Allergan USA v. MSN Lab. & SUN Pharma Indus. 優先日を同じとするPatent Family(親特許と後の継続出願で派生する子特許)において、先に出願され、先に権利化された場合でPTAが付与された親特許は、子特許よりも権利期間が長くなったとしても子特許のクレームによってODP拒絶を受けることはない OPINION by LOURIE, joined by DYK and REYNA (Circuit Judges) |
本事案は昨年8月のIn re Cellectに続くODP(自明性型の二重特許)に関する重要判決(Cellect判決と同じ3名の裁判官による)である。Cellect判決においてODPを判断する際に基準となるのはPTAが付与された特許期限の満了日であると判示された。本判決において優先日を同じとするPatent
Family(親特許と後の継続出願で派生する子特許)において、先に出願され、先に権利化された場合でPTAが付与された親特許は、子特許よりも権利期間が長くなったとしても子特許のクレームによってODP拒絶を受けることはないと明瞭に判示した。
同判決に至った理由として、ODPの極めて重要な目的は、発明者が後に期限満了となる2番目の特許によって最初に出願された特許と実質的に同じ権利を取得することを防ぐことにあると判示した。しかし、Cellect判決は最高裁に裁量上告中なので暫くの間は要注意である。上告不受理となれば、Cellect判決は確定判決となり本判決も覆ることはないだろう。しかし、Cellectが確定判決となれば(その可能性は高い)、PTAが付与されているFamily Patents(重要発明に対し親出願から複数の継続出願)においてODPを理由に権利が無効になる可能性が高くなるので今後の行方を注視する必要があると考える。(以上筆者)
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■ 特許権者:Allergan USA
■ 被疑侵害者:MSN Lab. & SUN Pharmaceutical Industries
■ 関連特許:
USP 7,741,356 (以下356特許)
USP 8,344,011 (以下011特許)
USP 8,609,709 (以下709特許)
■ 争点:
356特許のクレーム40は011特許のクレーム33に鑑みODPによって無効となるか?同クレーム40は709特許のクレーム5に鑑みODPによって無効となるか?(他の争点「記述要件」に関しては割愛する)
■ 特許発明の概要:
当該特許はエルクサドリンに関する。エルクサドリンは,男性および女性の下痢型 IBS の症状を軽減する新規治療薬である。
■ 代表的なクレーム:
356特許のクレーム40(エルクサドリンを含む8種類の化合物を規定している)
■ 地裁の判断:
被告SUNはAllerganの356特許クレーム40は011特許のクレーム33に対して自明であり、且つ、同クレーム40は709特許のクレーム5に対して自明である、さらに356特許は467日のPTが付与され011特許及び709特許の有効期限を超える権利期間を有するので、356特許クレーム40は011特許のクレーム33、且つ、709特許のクレーム5に鑑みODPによって無効であると主張した。
Allerganは356特許クレーム40がSUNの主張する011特許のクレーム及び709特許もクレームに鑑み自明であるという主張には反論していない。しかし、Allerganは、356特許はエルクサドリンをクレームした最初の米国出願であり011及び709よるも先に特許となったので、後に出願され、後に特許となったクレームによってODPの対象とならないと反論した。
地裁はSUNの主張に同意し、最初に出願、最初に権利化というAllerganの反論は意味をなさないとした。ODPを判断する上で基準となるのは特許の出願日或いは発行日ではなく、権利満了日であると述べた。さらに地裁はAllerganの反論はごく最近のCellect判決(In re Cellect: Fed. Cir. 2023-08-28)で否定されたと述べた。即ち、ODP判断の基準日は権利満了日である。従って、356特許のクレーム40は無効である。
■ CAFCの判断
地裁判決を破棄する。
Allerganは356特許のクレーム40がODP参照特許のクレームに対して自明であるということに反論していないので、唯一の争点は同一の優先日を持つ複数の特許において、最初に出願され、最初に発行された特許のクレームが後に出願され、後に発行された特許のクレームによって無効となるかである。
そもそも二重特許を禁止する目的は同一発明に対する排他権の期間を不当に延長することにある。特許法101条の文言に発明に対して一つの特許と規定されていると解釈され、司法により制定された二重特許の禁止もこの条文から派生している。
特許有効期間を歴史的にみると1995年までは特許発行日を起算日としていた。1790年に特許法が誕生した当時は発行日から14年であり、2回の改訂(1836年に20年、1861年に17年)を経て1995年にようやく出願日から20年になった。従って、裁判所はODPの適用を判断する際に、同一人所有で互いに特許性のない権利に対して発行日を基準としていた。Novartis Pharms. Corp. v. Breckenridge Pharm. Inc., 909 F.3d 1355, 1362 (Fed. Cir. 2018) (“Breckenridge”) (citing Miller v. Eagle Mfg. Co., 151 U.S. 186, 196–97 (1894) and Suffolk Co. v. Hayden, 70 U.S. 315, 319 (1865)).
