SIPCO v. JASCO Products Company
20240529
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オクラホマ州西部地区 連邦地裁判決

ターミナル・ディスクレマー(TD)のエラー(特許発行後)には要注意!
Summarized by Tatsuo YABE  2024-06-18

本事案は特許権者のTD(ターミナル・ディスクレーマー)の誤記により権利行使不能とされたケースである。そもそもの原因は自明性の2重特許拒絶の根拠として審査官は本来US6,430,268と記載するところを267と記載した。出願人はそのままの間違った特許番号267を記入しTDを提出した。特許が発行された後に当該TDは明らかな間違いで無効であると主張したが(確かに明らかな間違いであった)被告の訴え却下の申立てが認められた(即ち、権利行使不可となった)。地裁が当該判断に至った最たる理由は発行された特許の公共に対する通知機能の重要性であるとした。

米国特許実務において、特許証が発行された後も何らかの間違い(発明者・優先権・クレーム/明細書の誤記・クレームの権利範囲の過小)が判明した場合には、訂正証明書、或いは、再発行出願、または、再審査で訂正可能である。しかし、特許証発行後TDの誤記が見つかった場合には再発行出願或いは再審査(及びIPRPGR)によって訂正、或いは、撤回することはできない。唯一可能な手段(特許証が発行された後)はTDに間違いがあった場合には権利者はその間違いをUSPTOに説明し、その説明を経過書類に反映するように申請することが必要である。さらには本来の正しいTDを新たに提出することが必要である。

なお、特許証が発行される前であれば規則1.182に基づきTDの撤回を申請することでTDを撤回することが可能である。または、継続出願をする(問題となる出願を放棄)ことでTDを撤回することも可能である。しかしRCEをするだけではTDを撤回することはできない。

実務において自社において関連出願がある場合に自明性の二重特許の拒絶を受けることはしばしばある。拒絶理由通知にもTDをすることで拒絶を回避できると記載される。しかし多くの場合、出願審査の段階であり自明性の二重特許の拒絶もProvisional(予備的)であると記載されており、問題となったクレームを補正する可能性は十分にある。従って安易にTDで対応する必要はない。寧ろ、出願が権利化される前に真にTDが必要かを検討し、TDの対象となる特許クレームとの差異が明瞭であればTDで対応するのではなく意見書で説明することが望ましい。さらにTDが真に必要な場合には本判決に鑑み対象となる特許或いは特許出願をしっかりと確認することが重要である。(以上筆者)

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■ 特許権者:SIPCO, LLC
■ 被疑侵害者:JASCO Products Company, LLC
■ 関連特許:USP 8,335,304  (以下304特許)
〇 出願日:200878日(但し、1997年の2件の仮出願を優先権の基礎とし199787日に正式な米国出願となり、その後、継続、一部継続を繰り返し2008年の出願に至った)
〇 特許日:20121218
〇 特許満了日:201787PTA無の場合)

■ 特許発明の概要:
当該特許は自販機(銀行のATMも含む)の状態を示す信号を、それら自販機を統括するセンターに送受信し、製品の過不足、故障、などに迅速に対応できるようにする通信技術に関する。

■ 事件の背景
20101020日、304特許の出願審査中に拒絶理由通知が発行され、OTDPの拒絶を受けた。当該拒絶理由通知において審査官のミスでTDの対象となる特許の番号を間違っていた(正しくはUSP6430268のところUSP6430267と記載されていた)。

因みに、
USP6430267Nokiaの特許で268特許とは全く関係ない;
〇 出願日:1999715
〇 特許日:200286
〇 特許満了日:2019715日(PTA無の場合)

USP6430268
〇 出願日:1998622
〇 特許日:200286
〇 特許満了日:2018622日(PTA無の場合)

2011321日、出願人は間違った特許番号のままでTDを提出した。同TDには定型文であるが、「304特許(当時は出願)は267特許と同一人所有の間においてのみ権利行使可能であることに同意する」と記載された。

20121218日、304特許証が発行された。

2019年になり、SIPCOJASCOを相手に特許侵害裁判を提起した。 

■ 主たる争点  
TDに記載した対象特許の番号の間違いによって304特許は権利行使不能となるか? 

■ 地裁:

両当事者は2011年に提出されたTDに記載された267特許は間違いであることに同意した。2010年の拒絶理由通知でOTDP拒絶の根拠として267特許と記載したのは確かに審査官によるミスである。

201611SIPCOは嘆願書によって当該ミスを訂正(267ではなく268に訂正)しようと試みたがUSPTOMPEP1490に基づき許可しなかった。MPEP1490によると特許証が発行された後に、意図せぬ間違いを含むTDを解消することはできない。しかし、特許権者はその間違いを説明すると共に、間違いを正した新たなTDを提出することは可能であると説明した。USPTOSIPCO2か月の期限を与えそのように対応することを促した。しかし、20182SIPCOは単に268特許に対するTDを提出した。この時点で304特許は有効期限(201787)を満了していた

上記に鑑みTDの間違い、及び、同一人所有の要件違反を理由とし、被告JASCOは原告の訴えの却下を申し立てた(連邦民事訴訟法12(b)(6))。被告JASCOは、2011年のTDによって、304特許は267特許と同一人所有の期間においてのみ権利行使可能であると主張した。原告は267特許に対して提出されたTDはそもそも明らかな間違いであり、無効であると反論した。さらに、267特許と304特許は304特許の出願時に同一人所有でないのでそもそもTDを提出することはできないと述べた。 

地裁の意見:

267特許に対してTDが提出されているので、304特許が発行された時点で304特許は権利行使不能となる。その結論に至る最たる理由は特許とは公共への通知機能であり、公共は特許の経過書類に依存し発行された特許の権利範囲の全体を理解する権利を有する。特許法253条に規定されているようにTDは原特許の一部であると理解される。規則1,321ではTDは権利者及び後継人、譲受人にも効力を及ぼす。

In re Dinsmore (Fed. Cir. 2014)において、特許権者は再発行出願によって出願審査中に提出したTDを不注意によるものだった(問題となった出願とTDの対象となった特許とは同一人所有ではなかった)という理由で撤回しようと試みたがCAFCは認めなかった。CAFCTDを提出するに際し、要求される文言「問題となる特許はTDの基礎となった特許と同一人所有の期間においてのみ権利行使可能である」は公共に対する明白な約束であり、その効力を持つのである。特許権者の反論は全く持って意味をなさない。

Dinsmore判決及び他のCAFC判決によってMPEP1490が以下のように改訂された(MPEP1490 VIII.B.が追記された):
特許証が発行された後は、訂正証明書(255条)、再発行(251条)、再審査(305条)、IPR(316条)、PGR(326条)の何れによっても経過書類に記録されたTDの効力を無効にすることはできない。TDに間違いがあった場合には権利者はその間違いを説明し、その説明を経過書類に反映するように申請することが必要である。さらには本来の正しいTDを新たに提出することが必要である。

上記に鑑み、304特許と207特許が同一人所有の期間が存在しないので304特許は権利行使不能である。被告の訴え却下の申立てを認める。 

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§ 1.182 Questions not specifically provided for.

All situations not specifically provided for in the regulations of this part will be decided in accordance with the merits of each situation by or under the authority of the Director, subject to such other requirements as may be imposed, and such decision will be communicated to the interested parties in writing. Any petition seeking a decision under this section must be accompanied by the petition fee set forth in § 1.17(f).

[69 FR 56544, Sept. 21, 2004]

 

(1) US_Patent Related 

(2) Case Laws 

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