Mosaic Brands v.
Ride Wallet URL LINK OPINION by Stark, joined by Newman and Prost;(Circuit Judges) Summarized by Tatsuo YABE – 2023-01-23 |
そもそも略式裁判の申立てが認められるには、重要な事実関係に対する実質的な争いがない(no genuine issue as to any material fact)ことを略式裁判の申立人が証明しなければならない。尚、特許を訴訟において無効にするには高い挙証責任(明白且つ説得性のある挙証基準)での証明が必要となる。この高い挙証責任は無効を主張する側にのみ課せられる。さらに略式裁判で特許を無効にするにはさらに挙証基準は高くなる。即ち、提示される証拠を、特許権者側に最も有利に解釈したとしても、当該証拠は新規性を阻害する明白且つ説得性がある(それ以外ではない)と事実認定者が認定するレベルでなければならない。
本事件ではそもそも申立人が主張する販売行為が本当にあったのかという事実認定に関して疑わしい点が多々あったに拘わらず略式裁判が認められた。予想される通り控訴審で当該申立人の証言とその証拠の信頼性が十分に審理されていないということで地裁判決を破棄差戻した。(以上筆者)
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■ 反訴での特許権者:Ridge Wallet
■ 反訴での被疑侵害者:Mosaic Brands
■ 関連特許:
US Patent No. 10,791,808 (808特許)
米国出願14/706,019(2015年5月18日に出願)を基礎とするCIP出願15/421,596(2017年2月1日に出願を経て2020年10月6日に808特許成立。
■ 特許発明の概要:
コンパクトサイズの財布(米国ではマネークリップと称する:31と37の間でお札を保持する)に関する。カード(1)等を挟む一対の剛性体のプレート(10)と弾性体のバンド(4)で上側に開口するように構成され、別体のマネークリップ(30)の係合部(33)が当該プレート(10)の内側面に形成された凹部(34)にはめ込むように構成されている。
808特許の図11と図13:
■ 背景
そもそもの始まりは、Mosaic社のマネークリップ(SMCII)とRidge社の製品(マネークリップ)の構造は略同一であり、それを知ったMosaicが自社のUSP7,334,616特許を基にRidgeを相手に侵害裁判(カリフォルニア中央地区連邦地裁)を起こした。訴訟提起数か月後にRidgeの特許USP10,791,808が発行されたのでRidgeはMosaicを相手に反訴を提起した。反訴に対してMosaicは808特許の無効、及び、Ridgeの不公正行為(SMCIIを周知していたはずなのでIDSしなければならなかった)によって権利行使不能であると抗弁した。尚、MosaicとRidgeとの間でMosaicの616特許には争いがないことに合意した(非侵害)。MosaicはRidgeの特許は新規性喪失により無効、及び、Ridgeの不公正行為により権利行使不能とする略式判決を求めた。RidgeはMosaicの推定するトレードドレスを無効とする略式判決を求めた。
地裁はRidgeの808特許はMosaicのSMCIIの販売行為によって特許は無効(新規性喪失)であると略式判決を下した。しかし、Mosaicの不公正行為に関しては略式判決の申立てを認めなかった。さらにMosaicの推定するトレードドレスは機能的であり二次的な意味を持たないという理由で無効の略式判決を下した。
■ 争点:
地裁が略式裁判の申立てを認めたことは正しいのか?略式判決の申立て人が提示した証拠の信憑性は審理されたのか?そもそも証言者の信頼性(credibility)は審理されたのか?
■ CAFCの判断
地裁の記録を見る限りMosaicが主張するSMCIIが808特許の先行技術になるか否かに関して重要な事実関係の認定が必要である。
そもそも略式裁判の申立てが認められるには、重要な事実関係に対する実質的な争いがない(no genuine issue as to any material fact)ことを略式裁判の申立人が証明しなければならない。合理的な陪審員が評決を被申請人に差し戻すような場合には事実認定に論争がある。無効の略式判決を求める申立て人は無効という事実を証明する明白且つ説得性のある証拠(合理的な陪審員が合意できる証拠)を提示しなければならない。
SMCIIが808特許の先行技術になるか否かを判断するにはSMCIIが808特許の出願日の一年以上前に販売されたことを挙証しなければならない。
上記を証明するための証拠の大半はSMCIIの発明者であるKaminski氏の証言(2011年に既に販売されていた)によるものである。Kaminski氏は2011年にSMCIIの販売が開始されたと宣言書で証言し、同証言を裏付けるために以下の証拠を提示した:
[a] 2010年10月19日からのSMCIIの設計計画(図面)
[b] 2011年のトレードショーでSMCIIが販売されたことを示すインボイス;
上記の証言と証拠に基づき地裁裁判官は略式裁判にてSMCIIはRidgeの808特許の出願日の1年以上前(Critical Date)にMosaicがSCMIIを公に使用・販売していたと判断した。しかしこれらKaminski氏の証言と証拠は、事実認定者の全てがCritical Dateの前にSMCIIが販売されていたという事実を認定するための明白、且つ、説得性のある挙証基準を満たしているとは言えない。Kaminski氏の証言が信頼に値すると判断されたときにのみこれら証拠が意味をなす。
RidgeはKaminski氏の証言の信ぴょう性に疑義があると主張し、以下の理由で信憑性を攻撃した:
[1] Kaminski氏の証拠(Invoice)の日付は簡単に変更できる;
[2] 2011年以降、その当時にSMCIIに相当する画像が存在しない;
[3] 2012年~2019年に掛けて販売の記録がない;
[4] Kaminski氏は証言することで利益を享受できる(バイアスが掛かっている);
[5] 提出された証拠に関わるメタデータが存在しない;
[6] Kaminski氏の証言に対し第3者の裏付けがない;
[7] RidgeはCEOであるKane氏(当時の同技術分野の市場を知る)の証言(2019年まではMosaic社のことは聞いたことがない、さらに当該製品SMCIIはそれまでに販売されていない)を提示した。Kane氏の調査によるとMosaicはSMCIIを2019年に販売したと理解される。地裁はこの証言を考慮しなかった。
Ridgeの特許を訴訟において無効にするには高い挙証責任(明白且つ説得性のある挙証基準)での証明が要求される。この挙証責任はMosaic側にのみ課せられる。さらに略式判決で特許を無効にするにはさらに挙証基準は高くなる。 即ち、提示される証拠を、Ridge側に最も有利に解釈したとしても、当該証拠は新規性を阻害する明白且つ説得性がある(それ以外ではない)と事実認定者が認定するレベルでなければならない。Mosaicはこの高い挙証基準を満たしていない。
上記理由によりSMCIIが808特許の新規性を阻害するか否かの判断を地裁に差し戻す。
上記のように地裁の808特許が無効であるとした略式判決を破棄するので、不公正行為に対する略式判決も破棄差戻しとする。
結論:
地裁略式判決を破棄・差戻す。