USPTO’s Guidance on Use of AI-Based Tools

in Practice Before USPTO
2024410
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AIツール使用によるUSPTOとのやりとりに関するガイダンス 
Summarized by Tatsuo YABE  2024-04-18

2024410日、USPTOAIツール使用によるPTOにおける実務に対するガイダンスを発表した。本ガイダンスは主として米国の実務者(特許弁護士及びPatent Agent)に対して書かれたもので、基本的にはAIツールの支援によって作成されたUSPTOに対する全ての書類はその正確さを実務者(署名する人)が確認しなければならないということを述べている。その中でも以下の内容は(AIツール支援によるとかあまり関係なく)日本の実務者にも関わるので留意されたい:

「1」米国で生じた発明を米国出願するために日本で明細書を作成する行為米国で生じた発明を第1国米国出願とし外国(例、日本)出願する場合にはUSPTOから外国出願許可書(foreign filing license)を得なければならない。余程、軍事、国家機密に直接影響するような発明でなければ米国特許出願受領書に “foreign fling license granted”と定型文が記載される。

但し、米国で生じた発明をUSPTOに第1国出願するために(例:米国出願明細書を作成するために)外国(例:日本)に技術データを送信するには商務省の米国安全保障局(BIS: Bureau of Industry and Security)に許可を申請しなければならない。原則、米国内の全てのアイテム(製品、技術、ソフトウエア)の外国への輸出はBISの管理下(輸出管理規則)にある。

「2」IDSに関して
USPTOに提出する書類に署名(昨今は電子署名)をすることによって、署名した人は規則11.18(b)に基づく証明をしたことになり、即ち、虚偽の内容を記載、或いは、証言した場合などは処罰を受けることになる。さらに規則11.18(b)(2)では署名者に「合理的な調査の義務」を課すことを規定している。この規則はIDSの提出フォームに署名する実務者にも適用され、実務者はIDS提出フォームに列記された先行技術の内容をレビュしたことになる。USPTOは関連性の無い、或いは、低い先行技術文献を闇雲にIDSすることに異を唱えている(審査の遅れにつながる)。

しかし日本及び米国の事務所においても他国のOA又はサーチレポートで引用された文献をIDSする際にそれら文献の内容を実務者がレビュすることなく事務部門で事務作業として対応しているというのが現状であろう。従って、今回のガイダンスの内容を厳格に順守するとなればIDS提出に関わる米国の代理人費用がかなり増大することになるだろう。技術分野によっては米国特許証の表紙から始まり数ページに渡り1000件を優に超える公報番号が列記されているものがある。恐らくそのようなIDSの提出を止めろというPTOの警告ではないだろうか?  

「3」発明者の認定
発明者となりうるのは自然人のみである。発明者(自然人)とはクレームされた発明の着想段階に重要な貢献をした人である。発明の具現化(reduction to practice)のみに関わった人は発明者ではない。詳細は、2024年2月13日付のUSPTO発明者認定に関するガイダンスを参照。

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以下ガイダンスの概要:

2024410日、USPTOAIツール使用に対するガイダンスを官報で公開した。
施行日:2024411日(官報の公開日)

IBackground
近年、AIツールは金融、製造、健康産業、運輸など様々な業界において活用されており、法曹界及びUSPTOとのやり取りにおいても、その活用は日々顕著なものとなってきている。この状況に鑑み法律面及び倫理面での検討事項を考察することは不可欠である。特に、AIによる不完全または不正確な出力は、当事者や実務家によってしっかりと検証されない場合、重要事項の誤報や省略を引き起こすこともある。例えば、AIの支援によって作成された法的意見書や申請書には、架空の引用や引用文が含まれている場合、これらの意見書を提出した弁護士に対して制裁が科される結果となる。

202426日付のガイダンスに引き続き、AI支援による出願調査、出願書類作成、OAに対する応答、IDS提出、USPTOの電子システムへのアクセス、USPTOと出願人とのやり取り諸々に関して、今回さらなるガイダンスを発表する。

II: USPTOの現行の規則及び方針 

A. 誠実且つ善意で対応する義務 [Duty of Candor and Good Faith]
USPTOにおける手続き(特許・商標出願審査、再審査、審判、審判部での各種手続き)に関係する各人はUSPTOに対して誠実さと善意を持って対応する義務(以下、「誠実かつ善意」義務)を負う。規則1.56条に、USPTOに対して誠実かつ善意を持って対応する義務を負うこと、さらに特許性に関わる重要情報を開示する義務があると規定している。 この義務はUSPTO或いは審査官に対する代理業務に限定されるものではなくUSPTOに対する全てのやり取りを含む。

