Vanda Pharmaceuticals判決に基づく

審査官への101条関連Memorandum [2018-06-07]

Summarized by Tatsuo YABE 2018-06-30

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101条の現状(201867日時点):

暫くの間、101条審査に関して沈黙していた米国特許庁(以下USPTOと称する)が4月に101条の特許保護適格性審査に関する2件のMemorandumを審査官に通知した(28日にUSPTODirectorに就任したIancuの旗振りによるものと考える)。その後、413日のVanda判決*(治療方法に関するクレームの101条保護適格性を判断した)を基に67日に3件目のMemorandumを審査官に通知した。*Vanda Pharmaceuticals Inc. v. West-Ward Pharmaceuticals (Fed. Cir. 2018-04-13)

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2018年6月7日のメモランダムで、特許庁はVanda判決(2018413日)を基に101条審査に言及した。Vanda判決で問題となった特許USP8586610のクレーム1で、統合失調症の患者をイロぺりドン(投薬)で治療する手法を規定している。イロペリドンという薬は心臓の自然のリズムを乱す(QTc Prolongationと言う)原因になる場合があり、CYP2D6による代謝機能が低い患者には一日当たりの投与量を12mg以下に抑えることを規定している。  

注意:CYP2D6による代謝機能が欠損している人とは、肝臓において薬物代謝を担う酵素であるCYP2D6の薬物代謝機能が欠乏している人を意味する(小林由佳弁理士より学習)。

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Vanda特許クレーム1の概要:

統合失調症で苦しんでいる患者に対しイロペリドンを用いて治療する手法:

[a] 患者がCYP2D6代謝欠損者であるか否かを判断するために生物サンプルを取得する;

[b] 患者の遺伝子がCYP2D6代謝欠損遺伝子タイプか否かを当該サンプルを用い遺伝子解析によって決定する;

[c-1] CYP2D6代謝欠損遺伝子タイプの場合にはイロペリドンの投与量を一日当たり12mg以下とする;

[c-2] CYP2D6代謝欠損遺伝子タイプではない場合にはイロペリドンの投与量を一日当たり12mg24mgとする;

[d] [c-1]の患者にイロペリドンの投与量を12mg以下にすることでQTc prolongation(心臓の鼓動が乱れる)のリスクを軽減できる。

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上記クレームでは“特定の病気(統合失調症)を治療するために、患者の生体サンプルを採取し、遺伝子のタイプを分析し、遺伝子のタイプを決定するステップと当該タイプを基にして薬の投与量を決定し投与するというステップを規定している。発明者は、イロペリドン、CYP2D6代謝機能、とQTc長期化(QTc Prolongation)との相互関係を認識したが、それらの関係を規定しただけではない。発明者は当該相互関係の適用をクレームしたのである。依って、最高裁のMayo判決とは異なり、本発明では治療に携わる医者にイロペリドンの投与量を管理することを要求している。従って、CAFCVandaの特許はUSPTOのステップ2AAliceのパート1)で「クレームは特許保護適格性を満たさない主題を対象としているか?」でNOと結論づけた(即ち、claim is not directed to a judicial exception)。

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CAFCが上記結論(即ちVanda特許のクレームは特許保護適格性あり)に至った理由は大別すると以下の3点に要約される:

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1CAFCは、一般的であろう遺伝子分析と治療のステップを規定したクレームを全体として解釈し、Vanda特許のクレームは患者の遺伝子のタイプとQTc Prolongation(心臓の鼓動リズムが乱れる)との関係を対象とするものではないと結論づけた。 クレームの構成要素の全体を考慮し、USPTOのステップ2Aの判断をすることが重要であるということは先のCAFC判決、Finjan判決Core Wireless判決によっても強調された。(201842日付けPTOのメモランダム参照)

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2Mayo判決で問題となった特許のクレームはチオプリン(thiopurine)という薬を患者に投与することを規定しているが、クレーム全体としてそれは当該薬を特定の病気を治療するために適用するということを対象としていない。言い換えるとMayo判決のクレームは自然法則を現実的に適用するという治療方法をクレームしていない。

