ChromaDex (Trustee of Daemouth College) v. Elysin Health

2023213

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クレームは自然界に存在するもの(牛のミルクに含まれるNR)を単離しただけで自然界に存在するものと顕著な差がないとし特許保護適格性(101条)が否定された判決(2013年のMyriad最高裁判決に類似)

OPINION by PROST, joined by CHEN and STOLL (Circuit Judges) 
Summarized by Tatsuo YABE 2022-02-28

本事案は101条の特許保護適格性に関する。権利者側のChromaDexNAD(人の基本的な活動に必要な体内物質、但し、加齢とともに減少する)の生成を増強するTRU NIAGEN®というサプリを販売している。本件特許は当該NADを体内で生成するためのダイエットサプリに関し、より詳細にはクレームは自然界に存在するミルク(牛の乳)に含まれるNRを単離したものに関する。NRはビタミンB3の一種であり牛乳などの乳製品に含まれる栄養素で、体内に取り込まれるとNADと呼ばれる補酵素に変換されエネルギー生産やDNA損傷の復旧などに関与することが知られている。地裁において略式判決が認められ、当該単離したNRは自然界に存在するNRと顕著に識別される性質を備えていないとし特許保護適格性が否定された。CAFCにおいて地裁判決が認容された。CAFCによると、クレームされた組成も自然界のミルクも経口服用することでNAD+生成を助長する。権利者側はクレームされた組成は単離されたNRを含み、ミルクに含まれるNRよりもNAD+の生成が顕著になると主張しているが、クレームには単離されたNRの最低服用量を特定していないと述べた。

言い換えると、顕著な性質の違いを生成するのに必要な服用量等をクレームで規定しておくことで保護適格性を維持できたかもしれない。事実、ChromaDexWebsite(以下)にTRU NIAGEN®はミルクに含まれているNRは極微量なので同社のサプリ(30mg)により補給することを宣伝している。

ChromaDexWebsite


(以上筆者)

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■ 特許権者: Dartmouth College (ChromaDexはライセンシー)
■ 被疑侵害者:Elysium Health Inc.,
■ 関連特許:USP 8,197,807  (以下807特許)

出願日:2006420
特許日:2012612

■ 特許発明の概要:
当該特許はダイエット用サプリメントであって牛のミルクより抽出され単離されたニコチンアミドリボシド(NR)に関する。NRはビタミンB3の一種であり牛乳などの乳製品に含まれる栄養素で、NRは体内に取り込まれるとニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)と呼ばれる補酵素に変換されエネルギー生産やDNA損傷の復旧などに関与する。また抗老化分子として知られるサーチュインもNADにより活性化されると理解されている。

■ 代表的なクレーム:
A composition comprising isolated nicotinamide riboside (isolated [NR]) in combination with one or more of tryptophan, nicotinic acid, or nicotinamide,

wherein said combination is in admixture with a carrier comprising a sugar, starch, cellulose, powdered tragacanth, malt, gelatin, talc, cocoa butter, suppository wax, oil, glycol, polyol, ester, agar, buffering agent, alginic acid, isotonic saline, Ringer's solution, ethyl alcohol, polyester, polycarbonate, or polyanhydride,

wherein said composition is formulated for oral administration and increases NAD+ biosynthesis upon oral administration.

■ 経緯:
DartmouthChromaDex(以下権利者と称す)はElysium社を相手に連邦地裁で侵害裁判を起こした。地裁裁判官はクレームで規定するisolated NRを単離されたNR或いはNRの源に関連する要素とは実質的に乖離したものと解釈した。Elysium社の略式裁判の申立てが認められ、地裁は問題となるクレームは101条で規定する特許適格性を満たさないという理由で無効と判断した。

■ 地裁の略式判決:
地裁の略式判決によると当該クレームは自然現象にdirected to(照準を合わせている)している、即ち、牛のミルクから自然に生成されるビタミン(単離された[NR]を含む物質)である。

権利者側は単離されたNR(クレーム)は自然界で生成されるNRとは安定性、生物学的利用性、純粋さ、治療の有効性の面で異なるので101条の特許適格性を満たすと主張したが、それら特徴はクレームに規定されていないとし拒絶した。さらに、NRを経口投与(口から)が可能であるという処方は単に自然法則(特許適格性無)を利用したにすぎないと結論づけた。

上記理由によって当該特許クレームは無効である。

■ CAFCの判断
地裁判決を支持する。

略式裁判は、全ての証拠を被申立人側に有利となるように推定したとしても主要事実に争いがない場合に認められる(法律の適用のみが問題となる場合に認められる)。101条による特許適格性は事実認定を基礎とする法律判断である。米国特許法第101条は以下のように規定:

Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefore, subject to the conditions and requirements of this title.

自然法則、自然現象、及び、抽象的なアイデアは101条の適格性から除外する。Ass’n for Molecular Pathology v. Myriad Genetics (US SUP CT. 2013)

両当事者は以下の事実に同意:

[i] NRは牛のミルク(以下単純に「ミルク」と称する)に自然に存在する。
[ii]ミルクは自然界に存在するもので特許できない(特許適格性無)。
[iii]ミルクにはtrytophanlactose(砂糖)を含有している。
[iv] ミルクに含まれるtrytophanNAD+欠落症の治療に役立つ。

(注:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)はミトコンドリアでのエネルギー産生反応の補因子の一つで、NAD+レベルは加齢とともに低下し、加齢に関する疾患の発症と関連する)

クレーム1の構成要素

牛のミルク

[1p] “A composition comprising”

Milk is a composition.

