K-Fee System v. Nespresso USA, Inc.

20231226

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クレームで要となる構成要素、「バーコード」、が2進化情報のコード「ビットコード」を含むか否かが争点となった。今日の明細書作成に要求される品質ではありえないことだが原出願書類(明細書及び図面)に「バーコード」という用語以上の説明がなかった。唯一、対応するEPのファミリー特許に対する異議申し立てにおける権利者の主張が判断の根拠となった。 

OPINION by Taranto, Clevenger and Stoll (Circuit Judges)

Summarized by Tatsuo YABE  2024-01-06

本事案はカプセルコーヒーの縁に付せられた「バーコード」の解釈に対する判決である。本判決のユニークな点は、本件US特許のファミリーであるEP特許の異議申し立てにおける権利者の主張(反論)が本件US特許の内部証拠(経過書類)として取り扱われた点にある。EPOで権利者K-Feeのメインの主張はクレームの「バーコード」は2進数の「ビットコード」を含まないということだったが(明細書にそのサポートはない)、当該主張と矛盾する記録が多々あったことが本判決を混乱させた理由である。

さらにドイツ発(German Origin:中心限定主義を採用)の明細書によくあることだが本件特許ではクレームに関する記載が5コラムであり、明細書は5コラムと短く、最も肝心な「バーコード」というクレームの文言に対する説明が甚だしく脆弱であり図面においても図番50が付されているだけである。図面を見る限り50は通常のバーコード(幅の異なる複数のバー)とは理解されない。

もし明細書に「バーコード50」が幅の異なる複数のバーで構成されると記載されていればEPでの異議申し立て(D1引例はビットコード(0:1)を開示していた)を掛けられることもなかったであろう。しかしそうであればNespresso相手に侵害裁判も起こせなかったかもしれない。

このような明細書に拘わらずK-Feeは本件発明に対して全世界で75件ほどの権利を取得している。そこまで重要な発明であれば原明細書において少なくともクレームの重要な構成要素に対する説明を明細書で詳述しておくべきだった。明細書作成手順のイロハが欠落していたとしか言いようがない。(以上筆者)

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■ 特許権者:K-Fee System
■ 被疑侵害者:Nespresso USA
■ 関連特許:USP 10,858,176; 10,858,177, and 10,870,531 (以下176, 177, 531特許;或いは3件まとめて「本件特許」とも云う)
■ 上記3件の特許の関連性:
PCT/EP2011/036772011622日)出願を基礎出願とし、継続を繰り返し権利化した特許。
■ 特許発明の概要:
カプセルコーヒー(以下カプセルと称す)の縁にプリントされたバーコード(珈琲の種類に適した温度、水量などの情報を内在するバーコード)に関する。

■ 事件の背景:
特許権者K-Fee3件の特許を基にNespressoに対してカリフォルニア州中央地区連邦地裁で侵害裁判を提起した。Nespressoは非侵害の略式判決を申し立てたところ地裁にて問題となるクレームの「バーコード」の特徴を満たさないという理由で非侵害の略式判決を勝ち取った。同判決を不服としK-FeeCAFCに控訴し本判決に至った。

■ 代表的なクレーム:176特許クレーム1(関連部分のみ)
1. A method of making a coffee beverage comprising:
providing an apparatus including a bar code reader;
inserting a first portion capsule into the apparatus, the first portion capsule including
. . . an opposing bottom side with a first barcode located on the bottom side, . . . ;
reading the first barcode with the barcode reader;
controlling a production process of a first coffee beverage based upon the reading of
the first barcode
;
. . .
inserting a second portion capsule into the apparatus, the second portion capsule including . . . an opposing bottom side with a second barcode located on the bottom side and being different from the first barcode,
. . . ;
reading the second barcode with the barcode reader; controlling a second production process of a second coffee beverage based upon the reading of the second barcode,

■ 争点:
3件の特許クレームの珈琲カプセルの縁にある「barcode:バーコード」の解釈が問題となった。即ち、当該クレームの「バーコード」はNespresso2つの記号のみで構成されるコード「a code having only two symbols」を含むかが争点となった。

■ 地裁の判断:
両者は争点となっている「バーコード」を解釈するにあたり通常かつ一般的な意味合いを適用することに同意したが、その解釈の結果に論争がある。

実は、対応するEP特許(EP3023362:本事案で問題となったUS特許のファミリー)に異議申し立てが掛けられ、EP特許クレームの新規性に対してJarisch引例(D1引例:WO2011/141532)が引用された。K-Feeは当該引例との差異を主張するためにクレームの「バーコード」の通常の意味合いではJarisch引例のビットコードを含まないと反論した。即ち、「バーコード」とは幅の異なる複数のライン(bars)により形成されるもので、Jarischの構成はバイナリー(2進数)による「ビットコード」で形成されていると主張した。K-Feeの反論が認められK-Feeは異議申し立てに勝利した。

