ABS Global v. CYTONOME
20231019
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クレームの移行句(transitional phrase)に「comprising」を使いクレーム本体で「a SSS」と記載するとat least one SSS(複数を含む)を意味する。その解釈を避けたい場合には明細書で単数のSSSであることを明示する必要がある。

 OPINION by Reyna, joined by Taranto and Stalk (Circuit Judges)

Summarized by Tatsuo YABE  2023-11-07

本事案において、そもそも権利者Cytonomeは、公知文献(S引例)との差異を主張するために、問題となったクレームの構成要素がSingular(単数)であるという解釈を望んだ。 Cytonomeの特許明細書及び図面には問題となる構成要素が単一である実施例しか開示されていないという事実に基づき審判部ではSingular(単数)の解釈が認められクレームの有効性は維持された。

しかし、CAFCで審判部のクレーム解釈が否定された。即ち、クレームの移行句(transitional phrase)に「comprising」を使用し本体部(body)において冠詞(“a”/”an”)に続く構成要素を規定する場合、明細書で対応する構成要素が複数を含むことを否定するという明瞭な開示がない場合には、at least one(少なくとも一つ)を意味すると判示された。 さらに、極めつけは本件特許の明細書の末尾に以下の但し書き(*)があったことで、”a”/”an”に続く構成要素が複数であることを除外し解釈するのがより困難となった。

Moreover, for the purposes of the present disclosure, the term “a” or “an” entity refers to one or more of that entity. As such, the terms “a” or “an”, “one or more” and “at least one” can be used interchangeably herein.

(*)出願人が真に意図して書いたというよりも提携挿入フレーズの可能性が高い(米国ではこのようなフレーズをboiler plate languageと云う)。

しかしCAFCのクレーム解釈(複数を含む)によると問題となった特許の明細書及び図面に「複数の構成要素」に対応する実施例がないので米国特許法112(a)項の「記述要件」違反、或いは、「実施可能要件」違反という理由で無効にもなりうる。 但し、権利者CytonomeS引例との差異を明瞭にするために再審査によって「複数の解釈」を除外するようにクレームを減縮補正することで権利を維持することは可能と考える。

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 特許権者:CYTONOME/ST, LLC,
 被疑侵害者:ABS Global, Inc., Genus PLC
 関連特許:USP 10,583,439  (以下439特許)
出願日:2014314 (Provisional Filed on 2013-03-14)
特許日:2020310
 特許発明の概要:
当該特許はサンプル流(S)を細管(小さな流路)に通過させることで当該流体に含まれる粒子(セル、分子等)を分析する装置に関する。所定の状況下において第1流体を細管に流し、その後、第2流体をその細管に流すと層流となる。シースフロー(Sheath flow: SF)とは層流の一例であり、粒子を含有したサンプル流の層の側面に当接するような流体であり、サンプル流を圧迫、或いは、隔離することでサンプル流内の粒子を所定位置に正確に維持し当該粒子を正確に分析することを可能とする。 サンプル流に対するシースフローの速度を調整することでサンプル流が圧縮されたり、早すぎると、サンプル流が分離する。

以下に代表図を示す(図3A

 代表的なクレーム:

1. A microfluidic assembly for use with a particle processing instrument, the microfluidic assembly comprising:

a substrate (21); and

a flow channel (30) formed in the substrate, the flow channel having:

an inlet configured to receive a sample stream (S);
a fluid focusing region (430) configured to focus the sample stream, the fluid focusing region having a lateral fluid focusing feature (420), a first vertical fluid focusing feature, and a second vertical fluid focusing feature, the lateral, the first vertical, and the second vertical fluid focusing features provided at different longitudinal locations along the flow channel, wherein a bottom surface of the flow channel lies in a first plane upstream of the first and second vertical fluid focusing features and the bottom surface of the flow channel shifts vertically upward to lie in a second plane downstream of the first and second vertical focusing features; and
an inspection region at least partially downstream of the fluid focusing region.

2. The microfluidic assembly of claim 1, wherein the lateral fluid focusing feature (420 is configured to introduce focusing fluid (SF) into the flow channel (30) symmetrically with respect to a centerline of the sample stream (S).