[1a] “isolated [NR]”

注:ニコチンアミドリボシド(NR

NRはビタミンB3の一種であり牛乳などの乳製品に含まれる栄養素で、NRは体内に取り込まれるとニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)と呼ばれる補酵素に変換されエネルギー生産やDNA損傷の復旧などに関与する。

Milk contains NR, but the NR is not isolated.

 

[1b] “in combination with one or more of tryptophan, nicotinic acid, or nicotinamide”

Milk contains tryptophan and nicotinamide.

注:
tryptophan (トリプトファン:健康維持に欠かせない必須アミノ酸;牛乳に含まれている)

nicotinamide(ニコチンアミド:水溶性ビタミン、ビタミンB群の一つ)

[1c] “wherein said combination is an admixture with a carrier comprising a sugar, starch, cellulose, powdered tragacanth, malt, gelatin, talc, cocoa butter, suppository wax, oil, glycol, polyol, ester, agar, buffering agent, alginic acid, isotonic saline, Ringer’s solution, ethyl alcohol, polyester, polycarbonate, or polyanhydride

Milk is an admixture containing a sugar (lactose).

 

注:lactose (ラクトース、哺乳類の乳に含まれる二糖類)

1d] “wherein said composition is formulated for oral administration”

Milk is formulated for oral administration.

注:経口投与(飲む)

[1e] “and increases NAD+ biosynthesis upon oral administration.”

Milk (through tryptophan) increases NAD+ biosynthesis upon consumption.

注:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、体内でエネルギー産生やDNA損傷の復旧などに関与する。

上記対比表よりクレーム1と牛のミルクとの相違点はクレームではNRが単離されているということのみである。

上記クレームの101条適格性判断に最高裁のMyriad判決及びChakrabarty判決が適用される。

Chakrabarty1980年最高裁判決)においては、遺伝子組み換えによって原油を分解する性質を備えたバクテリアの特許適格性が争点となった。最高裁は僅差(5:4)で当該バクテリアに特許保護適格性を認めた。自然界に存在するバクテリアには原油を分解するというような性質を備えていない。依って、クレームは自然現象を規定するものではなく、人の英知によって特別の性質が付与された自然界に存在しない製造物である。特許権者は自然界には存在しえない顕著な性質を備えたバクテリアを生成し、当該バクテリアは将来重要な利用可能性がある。

Myriad判決(2013年最高裁判決:女性が将来、乳がん、子宮がんになることをかなりの確からしさで予測可能な遺伝子を発見し、その単離した遺伝子をクレームした。いかに当該遺伝子を発見するのが困難であったとしてもあくまで当該遺伝子は自然界に存在するものであるとして101条の特許保護適格性が否定された)の趣旨と同様に、本事案のクレームで規定するNRは自然界のミルクに存在するNRを単離しただけでは特許保護適格性を満たすには不十分である。単離したというだけでミルクに存在するNRと構造的或いは機能的な違いはない。Chakrabartyで判示されたように、適格性を満たすには顕著な性質を備え、重要な利用可能性を備えていることが必要である。自然界のミルクはクレームされた組成(物質)と同様に、経口投与(飲む)によってNAD+を生成することは周知である。

2019年のNatural Alternatives判決(2019CAFC判決)では単離されたβアラニンを用いた特定の処方の特許保護適格性が問題となった。βアラニンは自然界に存在するが当該物質を患者の体質を変える(例えば、筋力増強、持久力向上、運動能力を効果的に向上する)程度に不自然な用量(unnatural quantities)を血液中に投与するという方法クレームは101条の特許保護適格性を有すると判断した。

本事案のクレームは自然界に存在するミルクと顕著に識別される性質を備えていない。クレームされた組成も自然界のミルクも経口服用することでNAD+生成を助長する。権利者側はクレームされた組成は単離されたNRを含み、ミルクに含まれるNRよりもNAD+の生成が顕著になると主張しているが、クレームには単離されたNRの最低服用量を特定していない。

上記したように、最高裁のMyriad判決とChakrabarty判決の「顕著に異なる性質markedly different characteristics」という判断基準によって本事案で問題となるクレームは自然現象にdirected to(照準を合わせているのか)しているのかが判断された。Alice/Mayo判決での2パートテスト(Alice Part 1 and Alice Part 2)は適用されなかった。しかし、仮にAlice/Mayoの基準で判断するとしてもPart 1では、問題となるクレームは自然界に存在する物にdirected toして(照準を合わせて)おり、Part 2では、問題となるクレームはNAD+生成を助長する物質を顕著に超えるものではないため「発明概念」が存在しない。従って、Alice/Mayo基準で判断したとしても問題となるクレームは101条の特許適格性を満たさない。

上記理由によって地裁判決を支持する。
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