WSOU Investments v. Google LLC

20231019
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クレームの”a processor”MPF解釈される場合とそうでない場合があるので要注意。
MPF解釈されることを想定し明細書で対応するアルゴリズムを開示しておくこと!
OPINION by Stoll, Lourie and Linn (Circuit Judges) 

Summarized by Tatsuo YABE  2024-01-02

本事案はクレーム用語のMPF解釈(112(f)項の適用)に関する。特にクレーム用語で”processor”MPF解釈を適用する場合とそうでない場合があることが明示された判決である。米国出願実務においてクレームの構成要素を“processor”と記載すると(殆どの場合)当該構成要素”processor”にはMPF解釈は適用されない。その理由はMPEP2181で記載されているように3Prongテストの(A)、即ち、means乃至はmeansの代替用語(generic placeholder)を使用していないからである。MPEP2181において、Generic Placeholderの例としては以下のようなものと説明されている:
“mechanism for,” “module for,” “device for,” “unit for,” “component for,” “element for,” “member for,” “apparatus for,” “machine for,” or “system for.”


即ち、実務では、processing meansとか processing unitと記載するとMPF解釈が適用される可能性が高くなるので”processor”と記載するのである。

しかし3ProngテストA)にはGeneric Placeholderとはa nonce term又はa non-structural term”と規定されている(以下):
(A) the claim limitation uses the term “means” or “step” or a term used as a substitute for “means” that is a generic placeholder (also called a nonce term or a non-structural term having no specific structural meaning) for performing the claimed function;

Nonce termとは、その場限りの用語(通常の辞書的な意味合い)、または、それ自体で構造を意味しない用語(MPEP2181)である。MPEP2181においてNonce Termという用語は上記(A)で初出でありそれ以外の箇所に一切説明はない。本事案において、045特許クレーム1の“Processor”という用語には明細書を参酌し特定の構造を意味する用語と理解できないと地裁及びCAFCは判断した。しかし825特許クレーム1”processor”という用語には明細書を参酌し十分な構造であるとCAFCは判断した。この判断に至った理由を本判決文から理解するのは難しい。045特許の明細書においてprocessorという用語は105か所で説明されており、例えば以下の段落においても十分な構造として理解できるのではないかと考える:

[0056] FIG. 2 illustrates an apparatus 2 comprising a camera sensor 10 and a processor 4 as previously described. In this example, processor 4 is a local processor 22 that is housed in a hardware module 20 along with the camera sensor 10.

上記に鑑みて筆者は少なくともMPEP2181の改訂、特に3Prongテスト(A)で言う「nonce term」に対するより詳細な説明が必要と考える。実務的な側面では”processor”が仮にMPF解釈されたとしてもそれに対応する構造(この場合にはアルゴリズム:2015年のWilliamson大法廷判決)が明細書で十分に開示されていることが必要である。何故なら、MPF解釈されることは仕方ないとしても(特にソフトウェア関連の発明で機能表現しかできない構成要素の場合)、機能を実現する構造(アルゴリズム)が明細書に開示されていない場合にはクレームは不明瞭と判断され無効となる。(以上筆者)

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■ 特許権者:WSOU 原特許の権利者はNokia
■ 控訴人:WSOU
■ 被疑侵害者:Google
■ 関連特許:USP 8,965,045: USP 9,335,825(以下045特許:825特許)
045特許は画像追跡及び撮像に関し、825特許はジェスチャーによってデバイスを制御することに関する。

■ 事件の背景:
テキサス州西部地区連邦地裁において、問題となった045特許のクレーム及び825特許のクレームはそれぞれ112(f)項解釈が適用され、対応する構造(corresponding structures)が明細書の記載では不明瞭であるという理由で問題となったクレームは112(b)項の要件(明瞭性の要件)違反で無効と判断された。同判決を不服としWSOUCAFCに控訴し、本判決に至った。

■ 争点:
* 045特許のクレーム1の構成要素(“Processor”)には112(f)項解釈が適用されるか?
* 825特許のクレーム16” at least one memory including computer program code, where the at least one memory and the computer program code are configure, with the at least one processor, to cause the apparatus to at least:”112(f)項解釈が適用されるか?
** 112(f)項解釈が適用される場合にそれぞれの構成要素に対応する構造が明細書に開示されているか?

