HIP v. Hormel Foods 2023年5月2日 「成立したA社の特許にB社のメンバーを共同発明者として追加せよ」という訴訟 OPINION by Lourie, joined by Clevenger and Taranto (Circuit Judges) Summarized by Tatsuo YABE – 2023-05-12 |
本事案は25年間CAFCの判決をWatchしていて初めての事案と言う意味でとても興味深い。即ち、「成立したA社の特許にB社のメンバーを共同発明者として追加せよ!」という請求を基に地裁で訴訟が開始され地裁はB社の訴えを認めUSPTOにB社のメンバーを加えて訂正証明書を発行するように命じた。地裁判決を不服としA社が控訴し、本CAFC判決に至った。CAFCは1998年の自身のPannu v. Iolab判決の法理論(発明者の認定基準)に基づきB社のメンバーのA社の問題となる特許クレーム発明全貌に対する貢献がごくわずかであるという理由で地裁判決を破棄した。
問題となった特許の独立クレーム5の第1ステップでは以下のように記載されていた。
5. A method of making
precooked pieces, comprising:
a preheating method selected from a group consisting of a microwave oven,
an infrared oven and hot air;…
a transferring the preheated bacon pieces…
「仮想例」B社のメンバーがinfrared oven(赤外線のオーブン)を使った予熱の方法をA社に教示したことに争いはない。ということはもし以下のような従属クレームを記載していたとすればB社のメンバーは共同発明者になっていたのだろうか?
X. The method of making precooked bacon pieces according to claim 5, wherein the preheating method is the infrared oven.
米国特許出願審査(他国も同様)において独立クレームに新規性と進歩性が認められれば従属クレーム自体の構成要素に新規性と進歩性は要求されない。上記の仮想例の場合にB社のメンバーを共同発明者にしないためには従属クレームXを削除すれば良い。然し、削除しない場合にはPannuテストを従属クレームにどのように適用するのか?その辺りは悩ましいのでさらなる学習が必要である。(以上筆者)
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■ 特許権者:Hormel Foods Corporation (Hormel)
■ 被疑侵害者:HIP, INC (HIP)
■ 関連特許:USP 9,980,498 (以下498特許)
出願日:2011年8月10日 (優先日:Provisional App. 2010年8月11日)
特許日:2018年5月29日
■ 特許発明の概要:
当該特許はベーコン(又は肉片)のPre-Cookingの方法に関し、2つのステップを規定しており第1ステップは予熱で、第2ステップはより高い温度で調理することを規定している。第1ステップ(予熱)をしておくことでベーコン周囲に脂肪の層が形成されるので塩分とうまみ成分を閉じ込めることができる。第2ステップでは高い温度で加熱するもののベーコンが焦げてしまいうま味成分のロスを防ぐステップである。
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全く余談だが筆者はアメリカ出張時のホテルのビュッフェスタイルの朝食が好きだ。その中でもクリスピー(パリパリ)なベーコンが好きだ。スクランブルエッグとパリパリベーコンとコーヒーは最高の朝食だ。何故日本ではこのようなベーコンをあまり出さないのだろうか? |
■ 代表的なクレーム:
上記で述べたようにクレーム1ではベーコンのPre-Cookingの方法を規定し、クレーム5では肉片(meat pieces)のPre-Cookingの方法を規定している。クレーム1の第1ステップの予熱を電子レンジで行い、クレーム5の第1ステップの予熱は電子レンジ、赤外線オーブン、高温気中の何れかで行うと規定している。
Claim 1 |
Claim 5 |
1. A method of making precooked bacon pieces using
a hybrid cooking system, comprising: |
5. A method of making precooked meat pieces using a
