USPTO’s Guidance for Making a Proper
Determination of Obviousness
2024227
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自明性判断に対するUSPTOのガイダンス 
2007年のKSR最高裁判決よりもさらに柔軟な対応を審査官に促している)

Summarized by Tatsuo YABE  2024-03-04

 2024227日、USPTOは自明性判断に対するガイダンスを公開した。何故、このようなガイダンスがいま必要なのか・・と考えると、KSR最高裁判決から15年が経過しておりキャリアの短い審査官、あるいは、異なる技術分野において自明性の判断基準の再確認が必要になったのではないだろうか。

とは言え、このガイダンスではKSR最高裁が判示した自明性の判断基準をさらに緩和したと理解される。KSR判決で最も重要な判示事項は引例同士を組み合わせることに対するTSMテスト(teaching, motivation, suggestion)を硬直的に適用することを否定したということと筆者は理解している。そもそもKSR最高裁の下級審(CAFC)が2つの引例を組み合わせることに対するTSMが欠落しているという理由で特許権者Teleflexのクレームを非自明であると判断した。

本ガイダンスによって以下の判断に対して柔軟な対応をすることを審査官に促している。

1. 引例の開示内容を柔軟に解釈する;
2. 引例同士を組み合わせ、或いは、引例に変更を加えることの理由;
3. 適用する引例が本願発明と同類(analogous)であるか否かの判断;
注意:上記2.に関してはKSR判決においてTSMテストを硬直的に適用することを否定した。 

尚、本ガイダンスで出願人にメリットのあるのはセクションIII-CIV;及びVで以下の通り:
III-C:  自明性判断を柔軟にするといえど判断の根拠となる理由を明示すること;
IV: 自明性判断に関連する全ての証拠(専門家の証言及び2次的考察事項も含む)を考慮すること;
V:  自明性とは事実に基づく法律判断である;即ち、法律判断をする裁判所(CAFC)は本ガイダンスに一切拘束されることはないので今後のCAFC判決で非自明性の主張に有利な判例を蓄積することが有効。

しかし、逆にPTOの審判部で権利を無効にする側(IPR: PGR: 再審査)に立てば本ガイダンスは有効である。

尚、本ガイダンスはパブリックコメントを集めることなく審査便覧に反映される予定である。依って本ガイダンスの内容がそのまま審査官にレクチャーされれば、今後自明性拒絶は当然増えると予想される。今後知財関係者団体からのボイスがどの程度上がるだろうか?また、そのボイスがどこまで届くのか注視する必要がある。(以上筆者)

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以下ガイダンスの概要: 

2024227日、USPTOは自明性判断に対するガイダンスを官報で公開した。
施行日:2024227 

KSR最高裁判決から早15年が経過し、その後のCAFC判決によってKSR判決の法理(自明性の判断において柔軟なアプローチをすること)の意味合いがより明瞭になったと理解される。本ガイダンスは現USPTOの職員(審査官及び審判官)に、KSR最高裁判決とその後のCAFC判決によって構築された判断基準を再確認することを促すものである。本ガイダンスの内容は現判例法に基づき作成され、現在の審査の仕方と整合していると理解されるが、もし現行の審査便覧(MPEP)の関連セクションと不一致な箇所があれば本ガイダンスが優先する。本ガイダンスの内容は追って審査便覧に反映される。 

[I] AIA2011年の法改正)のKSR最高裁判決への影響
KSR(KSR Int’l Co., v. Teleflex)2007年の最高裁判決であり当時は「先発明主義」の時代であった。2011年のAIA(America Invents Act)による法改正により「先発明主義」から「先願主義」に変わった。それに伴い自明性の条文(103)における判断日は「有効出願日」となった。依って、自明性の判断はKSR最高裁判決の法理に基づき、米国特許の有効出願日において判断すること。See MPEP 2158