■ 地裁の判断:
地裁は以下に示す045特許クレーム1processor及び825特許のat least one memory…, to cause the apparatus toという構成要素を112(f)項の下に解釈し、機能を実現するための構造(corresponding structure to perform the claimed function)が明細書に開示されていないという理由で112(b)項違反とし045特許及び825特許の問題となったクレームを無効と判断した。

045特許クレーム1
__An apparatus comprising:
__a viewfinder display configured to display a first and second picture;
__a processor configured to move automatically a sub-set of pixels defining a target captured image that corresponds to the first picture, within a larger set of available pixels in a direction of an edge of the target captured image when a defined area of interest within the target captured image approaches the edge of the target captured image,
__said processor configured to provide a pre-emptive user output when the sub-set of pixels approaches an edge of the set of available pixels, and the second picture corresponds to the larger set of available pixels, wherein the viewfinder display is configured to display the first picture within the second picture.

825特許クレーム1
__An apparatus comprising:
__at least one processor; and
__at least one memory including computer program code, where the at least one memory and the computer program code are configured, with the at least one processor, to cause the apparatus to at least:
__detect that an application is being started on the apparatus; in response to the application being started on the apparatus, turn on a continuous wave doppler radar at the apparatus and transmit radio signals that comprise the continuous wave doppler radar, wherein …

(略す)…continuous wave variation caused by the gesture by the human body of the user; associate the detected predetermined time varying modulation with a predetermined user input command; and based on the associated predetermined user input command control at least one operation of the application on the apparatus.

■ CAFCの判断
「1」適用する判例法 (Governing Laws)
内部証拠を基礎とする地裁のクレーム解釈及び最終的な解釈は法律問題であり地裁の判断には一切拘束されない(de novo基準で解釈)する。 但し、クレーム解釈に際し、外部証拠により事実認定した地裁の判断に対しては明らかな間違いがないかという(clear error 基準)基準で判断する。Williamson v. Citrix Online (Fed. Cir. En banc: 2015)Teva Pharm. USA v. Sandoz (US Sup Ct. 2015)

クレームの構成要素に対し112(f)項の適用を検討する場合には2段階のステップで判断する。まずはクレームの構成要素がMPFの形式で記載されているか(当業者にとって十分に構造的な意味であるか否か)を判断する。当業者にとって十分に構造的な意味をなさない場合(即ちMPF解釈)には当該構成要素の機能を実現するための構造(corresponding structure)が明細書に開示されているか否かを判断する。

045特許の問題となったクレームの構成要素、及び、825特許の問題となった構成要素の何れにも”means”という用語が使用されていないので問題となった構成要素には112(f)項解釈(MPF解釈)が適用されないという反駁可能な推定が働く。Dyfan, LLC v. Target Corp. (Fed. Cir. 2022: citing Williamson)

当該推定は、問題となるクレームの構成要素が十分な構造を規定していない、あるいは、十分な構造ではなく機能のみを規定していることを挙証することで、反駁可能である。Williamson

「2」045特許クレーム1”processor”
両者が合意するように当該構成要素にはmeansという用語が使用されていないのでMPF解釈を適用しないという推定が働く。Google045特許の明細書を参酌しても”processor”がどのような構造であるか(ハードウェア、ソフトウェア、それ以外のものなのか)が不明であると主張した。地裁もGoogleに同意し、当該用語”processor”は単に機能的な表現である(データを操作する何か”anything”を一般的に意味する)と判断した。

CAFCは地裁の判断に同意する。”processor(プロセッサー)という用語は単に一時的に使われたものではなく、場合によっては十分な構造を意味することもある。しかしCAFCの過去の判例にあるように、”processor”112(f)項を適用して解釈するか否かは特許の特定の内容(内部証拠及び外部証拠)による。”processor”とクレームで記載すれば112(f)項解釈を回避できるという明確な規則はない