規則1.56(c)は重要情報を開示する義務を負う各個人を規定している。規則1.56(b)USPTOに開示するべき重要情報の意味合いが規定されているが、「誠実かつ善意」義務はそれ以上の範囲に及ぶ。「誠実且つ善意」義務はクレームされた主題に対する当事者或いは出願人の見解にも適用され、さらに、USPTOにおける各種手続き中に発生するエラー(間違い)にも適用される。従って、当該義務を負う者が過去の見解が間違いである、或いは、以前に主張した見解と矛盾することに気づいた場合には、速やかにその記録を正さなければならない。

「誠実かつ善意」義務はUSPTOとのやり取りにおける整合性を担保するという重要な役割を果たし、USPTOが信頼性のある特許を発行することを保証することに繋がる。

「誠実かつ善意」義務は出願審査、再発行特許出願審査、再審査手続き(規則1.555)、補充審査(規則1.555)、さらには審判部における手続き(規則42.11)にも及ぶ。さらには、特許有効期限延長の申請手続きにも及ぶ。

B. 署名及び証明 [Signature Requirement and Corresponding Certifications]
原則としてUSPTOに提出する全ての書類には自然人による署名が必要である。書類に署名をすることで、署名をした人自身が署名したことの証明となる。従って、本来署名をするべき人が他の人に署名をしてもらう(電子書面でのタイプによる署名)ことは許されない。ここで云う署名とは油性ペンで手書きの署名、または、規則2.193(c)の要件を満たす電子署名を意味する。

署名をすることによって、当事者は規則11.18(b)に基づく証明をすることになる規則11.18(b)(1)によると、書面を提示する当事者は、その書面に記載された内容(Statement:主張)の全ては自身の知るうえで真実であると信じる、当該書面に記載された内容の全ては事実に基づき真実であると信じる、当該書面に記載された内容の全てはUSPTOの管轄内における知識に基づくものであり、故意にかつ意図的に何らかの策略、計画、または手段により重要な事実を偽造、隠蔽、または覆い隠し、または故意にかつ意図的に虚偽の、捏造された、または詐欺的な内容または表現を行う者、または虚偽の、捏造された、または詐欺的な内容または記録を含むことを知りながら、虚偽の文書または書類を作成または使用する者は、18 U.S.C. 1001条に定められた処罰及び該当する刑法の対象となる。

規則11.18(b)(1)による証明に加えて規則11.18(b)(2)は合理的な調査の義務(duty of reasonable inquiry)を課す。この義務は、「書類が不適切な目的で提出されていないこと、法的主張が法律によって支持されていること、申し立てやその他の事実の主張が証拠で支持されていること、そして事実の主張の否認が証拠に基づくものであること」を保証する。

C. 情報の守秘義務 [Confidentiality of Information]
規則11.106(a)によって、限られた状況を除いて、実務家”practitioner”: 米国特許弁護士、または、米国Patent Agentを意味する)は顧客の情報に対して守秘義務を負う。AIシステムの支援によって先行技術の調査、或いは、明細書を起案する場合にAIシステムの所有者を介して第3者に、顧客の機密情報が不注意に開示される可能性がある。従って、AIシステムを活用しUSPTOとやり取りをする者はこのリスクを認識しておかねばならない。

D. 外国出願のためのライセンス、及び、輸出規制 [Foreign Filing Licenses and Export Regulations]
実務家は外国出願をする前に、或いは、外国出願を準備又は外国出願審査をするために技術データを外国に輸出するにはUSPTOから外国出願のためのライセンス(foreign filing license)を取得する必要がある。

規則5.11(a)によると米国内で生じた発明に基づき外国出願をする際に、米国第1国出願から6か月を経過していない、或いは、米国第1国出願をしていない場合には、USPTOの長官から許可(ライセンス)を得なければならない。規則5.11(b)において、規則5.11(a)のライセンスとは外国における出願の準備及び出願審査のために技術データを外国に輸出することを許可する・・と規定している。

なお、USPTOからの外国出願を許容するライセンス(foreign filing license)は米国で特許出願を準備するために主題(発明に関わる情報)を外国に輸出することを許可するものではないUSPTOからの当該ライセンスは外国での特許出願を許容するということに限定される。米国特許出願を準備するために外国に主題(技術データ等)を輸出するためには商務省の米国安全保障局(BIS: Bureau of Industry and Security)に許可を申請しなければならないBISは輸出管理規則を発令しており、商品、ソフトウェア、技術データを含む技術の米国から海外への輸出に関し15 CFR 730 – 774に細かく規定している。管理された技術を外国人に開示することも輸出と解釈される(15 CFR 734.13(b))

E. USPTOの電子システムの使用に関する方針 [USPTO Electronic Systems’ Policies]

(略す) 

F. 顧客に対する義務 [Duties Owed to Clients]

(略す)