[II] Graham最高裁判決の法理
KSR判決は、1966年のGraham最高裁判決における自明性判断の基準(法理)を再確認している。Graham最高裁判決による自明性の判断基準は「1」引例の内容を決定する;「2」引例とクレームとの差異を確認する;「3」当業者のレベルを理解する;という手段で自明性を判断する。しかし客観的証拠(市場での成功、長年望まれた必要性;他者の継続的な失敗など)も考慮する。

KSR判決においても、Graham最高裁判決は自明性判断における揺ぎ無い判断基準であると述べた。 

[III] KSR判決の自明性判断に対する柔軟なアプローチをCAFCが継承
KSR判決の重要な点は自明性判断における柔軟なアプローチであり、1点目は引例の内容に対する柔軟な解釈であり、2点目は引例に変更を加える際に必要な理由付けを柔軟にするということである。KSR判決後のCAFCの判決によってこれら2点に関して言及してきた。

A. 引例の内容を柔軟に解釈
KSR最高裁曰く、当業者は通常の想像力を備えており、ロボットではない。さらに当業者は一般常識を持つので引例に明示されている技術課題に対する解決手段に留まらず、それを超えた合理的な示唆であるとか教示内容全てを読み取ることが可能である。

さらに、KSR後のCAFC判決において、引例同士を組み合わせることに関しても当業者の一般常識・技術常識を考慮の上、柔軟な対応が必要であると述べている。Randall事件(2013年:Randall Mfg. v. Rea)において、非自明と判断した審決を破棄し、引例同士を組み合わせること、あるいは、引例に変更を加えることに対して当業者の一般常識、知識、技術常識を考慮し自明性を判断することが重要であるとKSR判決を引用している。Randall事件において審判部は当業者にとって非常に重要な背景技術を考慮せずに判断しており、これらが考慮されていれば引例同士を組み合わせる、あるいは、変更を加えることに対する動機付けがあったことが理解できると述べた。

KSR後のCAFCではさらに適用する引例が本願発明と同類(analogous)であるか否かの判断にも柔軟に対応することを判示してきた。MPEP2141-IIIに引例の解釈に対する柔軟な対応の仕方が記載されている。KSR判決及びその後のCAFC判決に準じて、USPTOの職員(審査官・審判官)は当業者の通常の想像力を考慮して引例の内容を解釈しなければならない。

B. 引例に変更を加える理由付けを柔軟にする
KSR判決後のCAFC判決において、引例の内容を検討する際の柔軟な対応に加えて、クレームが自明であるという理由付けに対しても柔軟な対応が可能であることを判示している。KSR判決に基づき、引例同士を組み合わせる根拠(理由付け)としてTSMテストに制限されることはない。CAFCは引例同士を組み合わせ、あるいは、引例に変更を加えクレームを自明と判断する際に「動機付けmotivation」という文言を使うが、当該用語を硬直的、或いは、形式主義的には使っていない。KSR判決及びその後のCAFCにおいても自明性判断の理由付けとして(引例同士を組み合わせ、あるいは、引例に変更を加えることでクレームは自明である)、市場のニーズ、設計上の動機付け、複数の特許との間で関連する教示内容、業界における必要性、問題意識、及び、当業者の背景技術、想像力、常識なども「動機付け(motivation)」になりうる。

引例同士を組み合わせる、或いは、引例に変更を加えることに対する理由付け(根拠)に関してはMPEP2143KSR判決による)に列記されている。

C. 自明性判断を柔軟にするといえど判断の根拠となる理由を明示すること
KSR判決により自明性を判断するうえで事実認定者の一般常識を無視した硬直な手法は否定された。しかしながら、自明性拒絶をする際にはMPEP2142で記載しているようにクレームされた発明主題が自明である理由を事実(証拠)に基づき明白にすることが重要である。 

特にクレームの特徴のいずれかが引例に欠落しているような場合に自明であるという理由を一般常識(“common sense”)に委ねるだけでは不十分である。KSR最高裁は、事実認定者が合理的な分析結果を提示するという義務を反故にしたわけではない。

本ガイダンスは、USPTOの職員(審査官及び審判官)がクレームを103条の下に自明であると判断する際に、関連する事実に基づきその理由を明確に伝えることの必要性を再確認するものである。