hybrid cooking system, comprising: |
■ 事件の背景:
Hormel社は2005年初頭に電子レンジによってベーコンを予熱する調理方法に関するプロジェクトに参入した。2007年7月にHormelは現HIP社の前身であるUnitherm Foods SystemsのDavid Howard氏に面談を申し込み、翌月にはDavid氏とDoorn氏(現HIP)を交えて打ち合わせをした。両社(Hormelと現HIP)はオーブンを使って2段階のステップでベーコンを調理する方法を開発することに同意した。David氏は後に(訴訟)この打合せのときに赤外線による予熱を教示したと述べた。
Hormelは2011年8月に2段階の調理方法に関しHormel社の4名を共同発明者として実出願(non-provisional application)を申請し、2018年に特許となった。
2021年4月、HIP社はHormel社を相手にデラウエア州連邦地裁で訴訟を起こした。訴えの利益はHIP社(元Unitherm社)のDavid氏が本来の発明者であると主張し498特許の共同発明者として追加せよということだ。
■ 地裁の判断:
地裁において陪審を介さずに裁判官はHIP社のDavid氏はクレーム5の赤外線による予熱に貢献したという事実を認め498特許の単一の発明者ではないが少なくとも共同発明者であることを認めた。地裁はUSPTOに対してDavid氏を共同発明者として加えて、Certificate of Correction(訂正証明書)を発行するように要請した。
■ CAFCの判断
上記地裁判決を不服としHormel社はCAFCに控訴し、本判決に至った。Hormel社の主張としてはそもそも赤外線による予熱は周知の技術であること、さらには、HIPはDavid氏を共同発明者であることを証明する挙証基準(明白且つ説得性のある証拠基準)を満たしていない。
発明者の認定は事実審を基にした法律問題である。地裁の事実認定に関しては明白な間違い(clear error)があったか否かで判断する。しかし最終的な法律判断は地裁の判断には一切の重きを置かない(de novo review)。登録された特許に対して発明者を追加するための挙証責任は重い。依って、自称発明者を名乗る者は明白且つ説得性のある証拠で挙証しなければならない。発明者の認定には以下のPannuテストが適応される:
Pannuテスト(Pannu v. Iolab (Fed. Cir. 1998)において以下の3項目の要件で判断する:
[1]発明の着想に重要な貢献をした;[2] クレームされた発明に対する貢献度をその発明の全貌に対して判断し、質的に非重要な貢献であってはならない(クレームの全貌に対して質的にも重要な貢献でなければならない)、[3] 真の発明者に周知の技術概念或いは技術水準を教示する以上の説明をしていること;
上記[1], [2], [3]の何れか一つでも満たさない場合には発明者(共同発明者)にはなれない。
CAFCは、Hormel社の主張「David氏は498特許の共同発明者には該当しない」に同意する。Pannuテストの第2要件、「クレームされた発明の全貌に対して質的にも重要な貢献をしていること」を満たさない。David氏が教示したと主張する赤外線による予熱に関しては498特許明細書のわずかに一か所で記載されているのみであり、クレーム5のマーカッシュタイプの選択肢として一言記載されているのみである。このように、赤外線による予熱の記載が極わずかであるのに対して電子レンジによる予熱に関しては明細書全般に亘って開示されている。さらにSummary of the Inventionのセクションにも電子レンジによる予熱と記載されており、赤外線による予熱は記載されていない。
さらに、498特許明細書の実施例及び対応する図面には電子レンジによる予熱のみが開示されている。事実、赤外線による予熱に対する実施例は存在しない。実施例1~実施例5において電子レンジによる予熱が開示されている。498特許出願図面にも赤外線による予熱は開示されていない、特に図1(以下)には予熱ステップに電子レンジ40が使用されることが明瞭に図示されている。
上記したように、David氏が主張する教示内容(赤外線による予熱)は498特許の明細書、クレーム、及び、図面を参酌すると発明の全貌(電子レンジによる予熱)に対して質的に極わずか(insignificant)であると理解される。依って、David氏は共同発明者ではないと判断する。Pannuテストの第2要件を満たさないことは明らかなのでPannuテストの他の要件に関して判断する必要はない。
結論:
地裁判決を破棄する。
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