Personalized Media Communications (PMC) v. Apple 2023年1月20日 出願審査手続きの遅れ(懈怠)により権利行使不能 OPINION by Reyna, joined by Chen; Dissent by Stark (Circuit Judges) Summarized by Tatsuo YABE – 2023-02-01 |
本事案は特許権者の出願審査段階における出願人の手続き対応の著しい遅れによってラッチス(懈怠)が認められ、権利行使不能と判断されたケースである。以下に示すように権利者PMCの原出願はなんと1981年で、GATT批准日(*)の前日まで継続出願が繰り返され2012年5月29日に権利化された。本特許の権利期間は2029年5月29日に満了する(原出願から40年以上経過)。
(*)1995年6月8日:GATTによるウルグアイでの知財関係の貿易交渉(TRIPS)で合意した日
米国特許法はGATTの批准日(1995年6月8日)に改正され、同日以前に出願された米国出願より権利となった米国特許の権利期間は登録日より17年で同日以降の出願ではその権利期間は出願日より20年となった。尚、出願公開が始まったのは2000年11月29日以降の出願なので1995年6月8日以前に出願日を持つ米国特許は継続出願を繰り返せば何十年もの間公開されることなく静かにPatent Pendingの状態を維持できる(所謂サブマリン特許の時代)。まさにそのような出願でごくごく最近になってAppleが提訴されたというのが一つ驚きである。
地裁において陪審は侵害を認め日本円で約450億円の損害賠償という評決に至った。しかし評決後に地裁裁判官はAppleの訴え(出願審査における懈怠により権利行使不可)を認める判決を下した。PMCは控訴するもCAFCの多数意見では地裁判決が支持され権利行使不能となった。しかしSTARK判示による反対意見があり、即ち、AppleはPMCの出願審査段階での対応の遅れによって被害(損害)を被ったことを挙証していないということだ。
多くの実務者は、Lemelson特許の時代(サブマリン特許の時代)は既に終わったと思って気を緩めている。そんなときに本事件のようなことが起こる。地裁判事は裁量権を行使し衡平法に基づき陪審の評決(450億円の損害賠償額の認定)を取り消し、控訴審で地裁判決が支持された。Appleは幸運であった。(以上筆者)
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■ 特許権者:Personalized Media Communications (PMC)
■ 被疑侵害者:Apple
■ 関連特許:USP 8,191,091 (以下091特許)
出願日:1995年6月7日
特許日:2012年5月29日
■ 特許発明の概要:
当該特許はインターネット上で視聴可能な音楽・ビデオなどを違法にダウンロードすることを禁止するソフトウェアに関し、当該091特許ではその手法を規定している。
■ 背景:
2015年、PMCはAppleを091特許侵害としテキサス州東部地区連邦地裁に提訴した。陪審による事実審において、AppleのFairPlayというソフト(iTunesで視聴できる音楽を違法にダウンロードできないようにするソフト)は091特許を侵害していると判断し、陪審員は妥当な実施料ベースを考慮しUS$308M(現在の為替で約425億円)の損害賠償額の支払いを命じるという評決に至った。その後に陪審を除外する裁判官によるベンチトライアルによってPMCの出願審査中における対応の遅れはラッチス(懈怠)に相当するとし091特許を権利行使不能であると判断した。PMCは地裁判決を不服としCAFCに控訴した。
■ 地裁の判断:
PMCの出願審査段階における対応は以下の理由(事実)により懈怠を構成する。依って、091特許は権利行使不能である。
「A」出願人による審査の遅れ(不合理で、且つ、弁明の余地がない遅れ)
「1」本事件はごく最近のCAFC判決、Hyatt v. Hirshfeld (Fed. Cir. 2021)の事実関係と酷似している;
「2」PMCは328件のGATTバブル出願(1995年6月8日より前の米国出願の権利期間は特許発行日より17年、以降の出願は出願日より20年)を実施した(Hyattも同様に381件のGATTバブル出願を実施)。328件の出願は2件の先願より継続出願されたものである。それぞれ500ページを超える明細書と22ページに及ぶ図面があり、各出願では請求項は1項しかない。さらに審査段階においてクレームが補正され、ときには他の出願のクレームと同じ文言のクレームに補正された。最終的には20000項にも及ぶクレーム数となった。
「3」PMCは原出願から8年~14年掛かって後の継続出願を実施し、少なくとも16年経過した後に今回問題となった091特許のクレームに補正された。
「4」USPTOは審査を一時停止させたこともあるが、これは一重にPMC側の対応の遅れに起因している;
「5」PMCは自身の発明或いは審査とは殆ど関連性がない先行技術文献を含め著しい数の公報をIDSとして提出した;
「6」Hyatt事件におけるHyattの審査段階での対応との唯一の違いは、PMCはUSPTOとConsolidation Agreement(審査効率化のために関連出願を統合して審査してもらえるようにするための同意書)を交わした点にある。即ち、Aグループの出願とBグループの出願に大分類してAグループから先に審査をするということである;しかしこのAgreementはPMCの不合理なビジネス戦略の一環として行われたものである;
