USPTO’s Guidelines for Enablement Requirement

2024110

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米国特許庁はAmgen最高裁判決後もWands要因を考慮の上
実施可能要件を判断することを官報で述べた。

Summarized by Tatsuo YABE  2024-01-15

2024110日、米国特許庁は20235月の合衆国最高裁判決(Amgen v Sanofi [*1])に鑑み「実施可能要件(米国特許法第112(a)項)[*2]」の審査に対するガイドラインを公開した。

Amgen判決によると、「実施可能要件」は米国特許法第112(a)項で規定された明細書に対する要件であり、明細書の開示によって、クレームされた発明の全域full scope of the claimed invention)を当業者が不当に多大な実験をすることなく実施可能である(製造・使用できる)ことを要求する。尚、米国特許庁は、不当に多大な実験を要するか否かはWands要因[*4]を考慮し判断することを再確認し、全ての技術分野においてAmgen v Sanofi判決の法理に基づき判断することを周知徹底した。

上記審査の基準は、Amgen判決前のMPEP 2164.01; 2164.05; 2164.06(a); 2164.08に記載されている通りでPre-Amgenにおける審査の判断基準を変えるものではない。しかしAmgen判決後、特に予見不能な技術分野において、明細書の実施例に対して広すぎるクレーム(特に、バイオ関係でSpeciesではなく機能表現しGenusを権利範囲とする広範なクレーム[*9])は実施可能要件を満たさないという理由で無効になっている。

依って、Amgen判決後は実務者としては従属クレームでSpecies (特定の実施例)、及び、複数のSpecies (複数の実施例)を包括する特徴を規定しておくことが重要と考える。さらには、クレームの構成要素をMPF形式で規定し112(f)項の適用を受けることによって、少なくとも明細書に開示された複数の実施例(Species)とそれらの均等物(equivalents thereof)を権利範囲とすることも妥当な対応策と考える。(以上筆者)

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2024110日、米国特許庁は昨年5月の合衆国最高裁判決(Amgen v Sanofi [*1])に鑑み「実施可能要件(米国特許法第112(a)項)[*2]」の審査に対するガイドラインを公開した。

基本的にはPre-Amgenにおける審査の判断基準を変えるものではない。但し、審査部門及び審判部(審判事件及び付与後手続き)において「実施可能要件」の判断に関しては全ての技術分野においてAmgen v Sanofi判決の法理論に基づき実施することを周知徹底した。該当する審査便覧の箇所(MPEP2141.01[*3])を見直し必要に応じてアップデートの予定。

「実施可能要件」は米国特許法第112(a)項に規定された明細書の記載要件であり、クレームされた発明を当業者が製造且つ使用できるように明細書に記述されていなければならない。最高裁へ上告前のCAFCの判決において、Wands要因[*4]に基づきAmgen特許のクレームされた発明の全域に亘ってfull scope of the claimed invention)当業者がクレームされた発明を実施可能となるように明細書の記述が十分であるかが争点となった。CAFCAmgenの特許の明細書はクレームされた発明の全域に渡って当業者が製造・使用できるように説明していないという理由(実施可能要件違反)でクレームを無効と判断した。

最高裁はCAFCの判決を満場一致で認容した。本判決の根拠として最高裁は自身の実施可能要件に関する過去の判決(1854年のMorse事件[*5]1895年のIncandescent Lamp事件[*6]1928年のPerkins Glue事件[*7])を引用しこれら判決の法理論をAmgenのバイオの技術に適用した。Amgenの明細書は、26通りの抗体(Species)を開示しており、クレームはPCSK9に結合し、当該PCSK9は肝細胞に発現するLDL受容体と結合することを阻止する抗体のクラス全体(Genusに権利を求めている。しかしこのクラスに属するアミノ酸の配列は26種類を遥かに超える莫大な数である。Amgenは明細書の開示を参酌することで当業者であればクレームされた機能(結合し阻止する)を満たす他のアミノ酸配列を製造・使用できると主張しているが、それは現実的には当業者が一から試行錯誤で実験を繰り返すことが必要となる。従って、Amgenの明細書の記述は、当該クレームの権利範囲全域に亘って当業者が発明を実施できるように記述されていないと判断した。