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3USPTOのステップ2AAliceのパート1)においてクレームは保護適格性を有すると判断されたのでUSPTOのステップ2BAliceのパート2)の判断をする必要はない。

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考察(筆者):

以下のように今回のPTOのメモランダムの基礎となったVanda判決の特許クレームとMayo合衆国最高裁判決で問題となったクレームとを比較すると、プレアンブルの違い(Vandaは治療方法とMayoは治療効果の適正化)、方法クレームで生じる効果(Vandaではイロペリドンの投与量を適正にすることで心臓の鼓動が乱れるリスクを軽減する、Mayoでは治療効果を上げること)の違いが理解されるが、共に患者の代謝の状態を検査し、薬の投与量を設定するという点、及び、治療対象となる病名の特定と治療薬の特定という観点(Vandaではイロペリドンを使って統合失調症の治療、Mayoはチオグアニンを使って免疫性胃腸疾患を治療する)では非常に類似していると理解される。Vanda判決が2:1のSplit Decision101条の保護適格性が認められたということからもこの事件が他の3人の裁判官で判断されていたなら違う判決に至った可能性も十分にあったと思える。

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今回の判決を受けて薬学系の特許出願クレームにおいてはプレアンブルを「・・・の治療方法」と記載することが重要そうである。

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Vanda判決で争点となった

8586610号クレーム1の概要は以下の通り:

Mayo合衆国最高裁で争点となった

6355623号クレーム1の概要は以下の通り:    

統合失調症で苦しんでいる患者に対しイロペリドンを用いて治療する手法:

[a] 患者がCYP2D6代謝欠損者であるか否かを判断するために生物サンプルを取得する;

[b] 患者の遺伝子が CYP2D6代謝欠損遺伝子タイプか否かを当該サンプルを用い遺伝子解析によって決定する;

[c-1] CYP2D6代謝欠損遺伝子タイプの場合にはイロペリドンの投与量を一日当たり12mg以下とする;

[c-2] CYP2D6代謝欠損遺伝子タイプではない場合にはイロペリドンの投与量を一日当たり12mg24mgとする;

[d] [c-1]の患者にイロペリドンの投与量を12mg以下にすることでQTc prolongation(心臓の鼓動が乱れる)のリスクを軽減できる。

免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法であって、    

[a] 免疫介在性胃腸疾患を有する人に、6-チオグアニンの薬を「投与するステップ」、および

[b] 前記免疫介在性胃腸疾患を有する人における6-チオグアニンのレベルを「決定するステップ」を有し、 

  前記6-チオグアニンのレベルが、8×10**8赤血球当たり約230 pmol未満の場合には、その後のドラッグ投与量を増加する必要性を示しており、且つ、  

  前記6-チオグアニンのレベルが、8×10**8赤血球当たり約400 pmolを越える場合には、その後のドラッグ投与量を減少する必要性を示していることを特徴とする。 

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Claim 1 of USP 8,586,610

Claim 1 of USP 6,355,623

1. A method for treating a patient with iloperidone, wherein the patient is suffering from schizophrenia, the method comprising the steps of:
    [a] determining whether the patient is a CYP2D6 poor metabolizer by:
obtaining or having obtained a biological sample from the patient;
and
    [b] performing or having performed a genotyping assay on the biological sample to determine if the patient has a CYP2D6 poor metabolizer genotype; and
    [c-1] if the patient has a CYP2D6 poor metabolizer genotype, then internally administering iloperidone to the patient in an amount of 12 mg/day or less, and
    [c-2] if the patient does not have a CYP2D6 poor metabolizer genotype, then internally administering iloperidone to the patient in an amount that is greater than 12 mg/day, up to 24 mg/day,
    [d] wherein a risk of QTc prolongation for a patient having a CYP2D6 poor metabolizer genotype is lower following the internal administration of 12 mg/day or less than it would be if the iloperidone were administered in an amount of greater than 12 mg/day, up to 24 mg/day.

1. A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immune-mediated gastrointestinal disorder, comprising:

 

    (a) administering a drug providing 6-thioguanine to a subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder; and

 

    (b) determining the level of 6-thioguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder,

 

wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8*10<8>red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and

 

wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8*10<8>red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently administered to said subject.

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(1) US Patent Related 

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