「7」PMCはGATT批准日(1995年6月8日)以前から、PMCの特許の権利期間を延長するために先の出願の審査を早期に進め、権利化される前に継続出願をするという明白な出願戦略ポリシーを持っていた。当該出願戦略によると、自社の技術を隠した状態で他社の製品を静かに観察し、特許出願の技術が他社の市場製品に深く浸透し、簡単な設計変更では侵害を回避できない状況となったときに出願を権利化することである。
「8」2002年7月18日、USPTOはPMCの要請により、091特許の親出願08/485,507を別出願08/474,145に対応するBグループの出願として審査することを許可し、507出願の審査を一時保留した。PMCは2003年2月4日に145出願のクレームを大幅に補正した(プログラミングをプレゼンする方法から暗号化されたプログラミングを解読する方法に変更)。その後、関連性のある複数の特許(PMCの特許)の再審査が数年係属し2009年に再審査が一段落した。再審査が終わって145出願の審査が再開され、暗号化プログラムの解読という補正クレームは拒絶されPMCはさらにクレームを大幅に補正し、最終的には145出願は権利化された。PMCは507出願のクレームに拒絶された145出願で拒絶されたクレームを補正で追加した。どういうわけか507特許も権利化され2012年5月29日に091特許となった。
091特許の原出願(その後一部継続出願があるので明細書の内容は大幅に追加されている)は1987年であり、その権利期間は2012年から17年なので2029年となる、実に原出願から40年を超える。
上記事実に鑑みPMCの091特許の出願審査の遅れの原因はPMCが意図的且つ戦略的に遅らせたという以外に合理的な説明はつかない。PMCの行為は米国特許制度を意図的に著しく濫用したと判断される。従って、Laches(懈怠)の第1要件は満たされたと解する。
「B」PMCの出願審査の懈怠に起因するAppleの損害
「1」PMCが091特許のクレームに相当するクレームを最初に追加したのは2003年の前にAppleは既に侵害とされたFairPlayシステムの開発に着手していた;
「2」091特許は2012年に権利となった(AppleのFairPlayが侵害の対象となる製品として市場に出て7年が経過している)。PMCが審査期間を延ばした理由はPMCの技術を隠した状態で権利期間を可能な限り延ばし、特許出願の技術が他社の市場製品に深く浸透させようというPMCの策略によると理解される。
「3」上記戦略(策略)による審査の遅れは当然Appleの損害の原因となる。
上記理由「A」と「B」によってPMCの出願における懈怠が成立し091特許は権利行使不能と判断する。
■ CAFCの判断
出願審査における懈怠に対する地裁の判断に関してCAFCは地裁裁判官に許可された裁量権の濫用があったか否かで判断する。Cancer Research
Tech v. Barr Labs (Fed. Cir. 2010) 地裁裁判官が法の適用を誤った、或いは、明らかに事実誤認があった場合に裁量権の濫用となる。SiOnyx
LLC v. Hamamatsu Photonics (Fed. Cir. 2020)
出願審査における懈怠(Laches)は衡平法による救済であり、その起源は1900年初頭に遡る。出願人の審査段階における行為は特許審査制度を著しく濫用する場合には出願審査における懈怠によって特許は権利行使不能となる場合がある。当該懈怠を成立するには以下の2つの構成要素を挙証する必要がある:
「A」審査過程の全体を見渡して(totality of circumstances)出願人の審査段階での手続きの遅れが不合理で且つ弁明の余地がない;
「B」出願人の手続きの遅れによって被疑侵害者が被害(prejudice)を被った;
多数意見 by Judge REINA, joined by CHEN
「A」及び「B」に対する地裁判決を支持する。「A」に関しては地裁の事実認定を支持している。「B」に関してCAFCは以下のように補足している:
PMCは、FairPlayが市場に出た2003年以降にPMCが著しく悪質な出願審査の対応をしていたことをAppleは挙証していないと反論している。しかし地裁の事実認定においてPMCは1995年から本訴訟が提起される2015年の間にわたって戦略的に不誠実な行為を行っていると判断している。2011年当時、PMCはAppleと訴訟を提起する前段階の交渉中であったにも拘らず、PMCは145出願で拒絶されたクレーム(「暗号化されたプログラムを解読する方法」)を507出願(091特許の出願番号)に再度追加した。当該交渉中にPMCはその事実をAppleには伝えなかった。PMCは当該クレームを早期に権利化しAppleを侵害で訴え損害賠償額を得ることが可能であったにも拘わらず2003年以降も可能な限り出願審査を隠し、問題となる技術が技術分野に深く浸透且つ拡散するのを戦略として実行していた。
2003年をFairPlayが市場に参入された年として「B」を判断する基準日となっているようだが実際にはAppleは2000年には開発を始めて2003年にFairPlayをAppleのミュージックストアで使用を開始した。仮に、PMCの出願審査の手続きの遅れが2003年で終わっていたと仮定しても、2000年~2003年の間にAppleは開発費を投資しており、この開発費の損害はPMCの懈怠に起因することは間違いない。
地裁の判決を支持する。
反対意見 by Judge STARK
「A」に関しては地裁判決を支持するも「B」に関する地裁判決には反対意見を述べている。STARK判事は特に2000年~2003年の間におけるPMCの審査手続き(多数意見が「仮に・・・2003年で終わったと仮定して・・・」)に注目して、この期間にAppleが問題となる091特許クレームの審査の遅れが原因となって損害を被ったことが挙証されていないと述べた。
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