最高裁判決文の中でWands要因(In re Wands事件)は引用されなかったが、次のように述べた。

明細書は常にクレームされたクラスに含まれるすべての実施形態を製造且つ使用可能に詳述しなければならないという意味ではない。例えば、明細書にクレームされたクラスの全体に共通する一般的な性質、「特定の目的に対する特定の適合性」と理解される・・・を説明していれば明細書の開示は十分と理解されるであろう。さらには、明細書の説明を基に当業者が発明を実施するのに幾分かの応用、或いは、実験を必要とするからということで当該明細書の開示は不十分であるとは判断されない。Minerals Separation事件[*8]でも判示したように、実施可能要件を満たす明細書の開示のレベルとは、当業者が発明を実施するのに合理的な回数実験(a reasonable amount of experimentation)を必要とするレベルでも良い。ここで言う「合理的な(reasonable)」とは技術分野及び従来技術によって事案毎に判断される。

従って、発明を実施するのに要する実験の労力が合理的reasonable)であるか否かを判断するのにWands要因を考慮することは重要であり、Amgen最高裁判決後のCAFCの判決(Baxalta判決[*9]Medytox判決[*10]Starrett判決[*11])においても活用されている。

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References:

[*1] Amgen v. Sanofi (2023年最高裁判決)

[*2] 米国特許第112条(a)項
The specification shall contain written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or which it is most nearly connected, to make and use the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor of carrying out his invention.

① 発明及びその発明を製造し使用する仕方 (manner)や方法(process)の開示(Written Description)を、② その発明の属する技術分野又は最も近い関係にある当業者であれば誰でもその発明を製造し、使用できる(Enable)ように、充分に明瞭、簡潔かつ正確な用語で明細書を記載しなければならない、さらに、③ 明細書には発明を成した発明者が最良と考える実施形態(Best Mode)を記載しなければならない。

[*3] 審査便覧2164.01

[*4] Wands要因 -- In re Wands (Fed. Cir. 1988)
These factors include, but are not limited to:

     (A) The breadth of the claims;
     (B) The nature of the invention;
     (C) The state of the prior art;
     (D) The level of one of ordinary skill;
     (E) The level of predictability in the art;
     (F) The amount of direction provided by the inventor;
     (G) The existence of working examples; and
     (H) The quantity of experimentation needed to make or use the invention based on the content of the disclosure.  

[*5] Morse事件O’Reilly v. Morse: 最高裁1854
Morse特許にはクレームが8項あり、クレーム1~7はMorse氏が発明した電信機の実施例に基づく内容で権利が認められたが、クレーム8は電気通信システム全体を包括する内容であり、当該クレーム8の権利範囲は広すぎて、法の下に許容できるものでないと最高裁が判断した。即ち、Morse特許の当該クレーム8は電気通信システムの全体を請求していたが明細書はそのシステムに入る全てを実施可能にする記載はなかった。最高裁曰く、もしクレーム8に権利を認めるのであれば明細書自身の意味がなくなる。

[*6] Incandescent Lamp事件Sawyer v. Edison: 最高裁1895
Sawyer氏とAlbon氏(発明者)はカーボン紙を導電体(フィラメント)とする白熱灯を発明した。発明者は特許のクレームにおいて、導電体を当該カーボン紙に限定するのではなく、繊維及び織物素材の全てを含むようにクレームし特許を取得した[US Patent No. 205,144: Patented June 18, 1878]Sawyer/Albonは、竹を導電体とするランプを発明したトーマス・エジソンを特許侵害として訴えた。最高裁において、もし当該特許明細書において広くクレームされた繊維素材及び織物素材の共通する性質を特定し、白熱灯の導電材として適応される特異性を説明していれば、当該特許は裁判でも有効と判断されたかもしれない、しかし、明細書にそのような記載はないという理由で権利は無効となった。事実、USP144に開示されたカーボン紙も導電体として実用性には乏しく(直ぐに燃え尽きるので市場にはでなかった)、殆どの繊維・織物素材も白熱灯の導電体としてはうまく機能しなかった。唯一、痛ましいほどの努力と苦労の末に京都八万男山に生育していた竹が最良の素材であることをエジソンのチームが発見し、その後その竹を栽培する特定の農家より米国に輸入するに至った。エジソンも後に特許を取得した[US Patent No. 223,898: Patented Jan. 27, 1880]

