。
⇒ one selected from the group consisting of A, B, and Cのフォーム。 MPEP2117  

条件付きの方法クレームには要注意
条件を満たさない場合にはステップC、満たす場合にはステップD-Kとした場合に審査官はステップD-Kを考慮せず引例を適用できる; [e] Ex Parte Schulhauser (PTAB: 2016)

 Product by Processクレームをできるだけ使用しない。
⇒ 基本、Process部分は審査では考慮されない。侵害判断時には限定となる。MPEP 2113; [5] Abbott Lab. V. Sandoz (CAFC大法廷: 2009)
⇒ 但し、以下のようなプロセス表現は審査でも考慮される:
interbonded one to another by interfusion” ; ”intermixed”; “ground in place”; “press-fitted”; “etched”; ”welded”; chemically engraved”; “superimposed”; “integral”; “molded plastic”; “injection molded[5A] In re Nordt (CAFC 2018) MPEP 2113

【要約書】

Abstract(開示内容の要約)

150ワード、15行以内にまとめる。Rule 1.72(b)

Abstractは特許の内容を一般人が迅速に把握するという目的があるため” “means”, “said”, ”などの特許専門用語の使用を避ける。MPEP608.01(b)C

【図面】

 

● 関連技術なのか先行技術なのかを明瞭にする。先行技術の場合には PRIOR ARTと表示し、審査官からPrior Artなのかと聞かれて、そうでない場合には発明を分かり易く説明するための図(explanatory diagram/FIG)であると反論する。(実務経験より)

● 基本としてクレームされた全ての特徴を示すこと;一般的な特徴は図示不要;図形(□枠等)を使った説明図でも良い;MPEP608.02(d) / Rule 1.83(a)

その他

 

20年位前にどこかの米国代理人が 「Inventionという言葉を明細書から一切省き disclosuresにしたらクレームが限定的に解釈されることはない」とセミナーで発言してからそれを忠実に順守する企業(出願人)はある。私個人的には「disclosuresはどうもしっくりこない。尚、SONY: TOYOTA: Panasonic: Kyoceraは「invention」を明細書で使用。IBMMicrosoftAppleは不使用。