Celanese Int’l Corporation v.
ITC AIA新法においても、非開示の製法で作られたものを基準日前に販売することで102条の「販売」に該当し、後に当該製法を特許することはできない。
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本事案はAIA(America Invents Act)102条(a)(1)の「販売」という用語の解釈に対する判例である。
AIA102条(a)(1)によると有効出願日前の販売行為(特許された製品)によって特許を得ることはできない。但し、同条文AIA102条(b)(1)(A)によって、当該販売が有効出願日前1年以内(Grace Period内)で、発明者(或いは発明者から発明情報を得た者)による特許製品の場合には新規性喪失の例外規定が適用され当該販売行為は引例とはならない。従って、AIA新法102条において、発明者による特許製品の販売の場合、引例となるか否かの判断の基準日は有効出願日の1年前の日で、同基準日前に販売行為があればon sale bar(販売により新規性喪失)となり特許を受けることができない。Pre-AIAの時代には、102条(b)項の条文がon sale barを規定しており、Pre-AIAでは米国出願日の1年以上前に販売行為があれば特許できないと規定している。
今回問題となったのは欧州で非開示の方法で製造された製品を米国に輸入し販売する行為(基準日の前)によって問題となる特許(非開示の方法)は on-sale bar(販売によって新規性喪失)となり102条(a)(1)項の下に無効となるかであった。結論としてはPre-AIAの時代と102条で規定する「販売」とは同じ意味であり、販売された製品がどのように製造されたかは公に開示されている必要はない。即ち、非開示の製法で作られたものを基準日前に販売することで102条の「販売」に該当し、後に当該製法を特許することはできない。(以上筆者)
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■ 特許権者:Celanese Int’l Corp.
■ 控訴人:Celanese Int’l Corp
■ 被疑侵害者:JINHE USA LLC
■ 関連特許:
USP 10,023,546; USP 10,208,004; US 10,590,095
(以下 546特許, 004特許, 095特許)
3件とも同じ出願日(2016年9月21日):従って、on-Sale bar (販売によって新規性喪失)となる基準日(critical date)は2015年9月21日
■発明
Improved processes for producing high purity
acesulfame potassium.
アセスルファムカリウム(人工甘味料)
■ 事件の背景:
Celaneseは、被疑侵害者Jinheを相手に546特許、004特許、095特許でクレームされた方法で作られた人工甘味料(Ace-K)を米国に輸入し販売しているという理由で連邦法19章337条に基づきITCに輸入差し止めを請求した。ITCはCelaneseの3件の特許は基準日前の販売行為によってAIA102条(a)(1)の下に無効であると略式決定をした。同略式決定を不服としCelaneseはCAFCに控訴した。
■ 争点:
基準日以前に欧州で非開示の方法で作られた製品を米国で販売する行為によって問題となる特許はAIA 102条(a)(1)項で規定するon-sale bar(販売によって新規性喪失)に該当し無効となるか?
■ ITCの判断:
Jinheは問題となるAce-Kは基準日(2015年9月21日)前から米国に輸入され、販売されているので同連邦法337条を違反しないと反論した。問題となる特許クレームの製法は基準日の前に、① 欧州にて非公開の状態で実施されていたこと、且つ、② 米国に輸入され販売されていたに事実に対して当事者間で争いはない。同事実に鑑みJinheは米国特許法102条(a)(1)によって問題となる3件の特許クレームは無効であると主張し、ITCに略式決定を求めた。ITCは事実関係を考慮の上、Jinheの主張に同意し問題となる特許クレームを無効と判断し同連邦法337条を違反していないと決定した。
■ CAFCの判断
「1」on-sale bar(基準日前の販売行為によって新規性喪失)に関して
On-sale bar(基準日前の販売行為によって新規性喪失)という概念は1836年に連邦議会によって立法された。その後、幾多の法改正を経ながらも on-sale barという概念は条文で維持されてきた。
AIA改正法以前(Pre-AIAの時代)は1952年に成立した米国特許法第102条(b)項で、米国出願日の1年以上前に米国内で公用又は販売行為があれば特許できないと規定されていた。Pre-AIAの時代において、102条(b)項で云う「販売行為」とは非公開のプロセス(方法)で作られた製品の販売によって当該プロセス(方法)は特許を受けられないと判示してきた。約40年前のD.L. Auld判決(CAFC: 1983年)において本事案と略同一の事実関係が争点となった。Auldは米国出願日の1年以上前に非公開の方法(鋳物による装飾エンブレムの製造方法)で製造したエンブレムの販売の申込みをした。この販売の申込みという行為によってAuldの方法クレームは無効となった
1829年のPennock v. Dialogue事件で、最高裁は非開示の方法によって製造された製品の販売行為に関して意見を述べた。長期にわたり機密を維持した発明に特許を与えることで実質的に排他権の期間を延長することになり科学技術の進歩を遅らせることになる。
比較的近似では、1998年のPfaff v. Wells Elecs事件において、最高裁は1946年のMetallizing判決を引用し次のように述べた、「on-sale barの役割は、発明によって商業上の利益を得ていながら特許を受けることを遅延し実質的に条文で規定された権利期間を延長することを禁止することである」。
上記のようにPre-AIAの時代に確立した判例法によると、基準日(critical date)の前に非開示の方法によって製造されたものを販売する行為はon-sale barを発動し特許を受けることを阻止し、仮に当該プロセス(方法)で権利となった特許は無効となる。
「2」AIAの時代(改正法成立:2011年9月16日)
2011年に法改正がなされ米国も他国の制度と調和すべく「先発明主義」から「先願主義」に移行した。Pre-AIAの102条(b)項に対応する条文はAIAでは102条(a)(1)となり、基準日(critical
date)は有効出願日となり、当該有効出願日の前にクレームされた発明が刊行物に開示、公用、販売、・・・されている場合には特許を受けることはできないという規定となった。2019年のHelsinn事件において、最高裁はon-sale barに該当する行為はPre-AIAと変わっていないと判示した。即ち、基準日の前に非公開の方法によって製造されたものを販売する行為によって特許を得ることはできない。