III: AI活用によるUSPTOとのやり取りに対する現在の規則の運用(適用)

A.  書類作成に活用 [The Use of Computer Tools for Document Drafting]
近年、文書作成に関してAIの生成能力によって人的な関与が大幅に削減される傾向にある。AIのツールによって技術明細書の作成、オフィスアクション(OA)に対する応答、意見書作成・意見書への反論、さらには特許クレームの起案に至るまで可能性が広がってきた。これらAIツールを利用し、文書を作成しUSPTOに提出することを禁止することはない、さらに、利用されたAIツールをUSPTOに開示する義務はない。そのような義務はないが、出願人、米国特許代理人、当事者に対してそれらツールを利用する際に周知しておくべきUSPTOの方針と義務が各局面で適用されるということを再確認することが必用である。 

            1. USPTOに提出する書面とそのやり取り [All Submissions and Corresponding with the USPTO]

            上記したようにUSPTOに提出する殆ど全ての書類には署名が必要である。USPTOに書類を提出することで規則11.18(b)で規定する内容を証明することになる。 この証明を満たすために、当事者は提出書面とその内容を確認しなければならない。AIツールが正確である(信頼できる)という事実に依拠することは合理的な調査をしたことにはならない。従って、書類作成及び編集にAIツールを利用する場合には当事者はその内容を確認し当該規則による証明を満たすことを確認しなければならない。

例えば拒絶理由通知に対する応答にAIシステムを活用する場合に当事者は引用文の正確さ及び反論が法的に支持されることを確認しなければならない。

            全ての特許クレームは自然人による顕著な貢献によるものでなければならない。よって、規則1.56(c)で規定する各人は自然人の顕著な貢献によらないクレームが一つでも存在する際はその旨をUSPTOに開示しなければならない。 

            規則11.18(b)を順守しない場合には問題となる書類を無とし、実務家の行為をUSPTOの登録・規律事務局の局長に通知、或いは、USPTOにおける当該手続きを中止する。

            現時点では当事者はUSPTOに提出する書類の内容を確認し、間違いがある場合には訂正する義務を負うが、AIツールが使われたことをUSPTOに通知するという義務はない。しかし実務家は顧客の依頼する事項を完全に遂行するために必要な法的、且つ、科学技術の知識を備えていなければならない。

            2. 特許に関連する他の例

            前述したようにAIツールを利用したことをUSPTOに通知する必要はない。しかし規則1.56(b)に鑑みAIツールを利用したことが特許性にとって重要と理解される場合にはその事実をUSPTOに伝えなければならない。AI支援による発明の発明者が所定のクレームに対して顕著な貢献をしていない場合には、それ自体が特許性に対する重要な情報である。その例としてはAIシステムの支援により明細書を作成する際に発明者がそもそも着想していなかった他の実施例(alternative embodiment)を生成するような場合がある。AI支援により開発された発明に少なくとも一人の発明者が顕著に貢献したか否かが定かでない場合には、そのような情報はUSPTOに通知するべきである。

            AI支援によって明細書を作成する際には技術面での正確さ及び米国特許法第112条の記載要件を満たすように注意を支払うことが重要である。さらに、AIツールの支援により現実に機能する実施例ではなく架空の実施例を生成する際には、それが現実のものではない旨を読者に理解できるように明示しておくことが必要である。 

            またAI支援によりクレームを起案或いは補正する際には、その行為によって発明者の地位(inventorship)に影響を与えるかもしれない。AIツールが、発明者が着想していなかった他の実施例を生成する際には、自然人の関与が、2024年2月13日付のUSPTO発明者認定に関するガイダンス(Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions, 89 FR 10043: 2024-02-13)で規定する「発明者」のレベルに該当するかを検討することが重要である。Pannu要因を考慮し発明者の認定をすること。

            AIシステムによって、特許性を主張或いは否定するために「客観的な証拠(Graham v John Deere: 最高裁1966年)」を生成することも可能であろう。当該データに基づき宣誓書、嘆願書、或いは、拒絶通知に応答することも可能であろう。しかし実務家はそのようなデータの正確さを確認し、USPTOに提出される書類に不正確な事実及び証拠が含まれないようにしなければならない。