従って、1995年以降の米国出願(正確には1995年6月8日以降の米国出願)に関してはODPの権利満了期間に対する影響は殆ど無になった。しかし、1999年の改正法(Patent Term Guarantee Act)によって特許庁の審査の遅れに起因する日数を20年の満了期間に足すという特許期間調整(Patent Term Adjustment: PTA)が立法された(154条(b)(1)(A)-(B))。従って、同一出願人よって同日に出願された2件の特許出願の権利満了日がPTAによって異なるという事情が発生する。このような事情に対して(クレームが互いに識別されるものではない)TDを提出することでODP拒絶を回避できる。この場合にTDの対象となる特許がPTAを付与されていたとしても、その期限はODPの対象となる特許の満了期限を超えることはない。154条(b)(2)(B)
Cellect判決において、出願日が同一の複数の権利(クレームは互いに識別されない)があり、一件を除いてそれぞれ異なる日数のPTAが付与されていた。出願仮定においてはODP拒絶を受けることなく、TDをすることなく成立した。しかし、後の再審査において、権利者は実質同一のクレームの権利期間を最大759日(PTAによる)不当に延長しているという理由で権利行使に対応するクレームはODPが適用され無効と判断された。
以下In re Cellect判決文 4頁と5頁の図より(In re Cellect, LLC: Fed Cir. August 28, 2023)
控訴審においてPTAが付与された複数の特許に対してODPを判断する際には(TDが提出されたか否か、その必要があったか否かに関係なく)PTAが付与された特許満了期限で判断すると判示した。従って、Cellect判決において、PTAが付与された特許に対しODPを判断する際の基準はPTAが付与された期限であることが明瞭に判示された。
地裁はCellect判決に鑑み356特許のクレーム40の満了期限はODP拒絶の参照クレームとなる011特許及び709特許よりも後になるので、356特許クレーム40は無効であると判断した。しかしCellect判決における論点は少し違い、本事件に適用されるCellect判決における法理論はPTAが付与された特許に対してODPを判断する基準はPTAが付与された期限であるということのみである。しかしながら、Cellect判決においてどのような条件でODPの参照特許(ODP reference patent)になるのかという問いには言及していない。
本事件において011特許及び709特許は359特許クレーム40に対するODP参照特許にはならない。何故なら、そもそものODPという法理論は、権利者が第2番目の特許によって第1番目と実質的に同じ発明主題の排他権の期間を延長することを防ぐということにある。See Miller, 151 U.S. at 198 (“[T]he power to create a monopoly is exhausted by the first patent . . . a new and later patent for the same invention would operate to extend or prolong the monopoly beyond the period allowed by law.”); Cellect, 81 F.4th at 1226 (“A crucial purpose of ODP is to prevent an inventor from securing a second, later-expiring patent for non-distinct claims.” ODPの極めて重要な目的は、発明者が後に期限満了となる2番目の特許によって実質的に同じ権利を取得することを防ぐことにある).
356特許は出願日及び特許発行日からみてエルクサドリンに対する第1(最初)の特許であることに疑問の余地はない。011特許及び709特許は出願日及び発行日を比較すると、356特許に対して第2番目の特許である。ODPの最重要な目的をこの事実関係に適用すると、356特許のクレームによる排他権は特許法で規定された有効期限を超えていないと解釈される。従って、356特許のクレームは011特許及び709特許によってODP拒絶の対象とはならない。
換言すれば、356特許の有効期限は011及び709特許よりも長くなることで356特許が実質的に同じ発明に対する「2番目」の特許には該当しない。特許ファミリーの中で、最初に出願され、最初に発行された特許は発明主題に対し最も長い権利期間を決定することになる。従って、最初に出願され、最初に権利となり、後に権利を満了するクレームは、同じ優先日を持ちながら後に出願され、後に権利となった参照特許のクレームによって無効になることはない。
地裁判決を破棄する。
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