FIG. 2 of Jarisch D1引例:WO2011/141532

上記したEPでの異議申し立ての内容(Jarisch引例含む)は本件特許出願審査中にUSPTOIDSされ経過書類に記録されているので、その内容を本件特許の「内部証拠(intrinsic evidence)」とした(本件特許では驚くことに650件以上の先行特許文献とファミリー特許での拒絶通知・異議など150件以上の文献がIDSされている「筆者注」)。

Nespressoは問題となる珈琲カプセルに付されたコード(「Vertuo Code」と云う)はまさにEPの異議申し立てで引用されたJarisch引例のものと同一(2進数のコード)であり非侵害であると主張し、当該主張が認められ地裁は非侵害の略式判決を言い渡した。

Nespressoの関連する製品(注意:被疑侵害品か否かは不明)
Nespresso Vertuo Coffee Pods & Capsules | Nespresso USAより(202417日現在)

■ CAFCの判断
クレームを解釈するうえで地裁は内部証拠のみで判断したので、CAFCは地裁のクレーム解釈には一切拘束されない(de novo基準で審理する)

K-Feeは、地裁が異議申し立て(EP)におけるK-Feeの主張を「内部証拠」として扱ったことに対し反論を諦めたが、米国特許訴訟における「経過書類禁反言」として解釈したことに反論している。Nespressoは当該地裁の判断に同意し、さらに、仮に経過書類の禁反言を構成しないとしても最終結論(非侵害である)は変わらないと主張している。

まず、本事案において「バーコード」という用語は2つの意味合いで使用されることに留意すること。一つは個々のカプセルの縁に他のカプセルと識別できるよう読取り、且つ、判読可能なコードを意味する。2つ目は複数のメッセージを生成する暗号化のシステムという意味である。しかし両当事者はどちらの意味で当該用語を解釈するかは実質的には考慮せずに、「バーコード」とは目視で識別可能な幅の異なる複数の棒(bars)で形成されるものか、それともビットコードを含むのか、それを除外するのかに争点が集中している。 

まず「バーコード」の意味合いを内部証拠に鑑み検討するも、本件特許のクレーム及び明細書には明白に定義されていない。CAFCK-FeeEPでの証言に基づく地裁の判断(「バーコード」を通常の意味合いで解釈すると「ビットコード」を除外する)には反対である。

K-FeeEPOでの主張はNestec社による異議申し立てに対する反論である。NestecJarisch引例を基にEP3023362のクレームの新規性を否定した。Nestecは、Jarisch引例は飲料カプセルを開示しており珈琲メーカーで読み取り可能なコードが付されており、さらに、当該コードは「バーコード」であると主張した。K-Feeは当業者が理解する「バーコード」とは幅の異なる複数の棒で形成されるライン状のコードであると反論した。即ち、「バーコード」とは幅の異なる複数の棒(bars)であり、目視可能で、且つ、複数の棒は2次元の形状であり、長さと幅を持つと述べた。その解釈は、Wikipedia、辞書、常識的な意味においても支持されると反論した。Jarisch引例は2進数の情報(0:1)を示すコードを複数の小さな長方形の面で表現していることを開示しており、これは「ビットコード」であり、「バーコード」ではないと述べた。地裁はK-Feeの上記EPOでの反論を採用し問題となる本件特許の「バーコード」の意味合いであると解釈した。

しかしながら、K-Feeの異議申し立て(EP)における主張には整合性を欠く部分が多々ある。例えば、K-Feeはバーコードとはビットコードでもあり、2進記号の特殊なものであるとも述べている。さらに、K-Feeは、バーコードはビットコードの一分類であるとも述べ、さらにK-Feeの専門家の証言においてバーコードとビットコードが互換性をもって使われており、バーコードとは、即ち、ビットコードの特定のバージョンであると理解されるとも述べている。

さらに、K-Feeは異議申し立て(EP)においてEAN(European Article Number)又はUPC(Universal Product Code)バーコードはクレームの権利範囲に入ると述べている。記録によるとEAN/UPCバーコードは2進数のモジュールに分解され、個々のモジュールは2進数のビットコードで構成されている。

K-FeeEPOにおいて「バーコード」という文言は通常・一般的な意味合いとして解釈すると反論しているが、EPOでの記録にはその解釈と矛盾する箇所が多く、全体として極めて不明瞭である。従って、CAFCK-FeeEPOでの主張がクレームの権利範囲の一部放棄(disclaimer:クレームの「バーコード」は「ビットコード」を除外する)を構成することにはならないと述べた。

従って、地裁の略式判決における「バーコード」の解釈は正しくない。本判決に基づき再度クレーム解釈の上、被疑侵害品を検討すること。

結論:

破棄差戻

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(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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