[IV] 自明性判断に関連する全ての証拠を考慮すること:
KSR判決による柔軟な対応で自明であると判断するに際し、関連する全ての証拠を考慮しなければならない。即ち、Graham判決の「1」~「3」に加えて2次的考察事項(客観的証拠)も考慮されなければならない。USPTOの職員(審査官及び審判官)は自明性と非自明性に関する全ての証拠を比較衡量し、その結果、「証拠の優越性」という挙証基準に鑑み自明と判断される場合にはクレームは特許を受けることはできない。

非自明であると結論づける専門家の証言は、事実に裏付けなき場合には意味をなさないであろう。また、審査或いは再審査において客観的証拠は宣誓書の形で提出されなければならない、そのような証拠が必要な場合に弁護士の反論のみでは証拠の代わりにはならない。37 CFR 1.132; MPEP 716.01(c); MPEP2145-I

[V] 自明性判断は事実認定に基づく法律判断:
法的に適切な自明性の拒絶をするには、事実を特定し、当業者にとって自明であったであろうという結論に至った理由を明白に示さなければならない。自明性とは事実に基づく法律判断である。Henny Peny Corp.  v. Frymaster LLC (Fed. Cir. 2019)

USPTOの職員(審査官又は審判官)は自明性の結論に至った理由を説明しなければならない。MPEP 2142-II 根拠となる事実を明示した後に、103条に基づく自明性拒絶をサポートする理由を説明しなければならない。MPEP 2142 

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References:

 

要旨:特許しようとする発明と同一のものが102条で規定する引例に開示されていなくとも、その①差異が②当業者にとって、③有効出願日の前において、④発明全体としてみて⑤自明と判断される場合には特許は付与されない。

 

MPEP2143 (After KSR)

審査官が自明性拒絶をするときの根拠として妥当な理由は以下を含むNot Exclusive);

EXEMPLARY RATIONALES
Exemplary rationales that may support a conclusion of obviousness include:

(A) 予想される効果(結果)を得るために、周知の方法に基づき先行技術の要素を組み合わせる;

A. Combining Prior Art Elements According to Known Methods To Yield Predictable Results

(B) 予想される効果(結果)を得るために、ある周知の要素を他の要素に単に置換すること;

B. Simple Substitution of One Known Element for Another To Obtain Predictable Results

(C) 類似した装置(方法又は製品)を改良するために周知の技術を周知の手法で使用する場合;

C. Use of Known Technique To Improve Similar Devices (Methods, or Products) in the Same Way

(D) 予想される効果(結果)を得るために、改良の準備が整っている周知の装置(方法、又は、製品)に、既知の技術を適用すること;

D. Applying a Known Technique to a Known Device (Method, or Product) Ready for Improvement To Yield Predictable Results

(E) Obvious to try”― 妥当な成功の可能性をもって、有限数の特定された予想される解決策から選択する場合;

E. “Obvious To Try” – Choosing From a Finite Number of Identified, Predictable Solutions, With a Reasonable Expectation of Success

(F) ある分野における周知の業は、当業者にとってその代替案(変更)が予測可能な場合には、設計上の必要性(動機付け)、或いは、市場ニーズ(市場を動かす力)に基づいて、同分野、或いは、違う分野においてそれを変更し使用することを助長する;

F. Known Work in One Field of Endeavor May Prompt Variations of It for Use in Either the Same Field or a Different One Based on Design Incentives or Other Market Forces if the Variations Are Predictable to One of Ordinary Skill in the Art

(G) 先行技術を変更し、或いは、先行技術の教示内容を組み合わせてクレームされた発明に到達するように当業者を導くような教示・示唆・動機付け(TSM)が先行技術にある場合;

G. Some Teaching, Suggestion, or Motivation in the Prior Art That Would Have Led One of Ordinary Skill To Modify the Prior Art Reference or To Combine Prior Art Reference Teachings To Arrive at the Claimed Invention

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(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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