[*7] Holland Furniture事件Holland Furniture v. Perkins Glue: 最高裁1928
当時ベニヤ板の製造過程において動物性の糊(膠:にかわ)を使用するのが良いと理解されていた。その代替品としてPerkins Glue社は当該動物性の糊と同程度の機能性を持つ特定のでんぷん糊を開発したが、同社は当該特定のでんぷん糊ではなく全てのでんぷん糊を含むようにクレームした。明細書には当該でんぷん糊に対する物性或いは化学成分を説明するのではなく、その使用方法及び機能を説明していた。最高裁は、当該クレームは実施可能要件を満たさないので無効と判断した。

[*8] Mineral Separation v. Hyde
The standard for determining whether the specification meets the enablement requirement was cast in the Supreme Court decision of Minerals Separation Ltd. v. Hyde, 242 U.S. 261, 270 (1916) which postured the question: is the experimentation needed to practice the invention undue or unreasonable? 

[*9] Baxalta判決Baxalta v. Genentech: Fed. Cir. 2023-09
Amgen判決での無効理由(実施可能要件違反)がそのまま適用された。即ち、クレームで、抗体を特定するのではなく、抗体が何をするのか(機能)を規定しているにすぎない。
1. An isolated antibody or antibody fragment thereof that binds Factor IX or Factor IXa and increases the procoagulant activity of Factor IXa. [US Patent No. 7,033,590]
血友病患者(血液が凝固し難い)の多くはは血液中のFactor IX (Ixa)の機能障害によるものでFactor VIIIを静脈内に投与するという治療がなされていた。しかし血友病患者の20%~30%はFactor VIIIを阻害する抗体を体内で生成するためVIII静脈注射は有効ではなかった。そこで開発されたのがFactor IX/Ixaに結合しFactor Ixaの働きを活発にする抗体であり、BaxaltaUS590特許クレームでその抗体が何なのか(Species)ではなく、機能によって規定した。

[*10] Medytox判決Medytox, Inc. v. Galderma S.A.: Fed. Cir. 2023-06
US10,143,728特許は、動物性タンパク質を含まないボツリヌス毒素の組成物を使って額の縦皺や目尻の皺を治療する方法に関する。クレームにおいて50%以上の肯定的な反応率(即ち100%を含む)が規定されていたが明細書では50%を超えるは僅か3例であり62%の肯定的な反応がMAXであった。CAFCWands要因を考慮の上で、当業者が明細書を参酌しても不当に多大な実験(undue experimentation)を繰り返すことなく62%以上の肯定的な反応率を得ることはできないと判断した。従って明細書の開示は問題となるクレームの全域に渡って当業者が発明を実施するには不十分であり、実施可能要件を満たさない。 

[*11] Starrett判決In re William Henry Starrett: Fed. Cir. 2023-06
US15/299,124出願は、人間の感覚の拡張として、テレパシー通信のための拡張されたテレパシーデータを維持する方法、システム、メディア、および機械に関する。問題となるクレームには47か所に”or”表現があり、即ち、当該クレームは2**47=140兆を超える実施形態を含むことになる。審査官はWands要因を考慮し実施可能要件違反という理由でクレームを拒絶した。CAFCAmgen最高裁判決を引用するとともにWands要因を再度考慮し審査官の判断を支持した。

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