Plastipak v. Premium Waters

20221219

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OPINION by Stark, joined by Newman and Stoll;
(Circuit Judges) 

Summarized by Tatsuo YABE  2023-01-10

本事案は発明者の認定に関する。権利者Plastipakは米国に本拠地を置くボトル(容器)の製造販売会社であり本事案ではペットボトルのネック部に関する12件の特許(単一のPre-AIA米国出願から派生)を所有している。Plastipak社の発明者は、出願段階の前まではイタリアに拠点を置くSACMI社(主にFalzoni氏)と共にボトルのネック部の設計情報のやりとりをしていた。PlastipakSACMI社との交渉を中断した後に出願し12件の特許を獲得した。同12件の特許を基に競合社Premium社を相手に侵害裁判を起こした。被告PremiumPre-AIA102(f)項の下にFalzoni氏(SACMI社)が共同発明者であるのに12件の特許に発明者としてリストされていないとして無効を主張した。本来であればFalzoni氏及び権利者側の発明者(Darr氏とMorgan氏)の主張及び証言を事実審においてそれらの信憑性を判断するべきところ被告Premium社の略式判決の申立てが受理され、Falzoni氏は本来共同発明者であったとし地裁において問題となった12件の特許を無効と判断された。本事件においてCAFCは略式判決を受理したこと自体が不当であるとし地裁に破棄差戻した。

Pre-AIAの時代(2013316日以前に有効出願日を持つ米国出願より権利化された米国特許)Pre-AIA米国特許法第102(f)[*1]によって、発明者ではないものを発明者とすることで無効理由を構成した。しかし発明者の誤記訂正(削除・追加)は権利発効後も再発行出願等によって治癒できるので本来は被告にPre-AIA102(f)項による無効理由のカードを使わせることなく回避できた。然し、本事案では米国特許出願前まではFalzoni氏(イタリアのSACMI社)とPlastipakの発明者との間でボトルネックの設計情報を交換するなど良好な関係にあったが、同出願前にライセンス交渉が決裂したことで発明者の誤記訂正などの小手先対応での治癒ができなくなった。

しかし2011年の法改正(AIA: America Invents Act [*2])によってAIA102条の条文から(f)項は抹消された。依って、AIAにおいて発明者が問題となるのは米国出願の有効出願日前1年以内の公開が発明者、共同発明者によるものかというAIA102(b)(1)(A)[*3]がある。より実質的に発明者が問題となるのは先願と後願の状態にあるときに先願が冒認出願の疑いがある場合にPTAB(審判部)における「冒認手続き:Derivation Proceeding [*4]」がある。但し、Pre-AIA時代のInterference手続きと同様冒認手続きの件数は殆どない。

或いは、上記シナリオがAIA2013316日以降の有効出願日を持つ米国特許)で起こった場合で、もし仮にPlastipak社がFalzoni氏(SACMI社)の設計情報を盗用し出願し権利化し、後にSACMI社が米国市場に自社のペットボトルを輸出しPlastipakに侵害訴訟を提起された場合には、SACMI社はPlastipakの行為は甚だしく悪質であるという理由で権利行使不能とすることも可能であろう。勿論、Plastipak側が出願に際し瑕疵があることを部分的にでも自認している場合には当然SACMI社との間でSACMI社に有利になるような契約を交わすことになるだろう。(以上筆者)

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■ 特許権者:Plastipak Packaging

■ 被疑侵害者:Premium Waters

■ 関連特許:
12件の特許全ては2006316日に出願されたUS App 11/368,860を基礎とし2007516日のCIP出願 US App 11/749,501から派生した特許である:
大きく2分類される:

「1」X-寸法が0.580 inch以下という特徴を規定(以下X寸法特許7件)
USP 8,857,637; 9,033,168; 9,139,326; 9,522,759; 9,738,409; 9,850,019; 10,023,345;

「2」TEFが非連続であるという特徴を規定:(以下TEF非連続特許5件)
USP 9,139,326; 9,403,310; 10,214,311; 10,266,299; 10,457,437
TEF (Tamper Evident Formation [*5]): 

原出願日:2006316
CIP出願日:2007516

■ 特許発明の概要:
上記12件の特許は所謂ペットボトルの構造に関し、特に、そのネック部16の構造を特徴としており、1点は中身が開封されたか否かを示すTEF 28(Temper-evident-formation)であり、2点目はボトルのトップから支持フランジ18(リング)までの距離Xが所定値以内(軽量化のため)であることを特徴とする。



