USPTO’s Guidance on Inventorship for
AI-Assisted Inventions

2024213
URL LINK

AI支援で生じた発明に対する発明者の認定基準に関する
USPTOによる官報

 Summarized by Tatsuo YABE  2024-02-23

本件はAIシステムの支援によって生じた発明に対する発明者の認定に関するUSPTOの官報である(2024213日公開)。2011年のAIA改正法以前は公開後1年以内に米国出願をするという制限はあるものの米国では「先発明主義」を採用しており、Pre-AIA米国特許法第102(g)項によるインターフェアランスという手続きがあり、複数の出願人との間で先発明を争うということが稀にあった(約1000件に1件程度の割合)。当該手続きにおいて発明を「着想(conception)」と「具現化 *1(reduction to practice)」に分けてその間を「誠実な努力(due diligence)」が継続していれば発明日を着想(conception)の日まで遡及できた。*1「実施化」とほぼ同じ意味。

本ガイダンスではAI支援による発明者の認定に関して、この発明の「着想」に重要な貢献(significant contribution)をしたか否かということが要となる。この着想という重要な文言の定義は本ガイダンスには詳述されていないのでMPEP2138.04を参照されたい。尚、重要なポイントは以下を含む:

「1」AI支援による発明においても発明者はあくまで自然人である。自然人以外を願書で発明者として記載する場合には101条と115条で拒絶となる。
「2」発明者となりうる自然人はクレームされた発明の着想段階に重要な貢献をした人である。発明の具現化(reduction to practice)のみに関わった人は発明者ではない。
「3」予見不能な技術分野(例えば化学)においては、実験を繰り返しているときに予期せぬ段階で発明が生じる場合がある。このような場合には発明の着想と具現化が同時に起こったと解する。
「4」AIシステムによる出力を発明と認識し理解するだけでは発明者にはなれない。
「5」解決課題を認識する、一般的な発明に至る目標設定をするだけでは発明者にはなれない。
「6」AI支援による発明に基づき米国出願をする場合に出願人はPannu判決(CAFC1998年)のPannu要因 (1)~(3)(以下[IV]A参照)に基づき発明者を認定することが重要。

米国特許庁は今後も基本的には願書に記載された発明者を正しいと推定し審査をするであろう。しかし今後はAI支援発明に対する米国出願の発明者の認定に際し、より慎重なアプローチが必要になりそうだ。願書に記載する発明者に問題があったとしても(例:発明の着想段階には一切貢献していないが具現化の段階にのみ貢献したという人を発明者とする場合)審査段階では指摘・拒絶を受けることはないだろう。しかし権利行使の段階になると侵害者の側から発明者の認定不備というカードを突き付けられる可能性がある。従って、Pre-AIAの時代(2011年以前の「先発明主義」の時代)は、発明日を遡及するためにラボノード(発明の着想から具現化の過程を記録する)の重要性が述べられたが、AIA(先出願主義)の時代においても特にAI支援の発明に関しては特に発明の過程(着想から具現化)をラボノート(電子ノート?)に記録を残し、発明者の認定不備という無効理由に対抗できる準備をしておくことが重要になるだろう。(以上筆者)

***********************************************

以下ガイダンスの概要:

[I] 2024213日、USPTOは、AI支援で生じた発明の発明者に関するガイダンスを官報で公開した。

施行日:2024213日(同日以前、同日、以降の全ての米国出願及び米国特許に適用する)
パブコメ(Public Comment)の締め切り:2024513
Federal eRulemaking Portal at www.regulations.gov
(enter docket number PTO-P-2023-0043 on the homepage and select “Search”.)

合衆国行政庁からの指令並びに知財関係者団体からの要請に応えるべくUSPTOAI支援で生じた発明の取り扱い、特に、AI支援で生じた発明に対する「発明者」に関して特許関連の条文、規則、及び、判例法に鑑みUSPTOの見解を述べる。尚、USPTOの審査官は、現審査便覧(MPEP)で本ガイダンスと非整合な場合には本ガイダンスに沿って対応すること。MPEPは追って改訂される。しかし、本ガイダンスには法的効果はない。

[II] 米国特許及び米国特許出願における発明者及び共同発明者は自然人でなければならない。
USPTOはこの表題に関してDABUSDevice for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)というAIシステムを発明者とすることを否定し、バージニア州東部地区連邦地裁にて審決を認容、その後、CAFC(Thaler v. Vidal判決: 2023)において「AIは発明者にはなれない、自然人のみが発明者になれる」と判示された。CAFCは、特許法第100(f)項で規定される発明者が個々人(individual)であること、及び、最高裁(Mohamad v. Palestinian Auth, 2012)において個々人(individuals)の通常の意味は自然人であるという判示を根拠とした。CAFCは発明者が自然人であるとともにその延長線上にある共同発明者も自然人でなければならないと判示した。