AIA102条(a)(1)においてPre-AIAの102条(a)項における「invention」が「claimed invention」となった。このクレームされた発明 (claimed invention)という文言の”claimed”を連邦議会が足したことによって on-sale barの意味合いを変更したのか? Celaneseはon-sale barはクレームされた発明、即ち、販売の対象のみに適用されると主張した。即ち、問題となる特許においてクレームされた発明とは非開示の方法であって、同方法によって作られたものがon-sale bar(販売行為によって新規性喪失)の対象ではないと反論をした。Celaneseの主張はAIA改正法によって、方法(プロセス)の特許性の条件としてのon-sale barは根本的に変わったという趣旨である。しかし、AIA改正法102条の立法趣旨を参酌しても連邦議会にその意図は見いだせない。事実、On-sale barに対する判例法(最高裁)においても”invention”を”claimed invention”と交互(interchangeably)に言及している。Pfaff, 525 U.S. at 68
「3」AIA102条における on sale(販売行為)の意味合い
AIA102条(a)(1)では特許を受けられない条件として、有効出願日の前に、すでに特許されていた、刊行物に開示されていた、公に使用されていた、販売されていた・・・と規定されている。Helsinn最高裁判決で「販売」というカテゴリーに関して、商業上の販売行為によってクレームされた発明の詳細を公衆に明示する必要はないと言及した。Helsinn 586 U.S. at 125, 130
本事件の特許された方法に関して述べると、基準日の前に非開示の方法を用いて公衆から商業上の利益を得る行為に対してon-sale-barが適用される。
結論:
Celaneseの問題となる特許された製法クレームは基準日前の販売行為によってAIA102条(a)(1)の下に無効である。依って、ITCの略式決定を支持する。
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References:
AIA 102(a)(1)
(a) Novelty; Prior Art.— A person shall be entitled to a patent unless —
(1) the claimed
invention was patented, described in a printed publication, or in
public use, on sale, or otherwise available to the public before the
effective filing date of the claimed invention;
(b) EXCEPTIONS.
(1) DISCLOSURES
MADE 1 YEAR OR LESS BEFORE THE EFFECTIVE FILING DATE OF THE CLAIMED INVENTION. —
A disclosure made 1 year or less before the effective filing date of a claimed
invention shall not be prior art to the claimed invention under subsection
(a)(1) if—
(A) the disclosure was
made by the inventor or joint inventor or by another who obtained the
subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a
joint inventor;
注:AIA102条(a)(1)によると有効出願日前の販売行為(特許された製品)によって特許を得ることはできない。但し、同条文AIA102条(b)(1)(A)によって、当該販売行為が有効出願日前1年以内(Grace Period内)で、発明者(或いは発明者から発明情報を得た者)による場合には新規性喪失の例外となり当該販売行為は引例とはならない。
注意:AIA条文における「有効出願日」とは問題となる米国出願の最先の優先日(外国出願も含む)である。
Pre-AIA 102(b)
A person shall be entitled to a patent
unless -
(b) the invention was patented or described in a printed
publication in this or a foreign country or in public use or on sale in
this country, more than one year prior to the date of application for patent
in the United States.
注:Pre-AIA102条(b)によると米国出願日1年前の日(基準日)以前の販売行為(特許された製品)によって特許を得ることはできない。従って、上図の場合に、販売行為は102条(b)項の下には引例とはならない。しかしPre-AIA102条(a)項における基準日は「発明日」なので上図の場合に販売行為の前に特許された発明が完成していることを挙証できなければ特許を得ることはできない。
Pre-AIA 102(a)
"A person shall be entitled to a patent
unless -
(a) the invention was
known or used by others in this country, or patented or described in a printed
publication in this or a foreign country, before the invention thereof
by the applicant for patent,
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考察:
上記したように、以下の図で示す状況の場合にはPre-AIAとAIAでは結果が全く異なる。但し、販売行為は発明者による発明品(特許製品)とする。
Pre-AIAでは以下の販売行為(特許製品)は米国出願日の1年以上前なので102条(b)で特許不可(発明日を遡及できるのは米国出願の1年前以内)。しかし、AIAでは以下の販売行為は有効出願日(日本出願)の1年前以内(AIAにおける基準日の後)なので特許可能。重要なのはPre-AIAとAIAでは、引例になるか否かを判断する日(基準日:critical date)が異なる。
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