■ 代表的なクレーム(637特許クレーム1):
因みに、最初に登録となった637特許ではネック部16のリング18の下面までの距離Xが0.580インチ以下(14.73cm以下)であることを特徴している。出願審査で拒絶されるも審判において当該特徴は自明ではないと判断され、後に権利化された。
1. A plastic preform for making a blow molded container, comprising:
a closed bottom portion;
a lower portion extending upwardly from the bottom portion;
a neck portion extending upwardly from the lower portion; the neck portion including a support flange having an upper and lower surface; a tamper-evident formation, and a dispensing opening at the top of the neck portion, the dispensing opening having an inner diameter that is at least 22 mm;
wherein the vertical distance X from the dispensing opening to the lower surface 22 of the support flange 18, including threads and the tamper-evident formation, is 0.580 inches or less.


■ 背景
Plastipak
はペットボトルに関する上記12件の特許(但し、全ては2013年以前に有効出願日を持つのでPre-AIAが適用される)を所有しておりDarr氏とMorgan氏がそれぞれの権利の共同発明者と記載されている。20201月、Plastipakは競合Premium社を相手に侵害裁判を起こした。

PremiumはイタリアのSACMI社のFalzoni氏も共同発明者であるにも拘わらず12件の特許証にFalzoni氏の名前が無いという理由でPre-AIA102(f)項に基づき無効を主張した。ビデオ通話によるデポジション(証言録取)でFalzoni氏は自身が上記12件の親出願が行われる前のPlastipak社とのやり取りを述べ、Falzoni氏自身も上記12件の特許発明の着想と具現化の段階に関与したと証言した。これら証言を基に、連邦地裁の裁判官は略式判決の申し立てを認めFalzoni氏は共同発明者であったとしPre-AIA102(f)項の下に上記12件の特許を無効と判断した。

当該略式判決を不服としPlastipakCAFCに控訴した。

■ 争点:
Falzoni氏を共同発明者に加えず権利化したことによって12件の特許を無効とした地裁の略式判決は適切であったか?

■ 地裁の略式判決:
SACMI社はイタリアに本拠地を置く製造会社であり、主流製品の一つにペットボトルがあり、その設計及び製造をしている。SACMI社は同ペットボトルのデザインの基本を持ち、ユーザーのニーズ(SPEC)に合致するように詳細寸法・形状を調整する。2005年~2006年に掛けてSACMI社のFalzoni氏とPlastipak社のメンバーはボトルのネック部のデザイン(SACMI社のML27プロジェクト)に関して意見交換をしており、2005613日、Falzoni氏はPlastipak社のDarr氏に以下の3Dモデル(写真)をメイルで送信し、これを基にPlastipak社の希望する設計を加えるように指示をした。

 

上記3Dモデルにおいてリングの位置は明示されていない。

同日付でPlastipak社から以下の図面をFalzoni氏に送信し設計製造の可否をFalzoni氏の確認を要請した(以下図においてX寸法は0.591 inchと表示されている)。



SACMI
社とPlastipak社はやりとりを継続しており、X寸法を0.631-0.641に増大する設計案も提示された。然しながら、200511月にSACMI社の社内会議においてX寸法を0.5787とする実施形態が示された。然しながらSACMI社のFalzoni氏はこの実施形態をPlastipak社には知らせなかったようだ。その後しばらくして2006年初頭にはSACMI社とPlastipak社とのやり取りは途絶えた。20063月にはDarr氏とMorgan氏の2名を発明者として特許出願がされ、12件の権利が成立するに至った。Falzoni氏の証言を基にX寸法特許及び非連続TEF特許の共同発明者になるのかに関しては当事者間での争点となった。この事実に鑑みながらも、被告Premiumの略式裁判の申し立てを地裁は認め、Falzoni氏は少なくともX寸法特許及び非連続REF特許に対する共同発明者であると判断した。

■ CAFCの判断
そもそも略式判決の申立てが認められるには、重要事実に対する論争がないことを略式判決の申請人が証明しなければならない。合理的な陪審員が評決を被申請人に差し戻すような場合には事実認定に論争がある。

本事件において適用される法律はPre-AIA米国特許法第102(f)項である。発明者でない者は特許を受けることはできない。発明者の認定は事実関係を基礎とする法律問題である。

共同発明者となるには、同人物は
[1] 発明の着想或いは具現化に対して重要な貢献をした;
[2] 発明の全体の広さに対する貢献の度合いを算定するにおいて、質の面において重要な貢献ではければならない;及び
[3] 実際の発明者に対して周知技術の概念・周知技術を説明する以上のことを為さねばならない。
Pannu v. Iolab Corp (Fed. Cir. 1998)