■事件の概要:
202010月、ABS439特許に対してIPRを申請し少なくともクレーム1, 2, 6, 8-93件の先行技術によって新規性欠如或いは自明であると主張した。特に、439特許のクレーム1,2Simonnetによって新規性無と主張した。審判部はABSの無効の主張は認められないとし439特許のクレームは無効ではないと審決を下した。同審決を不服としABSCAFCに控訴した。

 審判部の判断:
クレーム1”a sample stream (S)“は単一(singular)と解釈するべきであり、Simonnetにはa single streamが開示されていないと判断した。審判部は特にSimonnetの図3aと図3bを参酌し、顕微鏡写真で見るとサンプル流(その断面)は二分していると判断しクレーム1の単一のサンプル流という要件を開示していないと判断した。従って、クレーム1とクレーム2はSimonnetに対して新規であると判断した。

 CAFCの判断
本事案においてクレームを解釈するにあたり内部証拠が決定的である。審判部はクレーム1において流路集中領域は単一の連続したサンプル流のみ(複数の物を含まない)で構成されると解釈した。

明細書の記載により審判部の解釈は正しくない。問題となるクレームの文言、”the sample stream””the”はその前に規定されたa sample streamを意味する。このa sample streamという用語が単一のみ、或いは、複数を含みうる表現なのかが本事案の解決のカギとなる。以下の理由によってa sample streamが複数を含みうると解釈される:

第1:クレーム1の移行句(Transitional phrase)はcomprisingであり所謂Open Endであることを意味する。即ち、クレームの本体(body)において、名詞で表現される構成要素の前に“a”又は“an”という冠詞がついている場合には、明白な否定が無い場合には、当該名詞に対応する構成要素は一つ或いはそれ以上を含むと解釈される。

過去に蓄積された判例によると、上記の原則(一般規則)の例外は、クレーム、明細書、或いは、経過書類において当該規則を適用しないことが理解できる場合である。

第2:問題となる特許の明細書(コラム18: 27-30)に、本明細書においては”a”又は”an””one or more(一つ以上)及び”at least one(少なくとも一つ)という用語と同じ意味で使われると注記している。まさに審判部の解釈を否定する記載である。出願人は辞書編集人として言葉(クレームの用語)を明細書で定義できるのであり、この明細書の記載によって出願人は用語の意味合いを規定していると理解される。

3:明細書及び経過書類を参酌しても問題となるクレーム1の文言が単一のものでなければならないとする根拠がない。権利者Cytonomeはもし当該用語が複数であれば発明が実施できないという理由を説明していない。

上記理由によって439特許のクレーム1Simonnetによって新規ではない。

審決を破棄・差戻し

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Reference:

112(a)
The specification shall contain written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or which it is most nearly connected, to make and use the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor of carrying out his invention.

発明及びその発明を製造し使用する仕方 (manner)や方法(process)開示(Written Description記述要件)を、その発明の属する技術分野又は最も近い関係にある当業者であれば誰でもその発明を製造し、使用することができる(Enable実施可能要件)ように、充分に明瞭、簡潔かつ正確な用語で明細書を記載しなければならない、さらに、明細書には発明を成した発明者が最良と考える実施形態(Best Mode)を記載しなければならない。

Ariad Pharma v. Eli Lilly (2010Fed. Cir. 大法廷判決)
9:2の大法廷判決112(a)項の「記述要件」は「実施可能要件」とは識別される要件であり、クレームしている(範囲に相応しい:筆者追加)発明を発明者が出願時所有していたことを当業者が理解できるように記載しなければならないとした。

Amgen v. Sanofi (2023年の最高裁判決)
クレームされた発明の全域に渡って実施可能要件を満たす必要があることを再確認した。

Mineral Separation v. Hyde (1916年の最高裁判決)
実施可能要件に対する判断基準は、1916年の最高裁判決(Mineral Separation v. Hyde)が今も有効な判例法である。即ち、当業者がクレームされた発明を実施するのに「不当に大変な実験(undue experimentation)」を必要としないようにクレームされた発明明細書具体的に開示されていることを要求している。

In re Wands (Fed. Cir. 1988)
尚、不当に大変な実験(undue experimentation)」を要するか否かは以下の要因を考慮し判断する:Wandsテストと言う。

These factors include, but are not limited to:

     (A) The breadth of the claims;
     (B) The nature of the invention;
     (C) The state of the prior art;
     (D) The level of one of ordinary skill;
     (E) The level of predictability in the art;
     (F) The amount of direction provided by the inventor;
     (G) The existence of working examples; and
     (H) The quantity of experimentation needed to make or use the invention based on the content of the disclosure.  

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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