本事案においてクレームの”processor”という構成要素はデータを操作する何か(anything)を一般的に意味すると解釈される。明細書によると、”processor”はソフト、ハードウェア、或いは、その組み合わせで機能を実現するものと理解される。従って、”processor”は一般的、及び、機能的に表現されているので当業者が十分な構造であると理解できない。

上記のように”processor”112(f)項解釈を適用し解釈する。次にクレームされた機能を実現する十分なアルゴリズムが明細書に開示されているか否かを検討する。この点に関してWSOUは地裁において意見を述べていないのでCAFCはこの点に関して検討しない。Cordis Corp. v. Bos. Sci. Corp. (Fed. Cir. 2009)

従って045特許クレーム1”processor”には112(f)項解釈が適用され、明細書には対応する構造が開示されていないのでクレーム1及びその従属クレームは不明瞭であり112(b)項の下に無効である。

「3」825特許クレーム1の以下の構成要素
at least one memory including computer program code, where the at least one memory and the computer program code are configured, with the at least one processor, to cause the apparatus to at least

上記構成要素にはmeansという用語を使用していないのでMPF解釈を適用しないという推定が働く。Googleは上記クレームの構成の”memory”; “computer program code”; “processor”は当業者に対して構造的な意味を与えるものではないとし当該推定に対して反駁した。地裁もGoogleに同意した。CAFC825特許クレーム1”memory”; “computer program code”; “processor”はそれぞれ当業者にとって十分に構造的な意味合いを与えるものと理解する。まず、クレーム1の文言を解釈すると構造的な意味合いであると理解される。即ち、”at least one memory including computer program code” which is configured “with the at least one processor” to perform various tasks(少なくとも一つのメモリーにはプログラムコードが記憶されており、少なくとも一つのプロセッサーと協働することで幾つかのタスクを処理するように構成されている)と解釈される。

次に明細書を参酌すると、プログラムコードがメモリーに記録されており、プロセッサー上で実行されると理解される。問題となる構成要素は”computer program code”; “memory”; “processor”という複数の要素により規定されており、個々には一般的で広い意味合いであるがそれらの組み合わせで規定しているので当業者は個々の構成要素の構造及びそれらの関連性を理解することができる。

CAFCの過去の判例において”computer program code”が、それに意図された目的を規定した他の構成要素との組み合わせによって、当業者に明瞭な構造であることを理解させると判断した。Zeroclick, LLC v. Apple Inc. (Fed. Cir. 2018)

memory”に対しては112(f)項の解釈を適用しない(Googleは反論なし)。尚、明細書には”memory”はコンピュータープログラムを記憶する媒体であって市場で入手可能な周知の構造でCD-ROM或いはDVDのような記憶媒体であると説明されている。従って”memory”112(f)項解釈を適用しない。

045特許クレーム1”processor”とは異なり、825特許クレーム1“processor””program code”を実行するハードウェアであると解釈される。明細書によると”processor”は制御部及びコンピューターと同義語であり825 特許の col. 5, ll. 50–58に以下のように記載されているので当業者にとって十分な構造と理解される:
“should be understood to encompass not only computers having different architectures such as single/multi-processor architectures and sequential (Von Neumann)/parallel architectures but also specialized circuits such as field-programmable gate arrays (FPGA), application specific circuits (ASIC), signal processing devices and other devices.”

上記に鑑み825特許クレーム1の問題となる構成要素に112(f)項を適用しない。従って、地裁に再考するべく差し戻す。

「4」結論:
045特許に対する地裁の判断を認容する。825特許に対する地裁の判断は破棄差戻とする。

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MPEP2181
3 Prong Test:
Accordingly, examiners will apply 35 U.S.C. 112(f) to a claim limitation if it meets the following 3-prong analysis:

(A) the claim limitation uses the term “means” or “step” or a term used as a substitute for “means” that is a generic placeholder (also called a nonce term or a non-structural term having no specific structural meaning) for performing the claimed function;

(B) the term “means” or “step” or the generic placeholder is modified by functional language, typically, but not always linked by the transition word “for” (e.g., “means for”) or another linking word or phrase, such as "configured to" or "so that"; and

(C) the term “means” or “step” or the generic placeholder is not modified by sufficient structure, material, or acts for performing the claimed function.

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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