上記要件が満たされていながらその人物を共同発明者に加えていない場合には、その特許は共同発明者欠落という理由で無効となりうる。発明者の認定はクレーム毎に判断するのであって、そのクレーム一つに関しても共同発明者が漏れている場合には特許は無効となる。Egenera Inc., v. Cisco Sys. Inc. (Fed. Cir. 2020)

被申請人Plastipak社に対して最も好都合に証拠を解釈したとした場合に、合理的な事実判断者(例:陪審員)は被告Premium社の主張に疑義を唱えるであろう。従って、我々(CAFC)は、地裁で提示された証拠には重要な事実論争が存在するので地裁での略式判決は不当であると判断する。

地裁での証拠によるとFalzoni氏がX寸法特許に重要な貢献をしたか否かに論争がある。被告Premiumが依拠する証拠は唯一Falzoni氏が提供した3Dモデルであるが、当該3Dモデルにはリング(フランジ)に相当する部材が明示されていない。もしPremium社がFalzoni氏の証言、その証言を裏付けるSACMI社の他の設計者の証言、及び、Plastipak社のDarr氏とMorgan氏が疑わしい時期にSACMI社とのランセンス交渉を破棄し、特許出願をしたという事実を挙証できればPremium社の主張が認められるかもしれない。

地裁での証拠によるとFalzoni氏が非連続TEF特許に公知技術を超える技術貢献があったかに関して重要な事実論争がある。Plastipakの提示する証拠によると非連続なTEFという構造は周知でありFalzoni氏が仮に非連続なTEF構造の着想に貢献したとしても共同発明者とはなりえない。非連続なTEF構造に関しては特許を取得する上で新規な特徴であったのかに対しても両当事者間においても疑義が生じている。

被疑侵害者Premium社の方が過剰なまでの証拠を提示し112(f)項の下に無効を主張しているのに対して権利者Plastipakの提示した証拠が少ないという理由で合理的な事実認定者がFalzoni氏を共同発明者にいれるべきだったと結論づけることにはならない。さらに、CAFCは発明に対する着想の有無が発明者を認定する上での試金石であると判示してきたが、背景技術を説明しているのみでは発明概念に貢献したことにはならない。然しながら、着想に実際に貢献したものか、それとも単に発明の過程に貢献したのかを見極めるのは容易ではない。本事案において発明概念に貢献したか否かを判断する上で重要な事実認定が必要であり、地裁で提示された証拠では事実認定者がどちらの当事者に好適な判断を下してもおかしくない。Falzoni氏がDarr氏にX寸法を開示していなかったのか、或いは、Falzoni氏は従来技術にある不連続なTEFにのみ関与したのか事実審によって判断する必要がある。従って、地裁が本件を事実審せずに略式裁判で判断したことは不当である。

結論:
地裁略式判決を破棄・差戻す。                                                                                                                

References:

[*1] Pre-AIA 35 U.S.C. 102(f)
“A person shall be entitled to a patent unless…
(f) he did not himself invent the subject matter sought to be patented”

[*2] 但し、AIA102条の条文の施行日は2013316日であり、同日以降に有効出願日を持つ米国特許に適用される。

[*3] AIA 35 U.S.C. 102(b)(1)(A)
(b)Exceptions.—
(1)Disclosures made 1 year or less before the effective filing date of the claimed invention.—A disclosure made 1 year or less before the effective filing date of a claimed invention shall not be prior art to the claimed invention under subsection (a)(1) if—
(A)the disclosure was made by the inventor or joint inventor or by another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor

[*4] 冒認手続き (Derivation Proceeding)
A derivation proceeding is a trial proceeding conducted at the Board to determine whether (i) an inventor named in an earlier application derived the claimed invention from an inventor named in the petitioner's application, and (ii) the earlier application claiming such invention was filed without authorization. An applicant subject to the first-inventor-to-file provisions may file a petition to institute a derivation proceeding only within 1 year of the first publication of a claim to an invention that is the same or substantially the same as the earlier application's claim to the invention. The petition must be supported by substantial evidence that the claimed invention was derived from an inventor named in the petitioner's application. The procedure for derivation took effect on March 16, 2013.

[*5] 蓋が既に開けられていないことをユーザーに知らせる構造(新品のボトルであればその蓋を開口するときにクリック音或いは手に感触が伝わるような構造となっている)

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(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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