            さらにAIの支援により先行技術を調査し集積の上、USPTOIDS定型フォーム(PTO/SB/08)を自動的に作成することも可能であろう。しかしAIの調査で集積された文献の内容を確認せずにIDSするとその文献は多大な数となり、その中には非類似文献および関連性がないものも多く含まれUSPTOの審査に多大な負荷を掛けることになる。規則1.4(d)では、IDS提出書面に自然人が署名することを要求している。この署名によって、署名をした者は彼らが合理的な調査(IDSフォームとIDSリストの各文献)をし、提出するIDSフォームは規則11.18(b)の要件を満たすと判断したことになる。どこで先行技術が見つかったかは関係なく、先行技術の内容を検討することなくIDSする行為は規則11.18(b)を違反することになる。IDSされる先行技術の内容をレビュし、全く関連性の無いもの、及び、関連性が低く内容が繰返しとなるものを省くことで規則11.18(b)を順守することになる。そのような関連性の無い、或いは、低い繰返し文献をIDSフォームに記録しておくと、不必要に審査を遅らせ、USPTOの審査コストを増大させる原因になるので、そのような行為は不適切な目的のために書類を提出したことと解釈される。

            3者による情報提供(規則1.290)においても同様である。

            規則1.56(c)IDSの義務を負う者が規定されている。この義務を他の人或いはAIツールに移すことはできない。従って、規則1.56(c)に該当する各人はUSPTOに「重要な情報」を開示するということを確約しなければならない。

            3. TMに関連する他の例

            (略す)

B. USPTOに書類を提出
前記したようにUSPTOに提出する殆どの書類には自然人による署名が必用である。この署名はAIツールまたは自然人以外の署名で代用することはできない。署名は規則1.4(d)及び2.193(c)の規定に従うものでなければならない。

但し、例外として、USPTOのシステムを利用して書類を提出する際にはユーザーはUSPTOのアカウントを取得しなければならない。そのようなアカウントを取得できる自然人は個々にUSPTOのウェブサイトの利用に対する条項に同意することが必用である。このアカウントに同意できるのは自然人に限られる。従って、AIシステムはこのUSPTOのアカウントを取得できない。

C. USPTOITシステムにアクセス

(略す)

D. 秘密保持及び国家安全に関する検討事項
AIシステムを活用し先行技術をサーチ、或いは、明細書を作成する際に本願発明の外観(様子)を入力することになる。そのような場合にAIシステムはユーザーの入力情報を記録保持することが可能である。当該AIシステムの所有者は記録された情報を色々な目的で活用することが可能である、AIモデルをさらに訓練する、或いは、第3者に当該データを提供することも可能である。このように第3者に顧客の機密情報が提供されると規則11.106等に規定される顧客情報の守秘義務を違反することになる。

場合によっては国家安全、輸出規制、及び、外国出願ラインセンスの問題にも関連しうる。特に、実務家はAIツールが外国に位置するサーバーを利用している場合があり、このようなAIツールを利用するということは輸出管理規則及び国家安全規則または機密命令に違反することになりうる。さらに、仮にサーバーが米国内に存在していたとしても、サーバー上で実行される特定の行為が米国人以外によって実行されると、その行為は輸出管理規則における「輸出」と解される(15 CFR 734.13)。従って、これらAIツールを使用する前に、実務家はAIツールの利用規約、プライバシーポリシー、およびサイバーセキュリティを理解することが不可欠である。

E. 詐欺行為及び意図的な不正行為
USPTOは、USPTOとの各種手続き、及び、USPTOITシステムにアクセスする行為における如何なる詐欺行為、意図的な不正行為をも許容しない。前述のとおり、違反者は刑法、民事、及び/または行政法の基に処罰の対象となる。

IV: 結論
上記したガイダンスは、AIの支援によりUSPTOとの対応に関する全ての事象を網羅しているわけではない。関係者各位はUSPTOとの対応時に、逐次関連する法律、規則、先例、及び、ガイダンスを確認し、順守すること。

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2024年2月13日付、USPTO発明者認定に関するガイダンスより関連部分抜粋:

米国特許法では、クレーム(複数)の少なくとも一項に貢献した者は発明者として認定されなければならない。発明者を認定する判断基準はクレームされた発明の着想に貢献したか否かである。さらに、クレームされた発明に「重要な貢献(significant contribution)」をした人を発明者として認定する。 

A. 重要な貢献(significant contribution)とは?
発明を創造する過程において複数人による貢献度を評価する際に以下の点は重要であり、以下の状況であっても共同発明者として出願をすることが可能である: 
(1)物理的に同じ場所、あるいは、同時刻に勤務していない;(2)各々が同程度の貢献をしていない;又は、(3)クレームされた全ての発明主題に貢献しているわけではない。しかし、個々の発明者は発明主題に対し重要な貢献をしなければならない。
この判断をする上で、裁判所は以下の要素を考慮する。即ち、(1)発明の着想、或いは、実施化(具現化)に重要な貢献をする;(2)発明全体としてみた場合に、当該貢献の「質(quality)」は価値のないレベル(insignificant)であってはならない;及び、(3)発明者に対して周知の技術思想、あるいは、現状の技術レベルを説明するという以上のことをしなければならない(Pannu要因と称す: Pannu v. Iolab Corp, Fed. Cir. 1998)。

 

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

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