[III] AI支援で生じた発明は発明者が相応しくないという理由で特許を否定されることはない。
AIのシステム及び非自然人を発明者として出願をすることはできないが、AIシステムを活用し発明をなしたる自然人はクレームされた発明に対して重要な貢献をしている場合には発明者に該当する。

A. 条文による規定
米国特許法100(f)項によると発明者は個々人(individual)、或いは、100(g)項では共同発明者の場合には個々人(複数:individuals)である。米国特許法第115(a)項で米国出願願書に発明者を記載することを要求している。同願書における発明者の記載に不備がある場合には米国特許法101条及び115条で拒絶される。 

米国特許法の条文の何れの箇所にもAIシステム等のツールの貢献を考慮し発明者を認定するということは一切言及していない。条文としてはAIシステム或いは他の高度なシステムによる発明に対する貢献の度合いに拘わらず、当該発明をなした自然人を発明者とすることを要求している。

B. 裁判所の考え方と方針:
最高裁は特許法における発明の意味とは発明者の着想(inventor’s conception)に関すると判示している。CAFCも同様に発明者の認定において発明の着想が判断の基準(touchstone)であることを明示している。着想は発明者の思考、即ち、精神活動と理解される。発明の着想は心の中で生じるので、それは自然人によってのみ成されるものである。裁判所はこの着想というものが自然人以外のところで行われることには懐疑的である。

そもそも現行特許法の立法趣旨は、人の創意工夫を助長することである。さらに遡及すれば(合衆国憲法の制定時)特許とは人に発明することを奨励することによって科学と有用な工芸を進歩させることである。従って、この人を中心とする行動と貢献に照準を合わせてそれを奨励することが特許法において重要である。 

[IV] AI支援による発明における発明者の認定:
米国特許法では、クレーム(複数)の少なくとも一項に貢献した者は発明者として認定されなければならない。発明者を認定する判断基準はクレームされた発明の着想に貢献したか否かである。さらに、クレームされた発明に「重要な貢献(significant contribution)」をした人を発明者として認定する。 

A. 重要な貢献(significant contribution)とは?
発明を創造する過程において複数人による貢献度を評価する際に以下の点は重要であり、以下の状況であっても共同発明者として出願をすることが可能である: 

(1)物理的に同じ場所、あるいは、同時刻に勤務していない;(2)各々が同程度の貢献をしていない;又は、(3)クレームされた全ての発明主題に貢献しているわけではない。しかし、個々の発明者は発明主題に対し重要な貢献をしなければならない。

この判断をする上で、裁判所は以下の要素を考慮する。即ち、(1)発明の着想、或いは、実施化(具現化)に重要な貢献をする;(2)発明全体としてみた場合に、当該貢献の「質(quality)」は価値のないレベル(insignificant)であってはならない;及び、(3)発明者に対して周知の技術思想、あるいは、現状の技術レベルを説明するという以上のことをしなければならない(Pannu要因と称す: Pannu v. Iolab Corp, Fed. Cir. 1998)。

Pre-AIA2011年以前)時代には特許法第102(g)項によるインターフェアランスという手続き(先発明日を争う)があった。当該手続きにおいて発明に対する着想の日を決定することが要求された。着想の日を決定するにあたり、発明を認識する(recognition)ことと理解する(appreciation)ことが同時に起こることが必要となる。しかし共同発明において個々の発明者が発明を認識し且つ理解する必要はない。少なくとも一人が発明を認識し、且つ、理解しており、個々の発明者が着想に対し重要な貢献をしていることが重要である。

他者が着想した発明を実施するのに重大な貢献をしたというだけでは発明者としては不十分である。上記したPannu要因の(1)で「発明の着想、或いは、実施化に・・・」と言及されたが、同法廷においてPann以前のCAFCの判例において「着想と実施が同時に起こる理論(the doctrine of simultaneous conception and reduction to practice)」を参照し言及したものである。当該理論によると、特定の技術分野(特に予見不能な化学などの技術分野)において発明者は思わぬ成功によって発明が生じる(実施化)ことで発明の着想を成立することが可能となる。Pannu判決の(1)で「実施化」を言及しているのは単にこの理論(the doctrine…)を認識している意味で述べたにすぎず、発明の「実施化」によって発明の「着想」が十分に成立されることを示唆しているわけではない。

AI支援による発明において、AIシステムを活用し発明を成す自然人はPannu要因に鑑みその発明に重要な貢献をする者でなければならない。そもそもPannu要因は複数の発明者によって生成される発明の場合に適用されるが、AIシステムを活用し一人(自然人)が米国特許法における発明者となる場合には当該発明に対して重要な貢献をしていなければならない。

発明者となる者(自然人)はクレームされた発明主題の全てに貢献することは要求されないが、少なくとも一人の発明者がクレームの何れかに重要な貢献をしなければならない。従って、AIシステムを活用し一人が発明をなす場合にはクレームされた全ての発明主題に重要な貢献をしなければならない。特許出願において、自然人の重要な貢献に関与しないクレームは101条、及び、105条の下に拒絶となる。

Pannu要因を考慮しながらAI支援による発明の発明者を決定することは、事案ごと、クレームごと、及び、事実関係によって判断されなければならない。USPTOの立場として、基本的に出願願書或いは宣誓書に記載された発明者(共同発明者)は米国特許法の下に正しい発明者であると推定する。しかし、USPTOの審査官及び他の職員が発明者を決定する場合には出願書類及び外部証拠を考慮のうえ慎重に検討しなければならない。規則1.487条または規則1.324条に基づき発明者を訂正することは可能ではあるがAI支援の発明に重要な貢献をしていない人を発明者として加えることはできない。

今日のAI支援による発明に基づく特許出願件数の増加傾向に鑑み、出願人は出願願書(或いは米国特許)に記載する発明者がクレームされた発明に重要な貢献をなしたかをPannu要因を考慮の上慎重に検討しなければならない。

B. 判断するための基準
AI支援による発明の真の発明者を決定するのは容易ではない。依って以下に検討事項をまとめる: 

1.AI支援によって発明をなしたことによってその人(自然人)は発明に貢献していないとは判断されない。要はAI支援により生じた発明に重要な貢献をしたのであれば米国特許法による発明者に該当する。

2.解決課題を認識すること、または、一般的な目標を設定すること、あるいは、リサーチを計画することのみでは発明の「着想」というレベルには達しない。

3.発明の実施化をなしたというだけでは、米国特許法で云う発明者に要求されるレベルの発明に対する重要な貢献にはならない。AIシステムによる出力を認識し、且つ、理解したというだけでは発明者としては不十分である。しかしAIシステムによる出力に対して重要な貢献をしたうえで発明をなした者(自然人)は発明者となりうる。或いは、AIシステムの出力を利用し実験を繰り返した人は、発明が実施される(生まれる)まで発明の着想を成立できなかったとしても、発明に対して重要な貢献をしたということを証明できるであろう。 

4.クレームされた発明主題を導くに至る重要(不可欠)な基礎を構築した者(自然人)はクレームされた発明主題の着想に重要な貢献をしたと理解されるであろう。例えば、特定の解決課題に対する解決手段を導くためにAIシステムを設計、構築、或いは、訓練した人(自然人)は発明者に該当するであろう。

5.AIシステムを知的に支配(管理)しているというだけでその人はAIシステムを活用し生じた発明の発明者になれるとは限らない。従って、発明を生成するために活用するAIシステムの所有者であるというだけでは発明者にはなれない。 

[V] 運用(タイトルのみ、内容略す)

A. 本ガイダンスを意匠出願及び植物特許出願に適用する場合;
B. 出願人のUSPTOに対する開示義務;
C. 発明者の記載;
D. USPTOからの情報開示の要請;
E. 発明者の宣誓書
F. 出願人と権利者
G. 先願から優先権

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

References:

MPEP2138.04 “Conception”

Conception has been defined as "the complete performance of the mental part of the inventive act" and it is "the formation in the mind of the inventor of a definite and permanent idea of the complete and operative invention as it is thereafter to be applied in practice…." Townsend v. Smith, 36 F.2d 292, 295, 4 USPQ 269, 271 (CCPA 1929). "[C]onception is established when the invention is made sufficiently clear to enable one skilled in the art to reduce it to practice without the exercise of extensive experimentation or the exercise of inventive skill." Hiatt v. Ziegler, 179 USPQ 757, 763 (Bd. Pat. Inter. 1973). (以下略す)

"Conception(発明の着想)"は「発明行為の精神的部分を完全に実行すること」と定義され、「それが後に現実に適用されるときに、作動する発明の明確で恒久的なアイデアを発明者の心の中で形成することである。Townsend v. Smith (CCPA 1929) 発明が十分に明確になり、広範な実験を行うことなく、または発明的な技能を行使することなく、当業者が実践に移すことができるようになった時、発明の「着想」は成立する。Hiatt v. Ziegler (Bd. Pat. Inter. 1973)

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

Home